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邂逅

 


 地球の裏側から帰ってきたことになる、長い旅だった、咒術に惑わされて、ほとんど覚えてはいないが。ユキは今一つ現実と コネクトできていない心と体を解しながら首を振る。


 この地を離れて五年、人も建物も変わってしまっているようだ。

 

 いつのまにか拝殿の前では、巫の娘が剣を掲げて精神の集中をしていた。神を宿すのか、精霊を呼び寄せるのか、いずれにしろ、この結界をアップデートするための日々のお勤めなのだろう。

 

 真っ直ぐな黒髪を眉と腰の辺りで切りそろえた典型的な和の魔女の髪型で、目を開くと恐らくは、とてつもない美女なのだろうが、神降ろしの儀式とともに破魔の舞を準備しているらしい。砂漠のような清浄な狂気を身に纏わせていた。ユキは極力《《邪魔》》しないように気配を殺し庫裡へと向かう。彼を呼び出した師に早く挨拶するため、巫の娘にはなるべく気を交じり合わせないように移動する。 

  


 「 原野聴雪様ですね、お待ちしておりました、お上がりください。」

 そこに待っていたのは和装のくっきりした目鼻立ちの、一見お寺に上がった良家の子女の行儀見習いに見える二十歳ぐらいのこれまた格別の美女だったが、、、この女も魔女だ、とユキは確信する。特殊な異能を持った女をひとまとめにユキは魔女と呼ぶ。危険な女達だ、有り様によっては一国をも滅ぼす力を持っている。


 「妹はさぞかし怒っていることでしょう。」

 後ろで聞こえる剣の風切る音と発せられる尋常ではない狂気の波動にユキは肩をすくめる。

「楽しみにしていたのですよ、失礼ですがそれをお預かりさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 彼女の目線の先はユキが手にする、先程飛来してきたものを掴み取った魔獣の放ったナイフのようなものだった。


 「よくそんな邪気にまみれたものを素手で持って平気ですね!」

 

 そう言いながらも彼女はユキから受け取ったそれをそのまま懐にしまった。

 

 「下の妹がこんなものを集めるのが大好きで穢れを嫌う上の妹といつも喧嘩になって困ってるんですよ、あっ、失礼しましたご挨拶もせずに私は、始乃(しの)古臭い名前でしょ、よろしくお願いします。」

 

 和風の名前とは裏腹に始乃と名乗った女の瞳は灰色で角度によっては碧にも緑にも見える。膝を折り着物の裾を摘む西洋の貴族の令嬢のようなカーテシー優雅に決めてみせた。

"美しい"だが、彼女も魔女だ。昔のユキと同じく師匠に育てられている娘なら、彼にとって妹なのだが、あまり勘違いして、馴れ馴れしくしてはいけない、嫌われたくないからなとユキは自分を戒める


 「お父様がお戻りのようです。」

 

 始乃がそう言って振り向いた窓の外には材質の分からない二本のロープが霧の中に、境界線の谷の向こうへと延びており、青白い炎が燃え移るように伝わって来た。その魔を寄せ付けぬ浄化の炎に引っ張られながら滑車にぶら下がった男が滑るように戻って来る。男の切り裂いた霧の奥に少しだけ、谷の向こうが、日本の建築とは違う石や煉瓦造りの建物が透けて見えた。ユキは自分が再び境界線の街に戻ってきたことを自覚するのだった。

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