オシカーク四角田仙鬼
オシカークこと四角田仙鬼は鬼と人との間に生まれた。鬼をはじめ人型の魔物の大方は異世界人に改造されたこちら側の人間だ。よって生殖行為を行えば遺伝子的に子はできる。
父、角田某は死角田と呼ばれた武士の源流で鬼堕ちしても執念を持って愛する女を一族を守り抜いた。やんごとなき姫君だった母も異形の父を受け入れ子をなした。怪異が現実と共存していた時代だ。彼らのプロフィールは珍しいものではあったが、特別なものではない。
裏の歴史で言えば、滅びかけたこの国が再び国家として整備され始めた時のことだ。周期的に接近していた異世界との境界が遠のき前線である境界線が押し戻された。
そんな平安時代から千年経った今も、わずかではあるが、徐々に遠ざかっている。だが、敵の脅威は変わらない。彼の仕事は特殊な異世界門を守りながら侵入してきた異世界からの脅威を排除することにある。
仲間であり、恩師と呼べる男から託された場所だ。彼は時代に合わせてスタイルを変え決して形骸化しない秩序と組織を作り上げてきた。少しいびつな性格は千年放置された結果なので致し方ない。
「今更色々言うつもりはないが、俺は退屈で死にかけている。どうにかしろ。」
「もう少し我慢しなさい。しばらくすればユキがやってくるわ。」
「いや、まずはお前だ。疫病神め、聴雪の女としてふさわしいか俺が試してやる。」
「何、女子高生に向かってエロいこと言ってるのよ。ヘンタイ。」
「茶化すのはやめろ。」
ふん、面白みのない男とか、悪態をつきながら夏目は寺の侍従から木刀を受け取る。
いきなり寺の中庭まで車を乗り付け、広間まで押し入るように侵入した。夏目とオシカークは互いに罵り合いながら二人の間に経過した時間を埋めていく。そして、当然のように試合い始めた。
ルールは攻撃魔法はなし。バフ、デバフはあり。時間は三時間。(夕食まで)傷つけるのではなく、互いを高めるための試合と言う事だ。
だが、始まった戦いはそんな生易しいものではなかった。
ルーゼは勿論、シエリにも彼等の剣先が見えなかった。身体の動きを目で追いかけ、ぶつかり合う一瞬だけ夏目の剣とオシカークの槍が止まって見える。
木製の得物とは思えない金属音が鳴り響き。重ね掛けされてゆく身体強化と武器強化、さらには相手の魔法を無効化しようとするデバフがパチパチと音を立て弾き返されている。
やがて硬い玄武岩の壁や柱、天井が床までも彼等の斬撃で削られてゆく。
「総合力では貴方の方が上だと言われてるのよ。」
「今の俺では勝てるイメージがわかないな。」
まあ、そうだろうとパオワのルーゼは思う。ダートーサ達、複数の魔道士との戦いを想定して練り上げてきた今のシエリには難しいだろう。
元々のタイプも異なるものだ。将軍や元帥と呼ばれてきたシエリとグルガン族の魔導を軸とした女戦士集団ルグワン•トリエ(たてがみのリボン)族長エブリン•エクスローズ、数万、数十万の軍を操る彼等の胆は用兵だ。
対して原野聴雪、夏目は強者相手に特化した少数精鋭の局地戦闘士と分類される。聴雪のもたらす特殊能力は別として個の力に重点を置く。
綺麗事ではないが、彼等が戦うことはない。彼らが争う、すなわち人類の滅亡だと互いに理解しているからだ。
自由教団はチベット系密教らしきモナステリーだが多数の女子の姿も見える。暗殺教団の裏の顔を隠しもしない集団。幼い子供から幅広い年代で教祖であるオシカークの定める教義である”仏の前に自由と平等”をある意味享受してるのだろう。
信仰心があれば腹が膨れる“ふざけるな”と大声をあげて抗議する者達がいそうな言葉だが。夏目は彼らしいと思った。柔軟に世相を時代を取り込んできた。千年の孤独を癒すために多くを受け入れてきた結果なのだろう。しかし、女の姿が目立つ。確かにお世辞抜きに美しいと呼べる男だ。
彼を見てゲスな想像をするならば、母親が鬼を受け入れたことも納得ができる。父親は、鬼に堕ちてもさらに美しかったと伝わっている。偏執的ではあるが性格も穏やかだ。
巨大な寺院だ一個人の力で維持できるようなものではない。愛されているのだろう。
試合にあたって罠が仕掛けられていた。足を滑らしたり、体が突然重くなったり、日陰から日向に出た瞬間、あるいは突然暗がりに視界を閉ざされたり、強風が吹いたり。
自然界では起こりうる。ありとあらゆる障害が想定されて、この広間には、ばら撒かれていた。柱の影から心配そうにこちらを伺っている侍女達の仕業だろう。未熟な魔女がやりそうなことだ。夏目は彼の修練の過程を押し測りながら試合を進める。
身体、武器の強化を削ってみるが、上手くかわされていく。鬼眼を発達させたのだろう。下手くそだった魔力制御も充実している。千年の時間を無駄に過ごしていたわけではないようだ。
この時代は終わりかけている。何度も味わってきた焦燥感が夏目を苛立たせる。果たして次はあるのだろうかと。文明は頂点を越え傾き始めた。ああ、こんなことが許されるのかという非常な出来事が常に起こり、人の心が痛みに慣れていく。
夏目はいきなり木刀をオシカークに投げつけ試合を放り投げた。
「何か面白くない、あなた退屈退屈なんて騒いでるけど愛されてるじゃない。」
くよくよ悩むのは自分のスタイルをないので、夏目はとりあえずオシカークに八つ当たりをした。貴重な時間をこの男と費やしてる暇はない事を思い出す。
「三人の流れ人が辿り着いて居るはずよ。連れてきなさい。」
驚いた顔のオシカークは一人の侍従に振り返る。放っておくように命じた彼だが寺の者達がそんなことをするとは思っていない。
「男二人は持ち直す兆しがありますが、女は残念ながら。」
夏目は、ため息を飲み込む。やはり流れは悪い方に傾いていると思いながら




