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師の呪

   



 「もしかして、ここが”ヤブの細道”と呼ばれる場所なのか?」  


 「そうだ。」


 再び幻妖斎の独り言のような言葉をユキは肯定する。


 「こっちに行けば日本だ。昔、色々やらかしたらしいので入口はガチガチに封印されているから、ここを侵入ポイントを選んだってわけだ。」


 なるほど。そこは確かにいわくつきの場所だ。幻妖斎は深く頷いた。


 「記憶が戻ったとか、ないよな?」


 「手記とか覚え書きとか結構、前世のものは多く残っているんだ。」


 「そうか。」


 ”答えが確実に存在するという事


実が在れば、そこへ辿り着くまでの道


筋を因果で紐解き、割り切れない部分


を呪と変化した幸運や不運で補完す


る。”


 誰もが知らず知らずに求め生きるために行っている行為だ。だが、真に欲するものへ辿り着けるのは、ほんの僅かだろう。


 それを意図も簡単に因果律の術式として構築し魔法として成立させている。恐るべき能力だ。アシュールとしても特別だ存在だと言わざるを得ない。自身何世代もの間ユキのサテライトとして少しずつ経験値と記憶を積み重ねてきた幻妖斎だが改めて驚かされた。


 「人は願い事が叶っても、なぜか不幸なのはそういう理由だったのだな。」


 達成感の裏側に潜む喪失感、想像以上に大きな代償、呪は喜びが褪せて往くほどに人の心を蝕んでいく。そして時間は巻き戻らない。


 「でもいいのか?この女はすでに日本語を習得してるようだぜ。」


 揺れる水面が洞窟内の壁に日の光や雲の動きでプロジェクションマッピングのように美しく変化していく。それを楽しんでいるような顔をして、彼らの会話を盗み聞きしていたヤデルはピクリと震えた。


 デバイスを魔力制御するだけでなく、その機能を脳内でハックする彼女固有のスキルを隠匿しようする努力は虚しく暴かれた。正確には二人にマニュピュレートされたと言えるだろう。二人の日本語での会話を聞き取りたかった彼女は好奇心を抑えることができなかった。


 「話の内容は元々彼女に聞かせたかったものだ。問題ない、ちゃんと理解できていれば良いが。」


 「隠すつもりはなかったけど、取引に使えればいいと思っただけよ。」


 イントネーションはAI のナレーションだが問題ないようだ。


 「取引は必要ない。なぜ俺のポケットの中からお前が欲するものが出てくると信じられないのか?」


 「私が今心から欲するものを手にしても幸せになれないから。またすぐ私の心を縛り付ける何かが私を苦しめるのでしょ?」


 「そうだ、お前には特別な力がある、そしてお前はその力を使い続けなくてはならない。それがお前の使命だ。対価は十分与えられるだろう。だが、お前は満足することはない。結果ではなく、その力を遺憾なく発揮することがお前の喜びだからだ。」


 「なぜ私なの?」


 「人手不足だ力を貸せ。個性の多様化が情報の多様化を生み選択肢が増えれば増えるほど。敵の侵入を容易にしている。お前の能力は俺達に弱点である情報戦の強化に必要だ。既存の組織だけでは対応できていないし、すでに再編も行われている。探索者ギルドにはある程度の情報を開示し、お前達の欲しがっているものを条件付きだが提供してもいいと思っている。」

 

 「そのとっかかりが私というわけね。」


 「そうだ。」


 「飛んで火に入る夏の虫ってわけね。」


 「ちょっと違うけどそんなもんかな。」


 「何かよくわからないけど、ひどい?わ」


 「その感覚の方が正しいな。きれいごとを云うつもりはない。戦いの世界だ。」


 「妹は助けてくれるのね?」


 「ああっ、然るべき人物に連絡してある。」


 と少しだけユキは顔をしかめる。


 「女ね、作りたくない借りを作ったのね。私のために。」


 ”あっ、この女同類だ。”と心の中で叫んだのは幻妖斎。彼女がユキに依存し始めた。予想していたことだが、また面倒くさい女が一人増えた。そしてユキはそれに気づかない。


 「一つだけ条件があるわ。」


 「言ってみろ。」


 「あ、貴方の専属って言う事でお願い。他の男に触れられたくないの。」


 と言って女は顔を赤らめ、もじもじとする。


 「俺のサテライトになるなら、より厳しい場所での戦いになる。鍛錬も命がけになるぞ。簡単に死んでもらっては困るからな。」


 「のっ、望むところよ。」


 と女は嬉しそうに微笑んだ。


 幻妖斎は頭を抱える心の中で。この女ことヤデル・ソルリラは自分に都合の良いように勘違いし。ユキは彼女が女として専属になりたいと申し出たことに気づかない。


 女が絡めば必ず厄介事になる。


 「早速だが鍛錬を始めよう。」


 軽いトレッキングの装備だがユキから渡されたシャツもパンツもシューズもインナーも物理魔法耐性のある特殊繊維で作られたものだ。もちろん流通はしていない。着用した瞬間、彼女の体にフィットした。


 ユキは彼女に匕首とを呼ばれる短刀を両手に握らせ石の上に座らせる。そして背後から目隠しをすると。

 

 「体を触らせてもらうが良いか?」


 「怖いわ。」


 「大丈夫だ。不愉快だったら言ってくれ。」


 そうしてユキは彼女を背後から抱きしめるように、左手で彼女の大きめの乳房を持ち上げ、右手を下腹部に手を添えた。女はピクリと体を震わしたが、やがて恋人に身を預けるよう力を抜いた。


 「今からドローンを三体飛ばす。攻撃機能のついたものだ。頭で考えるな混乱する、ドローンの制御はここ、攻撃はここ、体で考えるんだ。」


 と心臓と丹田を押さえる。


 時間をかけ、三台のドローンが彼女の制御に入ったことを確認するとユキは彼女から離れた。


 「半径100ftその範囲内に入ってきたものを攻撃しろ。魔力を大量に込める必要はない。針を刺す程度の感覚で大丈夫だ。」


 暗闇の中から何かがゆらゆらと僅かに発光しながら彼女に近づいていく。スライムと呼ばれる魔物だ。


 幻妖斎はその一部始終を見ながら大きくため息をついた。彼は良い師だった。出し惜しみなどせずコツを伝える。その分、身体の接触が多かった。男も女も関係なくだが。


 なるほど。これが彼の呪なのだな。誑しの聴雪、数世代前同じような指導を受けた幻妖斎は苦笑いするしかなかった。

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