サテライト
空から天使が舞い降りてきた、
いや正確には屋根伝いに飛び込んできたのだが。なかなか刺激的だ絵面だった。美しい女だ10代後半、長身、白い肌、アッシュグレーのミディアムヘアとグリーンアイズ、おまけに手には双剣が握られ今にも飛びかかってきそうな。まるでファンタジーの世界から抜け出してきた少女が突然二人の男の前に現れた。
だが、男たちは一瞬驚いた顔をしたが、何事もなかったかのように自分達の作業に集中を戻した。
「ちょっと何よ、シカトなの?」
「ああ、すまん、ちょっと待ってくれ。取り込み中だ。」
戦闘も覚悟してドローンを操る者達から自分の映り込んだ情報を削除しようと意気込んで飛び込んできた彼女は雑な扱いに逆切れる。
「何よ、貴方達これが見えないの?私は本気よ。」
と言いながら、彼女は再び双剣を構える。
それをチラリと見た若い方の男が再びモニターに視線を戻すと口を開いたた。
「プレデアスの剣か、どこで見つけてきたんだ?古い物だ。見たところ、二番と九番のようだが、それではバランスが悪い。」
彼女が構える双剣は所謂アーティファクトあるいはオーパーツと呼ばれる謎の遺物。謎の金属、謎の加工技術で作られた、S機関やローズ財団が厳しく管理する異世界戦争絡みの遺跡から出土した、この世界に存在してはならないものだ。
「二番を使いたいなら利き腕には八番、九番を利き腕で使いたいなら三番な。それに、その構えは刃の立て方が逆だぞ。」
チベット、いやブータン人か、男の誰も知り得る筈のない知識に彼女は唖然として言葉を失う。自分が立ち入ってはならない世界に足を踏み入れてしまったこと、関わってはならない男に接触してしまったのではないかと恐怖する。
必死に生き残るための情報を脳内で必死に検索するがたどり着けない。
男達は四分割されたタブレットの画面から何かを探しているようだ。四台のドローンから送られてくる画像を精査している。だが、コントローラーが見当たらない。
「エレクトリックデバイスの魔力制御ね、貴方達何者なの?」
「いいのか、そんなことを聞いて?」
体の大きい怖い方の男がそう答えた。彼女の中ですでに彼等との戦闘能力の差は歴然としている。見逃してもらえるのだろうかと、出かかった言葉を飲み込んだ。
”それは私のスタイルではない”
そして、まだこの時点ではなんとかなると彼女は軽く考えていた。
「私はハッカーよ。それも世界でもトップクラスの。あなた達の探し物が何かは知らないけど、お手伝いできると思うわ、それでどうかしら?」
会話は英語で行われていた。しかし男達は違う言語で話し始めた。
「”どうする?襲いかかってくると思ったが、売り込んで来たぞ。厄介ごとの匂いしかしないが。”」
「”シーカーだな。探索者ギルド絡みなら面倒くさいな。”」
「”とりあえず、丁重にお断りするか。“」
二人の会話はおそらく日本語で行われていた、面倒くさい、とか、ウザいとか、きっとそういうことを言われていたのだと彼女は男達を睨みつける。
「今回は見逃してやる。もう行っていいぞ。」
「なっ、何言ってるのよ、この私がお手伝いしてあげるって言ってるのに。私のこと知らないの?スーパーモデルのヤデル・ソルリラよ。」
探索者ギルドのトップシーカーの一人である彼女は彼等が日本の組織、裏高野の人間だということ。そして、彼等もまたヒマラヤダンジョンについて情報を集めていると推測した。ならばいきなり命を奪われることはないと交渉に持ち込むつもりだ。彼女には命に変えても欲しいものがあった。
「“やはり、面倒くさいやつだった。どうする、縛って転がしておくか。“」
「“いや、それはかわいそうだ。“」
「“甘いな、この手の奴はきっと不治の病の妹がいて、特別な治療薬でも探してるとか言い出すぞ。“」
「“まさか。“」
「”そんなテンプレな出来事があんたの周りでは起こるんだろうが。”」
「”否定できない、だが、かなり非現実的だ。”」
「”そう言ってあんたは俺達を厄介事に巻き込んでいくってわけだ。”」
鍛冶屋幻妖斎の小言に肩を竦める聴雪の元にドローンが戻って来る。先行する夏目とパオアの一族を探すため町中をくまなく探したが手がかりは見つからなかった。彼女が言う通り二人は
ドローンを魔力でコントロールしていた。
だが突然、制御を失い彼女の周りを際どく回り始める。
「なっ、何よこれ、危ないわよ。」
ドローンが魔力でをハッキングしようとした彼女に逆らい抵抗して暴れ始めたようだ。
「いらんことをするからだ。」
「だって顔バレしたらまずいの。ハッカーのデラシネが私だってばれたらかなりやばいんだもの。もう何でもするからドローンの記録を消去してちょうだい。病気の妹がいるの、彼女を人質に取られたら、いいなりになるしかないのよ。」
ユキは、ほら見たものかという幻妖斎の顔から目を逸らした。




