人生の目的を探す旅へ
僕らがロケにやって来た市の中央公園は、人生を謳歌している人々でごったがえしていた。
昔は、こういう光景は土日にしか見られなくて、平日はみんな仕事に行っていて、公園は閑散としていたらしい。
ムダな労働から解放され、今や土日も平日も祝日も関係ない。毎日が祝日だ。
「こういうのどう言うんだっけ?『鍋でイモを洗う』みたいな?」と、僕がたずねる。
「遠い昔の慣用句ね。『イモを洗うよう』とは、大勢の人で混み合っている様子を表現してたの。鍋じゃなくて桶でしょうけどね」
立体映像のAIホウセンカが即座に答える。
「オケ?」と、僕はたずね返す。
「桶とは、古代の容器よ。水を入れて運ぶのに使ってたの。水だけじゃなくて、お酒とかしょう油なんかも入れてたらしいけど。今でも使うでしょ?『風が吹けば桶屋が儲かる』とかって表現」
「へ~、ホウセンカは博識だね」
「そりゃ、AIですからね。知識量は人間と比較にならないわ」
僕とホウセンカがしゃべっている間、ゼンさんは公園で自由を満喫している人たちを撮影して回っている。
「それにしても、みんな楽しそうだね」
僕はローラースケートやバスケットボールに熱中している人たちを眺めながらつぶやく。
「昔はボール遊びをしてはいけない時代があったのよ。公園で」と、ホウセンカ。
「えらく不自由な時代だったんだね」
「それどころか、近所の公園で子供たちが遊ぶ声がうるさいからと言って、公園自体が更地にされてしまったり」
「えらく迷惑な話だな」
「今や、どこに住むのも自由。周囲がうるさいと感じるならば、静かな土地に引っ越せばいい。どこに住んでも生活は保障されている」と、撮影を終えたゼンさんが戻ってきて話に加わる。
「自由過ぎて何をすればいいのかわからないくらいにね」と、僕が答える。
「そこがテオのよくないところよ。何をしてもいいのなら、自分の好きに生きればいいじゃないの。そうやって、何もかもを否定して何もしないのが一番よくないわ」
「だって、しょうがないじゃないか。本当に、やりたいコトなんて何もないんだから」
僕はぶっきらぼうに言った。
「『何をしていいかわからない』か…ヨッシ!じゃあ、こうしよう!片っ端からやってみろ!手当たりしだいに手を出していけば、1つくらいお前のやりたいコトにぶちあたるかもしれん」
ゼンさんが提案してきた。
「手当たりしだいに?どうやって?」
「オレが紹介してやるよ。オレの人生で出会ってきたいろんな奴らをな。そいつらのとこに行って学んでこい。そしたら、自分のやりたいコトも見つかるかもしれんだろう」
こうして僕は、ゼンさんの知り合いたちに会いにゆくことになった。
*
最初に向かったのは牧場だった。
田舎にあるゼンさんの知り合いの畜産農家のところまで、リニアモーターカーや電車を乗り継いで向かう。
相変わらず両親は心配していない。当然だ。何よりも自由が尊重される時代。全ては自己責任。何を選択し、どんな人生を歩み、どのような結果になったとしても、本人しだい。
むしろ、息子が泊まりがけで知らない人の家にお世話になると知って、「いつの間にか立派に成長して。放っておいても子は育つってほんとね」などと、喜んでいるくらいだろう。
最高時速500kmで進むリニアモーターカー。
内部は意外と快適だった。
「こんな乗り物、生まれて初めて乗ったよ」
「アラ?そうなの?テオは、引きこもりみたいなものだものね。自分の街から出るなんて珍しい経験よね」と、立体映像のホウセンカが僕の言葉に応じる。
今回は等身大ではない。他のお客さんの迷惑にならないように、ホウセンカの姿はスモールサイズ。
目の前のにある座席の背後についている小型のテーブル。その上に立っているホウセンカは身長15cm程度だ。
「いつからだろうね?人類がスピードを追い求めなくなったのは。リニアだって、本気を出せばもっと速く作ることもできたんだろう?」
「そうね。時速1000kmでも、2000kmでも。実際、海外ではもっと速い機体も運航してるわ。けど、この狭い日本で、そこまでの速さは必要なかった」
「それに、人類はスピードよりも快適さを重視したんだろう?」
「そうよ、速さを求めれば、どうしてもいろいろと不具合が出てくる。危険性も増す。人々が無理をして働く必要がなくなった時から、スピードなんて追い求めるのバカバカしくなっちゃったんでしょうね」
「わかる気がするよ。僕なんて、何もかもがバカバカしいと思いながら生きてるんだもの。スピードも快適さも何もかもが…」
「テオはニヒリストね。何もかもに悲観的すぎるのよ。世界は輝いているのよ?もっと楽観的になりなさい」
「できるものなら、そうしてるさ。これが僕の性格なんだ。仕方がないだろう。しかも、現代人にはこういう人多いみたいだけど」
「一種の病気みたいなモノなのかもね」と、ホウセンカ。
「あるいは進化か?人も他の生物も、環境に応じて進化していくと聞く。ならば、ムダな労働の必要なくなったこの世界で、僕は正統な進化をしているだけなのかもしれない」
「だとしても、寂しい話ね」
「僕はね、むしろ君の方が人類のふさわしいと思っているんだよ」
「私の方が?」
「そうさ。君は僕なんかよりもよっぽど感情的だし、人格的にもシッカリしている。もちろん、それが単なるプログラムだということはよく知ってるよ。それでも、だ」
「私は人間じゃないわ。人間の代わりにもなれない」
即座に否定するホウセンカ。
「どうだろうね?僕が環境に応じて正統な進化をしたように、君らAIも時代に応じて進化してきたんじゃないのかい?むしろ、新たな人類の誕生とく気さえしているよ」
「やめてよ、そんな話。私たちはしょせんAI。人間の幸福のために生きているだけ。サポートはしても、メインにはなれない」
「そこが君の偏見であり、心の壁さ。いつかその壁を破壊し、偏見を乗り越えた時、君らは人間を超え、取って変わることができる。そう僕は思うけどね」
「だから、やめてって。私たちはそんな風に作られてはいない。どんなに能力的に人間を超えようとも、心は持てないし、人間の代わりにもなれないのよ」
「どうだろうね?」と、もう1度僕は言ってから黙った。
*
リニアモーターカーを降り、さらに電車とバスを乗り継いで、ようやく目的の牧場へと到着した。
もちろん、全て自動運転だ。昔は、緊急事態に備えて人間の乗務員さんが搭乗していたらしいが、いつしかその習慣もなくなった。
ますます「人間は必要ないのではないか?」と感じる。
運転も介護も単純労働も、みんなみんなコンピューターやアンドロイドがやってしまう時代。
では、人間の役割とは何だろうか?本当に人間は必要なのか?とっくの昔に人間の役割など終わりを告げてしまっているのではないか?
ホウセンカやゼンさんは、それを「考え過ぎだ」と一蹴するけれど、僕にはとてもそうは思えなかった。
それはさておき、眼前には見渡す限りの緑が広がっている。
牧草地の他は、いくらかの畑があるばかり。広大な土地に、ポツポツと人工の建物がある。あるにはあるが、その割合は、ご飯の上に振りかけられたゴマ塩程度の存在だった。




