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火曜日


火曜日の17時。昨日と同じ時間、昨日と同じ河川敷の階段に、昨日と同じ二人が同じ格好で座っている。

河口近くの独特な潮の匂いが、高い茂みの向こうから漂ってくる。


「じゃあ加藤はー?」


 赤いマフラーの那須が退屈そうに、後に座っているサトテルに声をかけた。


「どっちの?」


 サトテルはスマートフォンを眺めながら面倒臭そうにこたえた。


「アホ。タクヤは男やろ。ユカリや。ユカリちゃん」


「無し」


「なんで?」


「鼻尖りすぎ。刺さりそう。あの鼻に」


「キッスするときにか?」


「……ルセーよ」


「キシシ。じゃあさ、じゃあさ、加藤……か、き、菊池は?」


「彼氏いんだろ」


「え!? 嘘!? 何でお前知っとるん!?」


「何でもいいだろ」


「え、好きだったん? 菊池のこと好きだったんサトテル」


「ちげーよ」


「じゃあ……き、く、け、」


「クラスにはいねーよ」


「え、違うクラスにおるん?」


「……いねえよ」


「……え、お前まさか、ソッチの気あるん? わし相談のるで」


 身を乗り出す那須に、サトテルは右手の中指を立てた。


「万が一俺がソッチでもオメエにだけは相談しねえ」


「じゃあサトテルは誰が好きなんよ!?」


 那須はサトテルの右手を払った。


「だから、いねえっつってんだろ。興味ねえの」


「え……」


 身を乗り出していた那須は、今度は若干サトテルから距離をとった


「お前は賢者さんですか? ……だってありえへんやん。俺ら今青春のど真ん中やで。

 ……お前まさか本気でワシのこと……」


 サトテルは、足元の砂利を蹴って、那須にぶつけた。

夕日が傾き、街灯の周りを蝙蝠が飛んでいる。


「なー。つまんねーよーサトテルー。……お前ほんと女っ気ないのな」


「悪かったな」


「ヤダヤダ。非モテ。知っとる? 非モテって伝染するんやで?」


「じゃあどっかいけよ」


「嫌やここワシの場所やんか。お前がどっかいけ」


「いつからお前の場所になったんだよ」


 二人の間に、空っ風が吹き、二人の言葉を川まで押し流した。

那須は寒そうに口元をマフラーで隠した。


「ホント、お前とおると、人生つまらんって感じる事あんねん。わし」



 那須にそう言われてサトテルは流石に傷ついた。那須にだけは、その言葉を言わせたくなかった。

大きなため息と共に、溜め込んでいた言葉を吐いた。


「お前はさぞかしモテるんだろうな。……改造人間みてえな体してんだから」


「何が」


「……」


 サトテルは思わずバツが悪そうな顔をした。今の発言を後悔したのだ。

痣だらけの体という切実なコンプレックスを突かれた那須は、真顔でサトテルを睨んだ。


「オイ、コラ。お前今のは言わない約束ちゃうんか」


「……んな約束してねえだろ」


 少しの沈黙の後、那須は舌打ちをして、足元の砂利を拾ってサトテルに投げつけた。

サトテルは、那須の背中を軽く蹴った。

冷たい川風が、背中を撫でる。


「さむ。もう5時過ぎてんじゃん」


サトテルが、川の音に紛れるほどの小声で呟いた。


「何やねん。何が言いたいん?」


「……別に」


「お前ここにおって寒い思いしとんの、ワシのせいみたいな言い方しよったやんか」


「言ってねえだろ」


「そう聞こえるように言ったやろ! お前な、前から言いたかってんけど、

 言いたいことがあるならはっきり言えや! そういう遠回しなアピール発言すんのやめろ!」 


 那須にそう言われると、サトテルはついに頭に血が上り、


「オメエがずっとやってることだろ!」


 と言った。言ってしまった。


「…… ……かっちーん。ワシもう怒ったで。絶交や。

 お前、二度とここに来んなや」


「来ねえよ。お前も明日から学校にくんな。きても俺に話しかけんな」


「誰が悲しゅうて非モテとつるまなアカンねん。お前も学校来んな。死ね」


「るせえお前が死ね」


 また強めの川風が吹いて、二人の言葉を遠くに運んでいった。

二人は立ち上がり、別々の方向に歩いて行った。

ほとんど沈んでいる夕日が、同じ方向に二人の影を引き伸ばしている。




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