再会
ユキと始乃が待つ庫裡の応接室に現れたのは十二神将のような武具をまとった初老の男だった。
「師匠ご無沙汰しております。」
ユキは頭を垂れて感謝の印を結び師匠に差し出す。
「聴雪よく来てくれた、息災か?」
「さあ、それはどうでしょう。」
「そうか、悩みは尽きぬな。」
「そのようです。」
師の名は山田光刹"導き手"を持つ戦師だ。ユキも七〜八年前まで別の境界線の街で修行をつけてもらっ父と呼べる人物だ。ここの結界が緩んだことをきっかけに移ってきた。街を再建し 結界を再構築するために。もちろんユキの抱える問題も知っている。
「夢はどうであった?」
「おそらく本物かと、随分傷つきましたが、なんとか受け入れることができました。」
「今回は信憑性の高いものが多く集まっている折を見てゆっくり話そうぞ。」
「仰せのままに。」
本心を言えばユキとしてはすべての情報を情報源を開示してもらいたいのだが、それは次の段階でのことだと言い聞かせる。ユキに使命があるように師にも使命がある。この異世界戦争をコントロールするアシュールは男女一対で行動をしてきた。しかし千年前ほど前から男性アシュールは記憶を失い戦い舞台から姿を消した。ユキがアシュールとして認定されたこと自体、奇跡的な出来事だった。
世界にはこの戦いに関わる五つの機関があるが第二次世界大戦後 なぜだか情報は共有されておらず、現在何人のアシュールがこの世界に存在しているのかすらも分かっていない。
ユキの海外での活動の目的の一つはこの閉塞感を打破するためのものだが、成果は上がっていない。
認知は、されてきたが記憶を失った男性アシュールは、つまるところ、"狂ったアシュール"だという事が共通認識だ。大切な女性アシュールを狂人などに与えたくないというのが 本音だろう。
師光刹は愛槍を壁に掛け、始乃の手伝いで武具を外し作務衣に着替えると本題に入る。
「国土結界を強固にするための儀式が近々行われる、娘たちも参加する予定だが、まだ良い武器に出会えていない。」
この国だけではない、現在、出所のわからない原因不明の疫病が世界的に流行し、社会に大きな被害を与えていた。鎮護の儀式はユキも想定内だったのだが呼び出しの理由はそうではなかった。何故か他の目や耳を気にするように少し師光刹の言葉が澱む。
「私にその武器を作れと?」
「ついてきてくれ。」
娘といっても血の繋がりのある娘ではない。異能を持つため忌み嫌われた子供たちや、わずかであるが戦士としての前世の記憶を持つ子供達が集められ、ここのような最前線の街で育てられる。血の繋がりはないがそれ以上の絆で結ばれていると言えるだろう、ユキがそうであったように。
「その儀式を守護して貰うつもりでいたが問題が起きた。」
始乃を置いて庫裡の奥へと続く廊下を歩きながら師がそう話し始めた。
「あちら側から亡命者が来ると情報が入った。」
驚くべきことではあるが、例がないわけではない、ユキは過去の事例を思い浮かべる。
「儂はあちら側に潜り情報を集めようと思う、もし事実と判明すれば、後の対処は任せる、お前が指揮をとれ。それまで娘たちを頼む、強力な能力者ではあるが、まだまだ不安定だ。」
なるほど、そういうことかとユキは納得する。
「娘さんだけではなく息子はいいのですか?」
「息子?いや今、儂には息子はおらん、娘三人だ。男子を見たのならこの先に住む鍛冶屋の息子だろう、もちろん彼も儀式には参加するぞ。」
そういうと師光刹は突き当りのドアを開け中に入る。そこはまさしく女子校生の部屋だった。都会にあっても辺境の地でも女子高生の部屋は女子校生の部屋だ、いい匂いはするし可愛いものがある、見覚えのあるフード付きマントも壁にかかっていた。ただ、異常な数のおどろおどろしい武器や牙や角などが所狭しと置かれてあった。
「一番下の娘はハンターだ12歳の頃から魔物を狩っている、少し扱いにくい子だが可愛い子なのでよろしく頼むぞ。」
突然の乱入者にもかからず目覚めもせず眠り続ける女子高生の横顔を見ながらユキはポリポリと顎の辺りを無表情に掻いた。