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ヒマラヤダンジョンへ 3



 「言ったじゃない。深入りしない方が身のためだって。」


 「そのようですな、今更命を惜しむつもりはありませんが、最後に好奇心を満たしていただきたいものです。」


 「モストルクー二人は、アヴァンダン•シエリと云うアシュールの恐ろしさを忘れてしまったのかしら。言い訳は聞いてくれるけど、許してもらえると思わないことね。貴方達が偉そうに出来るのは、有効利用できるからに過ぎないのよ。」

 

 いったい、この少女は何を言っているのか、とシエリは内心大きく戸惑っていた。彼女が剣に纏わせる魔力に憶えが有るような気はするが、いつものように確かな記憶にたどり着くことはなかった。


 彼らは一線を超えた。異世界人は様々な組織の攻撃対象だ。勢い余っての出来事かもしれないが、彼等はパオアのルーゼの名前を聞いてはならなかった。


 秘密はいずれバレる。


 この戦いの絶対共通認識だ。


 パオアのルーゼの肉体が能力の薄まったエブリン•エクスローズだと知れば更には異世界からの刺客達も黙ってはいないだろう。


 “ここで始末するべきなのかもしれない“


 シエリがそう決断しかけた瞬間少女は剣を引いた。


 「でも今回は取り成してあげるわ。その代わり協力しなさい。面倒くさいことはだめよ。」


 「仰せのままに。」


 モストルクー二夫妻はそう頷いた。


 口を挟もうとしたシエリの太腿にルーゼは爪を立て耳元で囁く。


 「彼女に任しておきましょう。」


 ルーゼは彼女の名前を口にした時少女からサインを受け取っていた。パオア一族のやり方で。


 「まずは、お茶をいただきましょう。蜂蜜入りのね。」


 ラーバラ•モストルクー二は小さなため息をついてギャバンに指示する。

テンジン•シェルバの拘束から解放された初老の執事は何事もなかったかのように優雅な立ち振る舞いでお茶の用意を始めた。


 彼等のテリトリーであるミショーの丘は四季折々に毒花咲く危険な場所だ。特にこの時期咲くダルセル•ニパの花粉は猛毒、この危険地帯を無事に通り抜けるためにはその蜜が必要だ。理由は二つ、一つは毒である花粉を蜜が中和する為、もう一つは蜜を集める蜜蜂が摂取した者を敵認定しないようプログラムされてあるからだ。


 蜜蜂は蜜蜂でも異世界種と在来種のハイブリッド蜂は好戦的なキラー・ビーで強力な神経毒を持つ生物兵器、二重三重に張り巡らせたヒマラヤダンジョン防衛システムの一部だ。正気の人間であれば、このルートは決っして選ばない。


 たとえミショーの丘を乗り越えることができても、この先に侵入者の安息の場所はない。激しいアップダウンの行程の先にあるのは導師オシカーク率いる暗殺教団だ。強靭な肉体を有し毒に侵されながらも奇跡的にそこまでたどり着いた者達は手厚い看護を受けながら精神的改造が行われ、暗殺者へと変貌する。


 最後に導師オシカークに異世界からの便衣兵とその手先を炙り出し抹殺する技能を伝授され、平安時代から続く鬼狩り師の出来上がりとなる。


 ヒマラヤダンジョンへ侵入を試みる冒険者やトレジャーハンターは元々一流のアスリートで強靭な肉体と精神を有している。しかし、ミショーの丘を越え教団の門をくぐり一人前の鬼狩り師として戻ってくる確率は二パーセントに満たない。


 おまけに侵入者の数も質も落ちているとオシカークの機嫌は慢性的に悪いらしい。


 ここダージリンで産出される最高級茶葉と様々な効能を有するダルセル•ニパの蜂蜜だが茶会は無言で続く。いったい何がどう展開されていくのか、誰もわからない。一人の例外を除いて。


 「まずは、お二人に謝罪させていただきます。」


 そう言って少女はモストルクー二夫妻に深々と頭を下げた。


 「強引なやり方でお二人の尊厳を傷つけたわ。許してちょうだい。協力していただけるかしら?」


 「アシュール ナツメ、我々に拒否権はありません。できるのは交渉だけです。」


 「謝罪はその交渉ごとの権利を奪ったことも含まれます。ことは急を要するの。」


 「お聞かせください。」


 「パオアの一族に纏わる予言が動き始めたようなの。そこにいるのが本物のパオアのルーゼならほぼ間違いないわ。」


 「教えて何があったの?」


 予言は一族の滅亡だ、パオアのルーゼの瞳に恐怖が宿る。怠惰な態度で不安をコントロールしてきた彼女だが限界が近づいてきたようだ。


 「まだ大丈夫、としか答えようがないのだけど、出来る事は全てやるつもりよ。時間との戦いになることは間違いないけど、可能性はあるわ。」


 「わかりました。アシュール、分け合ってこの肉体は捧げられませんが、この魂はあなた様のものです。」


 「やめてよ、重い女ね。まだ私は日本のJK よ。綱渡りには違いないのだから軽く行きましょう。」


 「手を貸すのは良いが、我々も問題を抱えているのだ。」


 シエリが重い口を開いた。


 「知ってるわ。最終的に全ての問題を解決していくと今は納得していただけないかしら?詳細は道すがらということで。」


 「では何から始めれば良いのだ?」


 「人探しから、私には連れいたんだけど、はぐれてしまった。異世界人よ、パオアのキュレルと護衛のバンダ、サダンの三人で女は二十代、男二人は少し年上、砂漠の民の装備で、ここからオシカークの寺院へのルートの何処かに。」


 モストルクー二夫妻とグルガン族テンジンはディバイスを取り出しすぐさま指示を送る。


 オシカークを解説するならば、妥協はしない。融通も効かない。そして心から異世界人を憎み容赦しないそういう男だった。

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