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月曜日



「それで、何の話やったっけ」




 月曜日。17時の荒川。首都高七号線と、小松川大橋に挟まれた川沿いの階段に、二人の男子校生が座っている。



 赤いマフラーをした少年が、斜め後でスマートフォンをいじっている少年に話しかけている。

話しかけられた少年は反応しない。

赤いマフラーは、返事が返ってくることを諦めて、勝手に話を続けた。


「せや。人妻や。わし思うねんけど、昼下がりに自宅の外で洗車しとる人妻って、エロない?」


 赤いマフラーは振り返ったが、斜め後ろの少年は見向きもしない。


「聞いとんの? おいサトテル」


「んー?」


「ワシだけ下世話な話して。馬鹿みたいやないけ」


「……んー」


 サトテルと呼ばれた少年は、赤いマフラーの少年、那須の関西弁が嫌いだった。

那須が東京の下町生まれの下町育ちで、下町から出たことが無いのを知っているからである。


「なあ! 一人にせんといてよ!」


「……何がエロいって?」


「だから、洗車してる人妻がよ。なんちゅーか、清楚感ちゅーか、忠義心ちゅーか。

 そこから滲み出る仕草がさ、エロない?」


 ついでにサトテルが嫌いなのは、那須が分かりきった嘘をつき通そうとするところである。

『親が転勤族で、地方を周ってたらコトバがおかしくなった』

と、初対面に対して必ず言う嘘が嫌いだ。

元々は陰キャのくせに、無理して陽気に振る舞おうとした結果、那須は『エセ関西弁』と『下ネタ』を覚えた。

サトテルはそのどちらも嫌いだ。


「羨ましいのう。ワシも洗車されたいねん」


 那須は遠い目で荒川を眺めた。と、赤いマフラの内側を掻き出した。


「痒」


 サトテルはそこでようやく那須の方を見た。


「……汗疹か?」


「ちゃうねんて。……痒いとこに手ぇ届かんわ」


 サトテルは大きくため息をついて、那須の後に回り込んだ。


「どこだよ」


「背中んとこ。ごめん掻いてーな」


 サトテルは那須のマフラーを解いた。那須の首の後には、大きくかさぶたになってる傷跡がある。

切り傷ではない。刺し傷である。


 首の後ろだけではない。那須の背中には大きな火傷の跡。脇腹にも、蹴られた痕のような痛々しい痣がある。

サトテルは、那須のこう言うところが一番嫌いだった。


 言いたい事があるなら言え。痛いならそう言え。苦しくて辛いなら俺に面と向かって言え。

サトテルは那須に対してずっと念じていた。


 那須の家庭事情は複雑である。

母親が、聞いたこともない名前の宗教団体に入り、愛想をつかせた父親はさっさと愛人を作って消えてしまった。

今は父親から送られてくる手切金が主な収入源だが、それも宗教に吸われてしまう。だがアルバイトは、母親から禁止されているらしい。

それを自分では言おうとしないで、無言でアピールしてくる那須のそういう態度が、サトテルは大嫌いだ。

疼く自分の傷を、友人に掻かせて見せびらかせてくる態度が。


「あんがと。サトテル」


「……んー」


「なあ。ワシら来年、高3やんか」


「んだよ突然」


「卒業しても、ワシらこうやってつるむんか?」


「知らねよ」


「多分、大人になってもつるむんやろな。お互い結婚して、娘を小学校とかに通わせて、

 爺さんになってもお前と一緒におるんやろうな」


「……それが何だよ」


「思うんよ。大人になったら逆に縁を切る方がしんどいねんて」


「そうなの?」


「大人って色々しんどいわー。だってさ、」


 那須は、サトテルの顔を正面から見る。顔が夕日で赤く染まっている。



「わし、お前の事嫌いやんか」


 そう言って那須は、欠けている前歯を大きく見せて笑った。


「……お互い様だ」


 サトテルは那須に中指を立てた。

風を運ぶ荒川の音が、河川敷に響いた。


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