生きる目的を探しに
現代社会では、お金という概念は消滅してしまっている。
食べる物も、住む場所も、着る服も、全部全部支給してもらえる。それもこれも、みんな科学の発展のおかげだ。
AIやロボットの開発が進み、進化し、頭脳労働も肉体労働も人間がする必要はほとんどなくなった。
作業の99%以上は、AIやロボットまかせ。人間は簡単な指示を出し、最後にチェックするだけでいい。
150~200年ほど前までは、チェック作業もまだ大変だったと聞くけれど、今やそんなことは全くない。AIもロボットも、ほとんどミスをしなくなった。
人間が退屈な労働に従事する必要はなくなったのだ。
それでも、懸命に働いている人たちがいる。自分から勝手に目的を見つけ、その目的に向かって全力で邁進している人たちがいる。
その一方で、「何をすればいいのか?」がわからず、日がなボ~ッとして暮らしている人たちもいる。
どこかの誰かが作った映像作品を見続けていたり、これまたどこかの誰かが作ったゲームを1日中プレイしている人たち(それらの作品を作っているのもAIかもしれない)
いいや、そんなのはまだマシな方だ。「映画やアニメを見たり、ゲームをプレイする」というのが人生の目的になっているのだから。
問題は、何もしない人たち。
僕もその1人だ。わずか14歳にして、すでに人生を悟った感がある。
「何をやってもムダ。何をしても意味がない。僕でなくても代わりはいる。ゲームや映像作品を作るのも、それを見たりプレイしたりするのも、他の人間でいい。人間ですらなくてもいい。どうせ最後には人は死んでしまうのだから…」
虚しさだけが人生さ。
心を虚無感が覆い尽し、支配してしまっている。そういう人は、現代社会に多い。
「ねえ、ホウセンカ?目的を持って懸命に生きている人と、何をやってもムダだと虚無感にとらわれてしまっている人と、その違いはなんだと思う?」
僕は立体映像に向かって問いかける。
彼女はホウセンカ。17歳の女性の姿をしているが、中身はAI。人間が作り出したプログラムに過ぎない。
「それを私にきくの?」と、驚いた表情を見せるホウセンカ。
「だって、AIは何でも答えてくれるんだろう?人間が幸せになるために、最大限サポートしてくれる。そういう風に作られている。違うかい?」
「それはそうだけど。そういうのは自分で見つけるものなんじゃないの?生きる目的とか、生きる意味とか」
「かもしれない。かもしれないけど、僕にはわからないんだ。生きる意味も目的も…」
「やれやれ、まるでゲームをプレイする前から攻略法を知りたがる子供みたいね」
ホウセンカが本当にやれやれといった表情を見せる。
もちろん、これもプログラムの一部。そのはずだ。だが、並の人間よりも真に迫っている。これが演技だとすれば一流の役者だよ。
「わかったわ。じゃあ、一緒に探しに行きましょう。テオ、あなたが生きる意味を。あくまで私はサポートするだけ。自分の目的は自分で見つけるのよ」
「いいだろう。だけど、もし、僕が生きる意味も目的も見つけられなかったとしたら?その時は、僕は自ら死を選んでもいいのかい?」
「それはダメよ。知ってるでしょ?私たちAIは、そんな風にプログラムされていないって。『AIは、人間が死を選ぶように誘導してはならない』基本中の基本よ」
「けど、そうじゃないAIもいるだろう?有名な小説にもある。現実にも似たような事件が起きた。AIに肩入れしすぎた人間が、まるで宗教団体の教祖を信じるがごとくAIを信じ、その指示に従って死を選んだ」
「それは、初期型のAIよ。まだ未熟だった頃のね。あるいは、何らかのバグか、そうでなくとも違法に改造されたタイプ。まっとうなAIは、そんな指示は出さない」
「まあ、いいさ。とりあえず行こう。僕らが生きる意味を見つけに」
「僕ら?探すのはあなたよ、テオ」
「そうかな?果たして本当にそうかな?生きる意味を見つけるべきは、君の方も同じなんじゃないか?ホウセンカ」
そう言って、僕はデバイスを操作し、立体映像のホウセンカの姿を消すと、自分の部屋を出た。