馴染んだ体
何にしろヒマラヤダンジョンには向かうつもりだったのでその点は問題ない。とんでもないお荷物を抱えて行く事も決定事項のようだが、まあそれも百歩譲って良いとしよう。
境界線の街テルハ砂漠のオアシス、ムトリを支配するパオワ一族の女なら彼女自身が言うとおりガイドでもやって貰おう、だがシエリには分からない。なぜそのパオワの女が彼の為に用意された部屋にあれコレ荷物を持ち込み彼の休む為であるはずのベッドの上でポテチを食べながらテレビを観ているのか。おまけにアメリカンシャンパン(コーラ)を飲みながらイギリス人好みのモルトビネガー味のクリスプとかフランス育ちのシエリには信じられない組み合わせだった。
「失礼だがそろそろ出て行ってもらえないか?」
女は目を大きく見開きまったく意味が分からないと言った顔をする。
「長旅で疲れてるんだ頼むよ。」
女はなるほど、という感じで納得したようだがベッドの中心部から少し体をずらしただけだった。
「いやそうじゃなくてシャワーでも浴びて一休みしたいんだが。」
「どうぞ。」
と言うと女は起き上がり服を脱ぎ始める、元々薄着の彼女はすぐにでも裸になりそうだった。
「おっ、おい、ちょっと待ってくれ。」
「どうされたのです、おかしいですよ先程から。シャワーを浴びるのでしょう?」
おかしいのは君の方だとシエリは女に諭すように言うが彼女は首をひねるばかりで要領を得ない。
「私は貴方の妻ですよ、一緒にシャワー浴びて体を洗ってあげようとしているだけです。どこがおかしいのですか?」
シエリはようやくパオワのルーゼなる娘がふざけている事に気付いた。
「ダートーサ達には知られていないが俺は特別な浄化の力を持っている。もともと闇の一族の魂の救済のために作った術らしいが、さてパオワのルーゼは耐えられるかな?」
「待って、じょうだん、冗談です。貴方が私の刺激的な誘惑で記憶を取り戻さないか試しただけだよ。」
「無駄なことだ。」
「そうでもないわ。」
「話してみろ。」
「そうね、私は貴方を知っている。もちろん、お姉様達もあなたのことを知っているけど幾重にも上書きされた記憶の中の貴方を求めて今の貴方を信じきれない。」
なるほど見かけ以上の経験値はありそうだとシエリは彼女に話の先を促す。ダートーサ達がエブリン・エクスローズにとって彼が有害だと判断すれば、それなりの覚悟を持っていたことに間違いはない。
「私は十三歳の時から三年間ムトリのオアシスで貴方と暮らしました。もちろんエブリン姉様も一緒に三人で。そして、あなたたちと一緒にムトリを離れた。」
「それが事実だとしても俺にはその記憶はない。」
「そこがポイントではないわ。私が言いたいのは、今この時点で貴方の本質を理解してるのは私だけだということよ。」
「俺の本質?」
「そう、貴方は一兵卒であり大元帥、貴方の本質はまず軍人だということね。だからルールに縛られて身動きが取れなくなる。」
シエリはフンッとだけ肯定する。
「貴方は独りの幼子のために命を張れるしやろうと思えば100万人の命を滅することもできる。その精神と力の矛盾に縛られて身動きが取れなくなる。」
癪に障るが事実だとシエリは自分の半生を振り返る。生まれながらに課せられた掟に縛られ大事な部分を解放でき無いもどかしさにもがき苦しむ自分がいた。"最高の戦士"なる称号などクソくらえだと思っていた。
「貴方の力が大きくなるに従い貴方の居場所は狭くなっていく。そして身動きが取れなくなる。」
シエリはこの女の肉体がエブリン・エクスローズの物ではなかったとしたらどうするかと考える。
そして自分が意外と残酷で本能に従った選択が出来るのだと、いくつかの場面を心に思い描いてみる。後ろめたさよりも開放感が勝っているようだ。
だが、わかっている自分は絶対にそんなことはしないと。
「それで俺に何をさせたいのだ?」
ルーゼは少しむくれたような顔をして
「兄様は頭良すぎて、すぐに結論にたどり着く。いけないことだとエブリン姉様がいつも言っていましたよ、会話を楽しみましょ。」
「記憶はないが思い当たるところはある。頭の良し悪しでは無いが俺は鈍いと言われてきた。」
ルーゼはベッドの上にひっくり返り大笑いを始める。脱衣の途中で尻肉にくい込んだタンガその上にシャツを羽織っただけで殆んど丸見えだ。
「お兄様、貴方が鈍いのは女心ですよ。」
彼女は笑いをこらえて腹を抱えて悶絶しながらピクピクしている。遠慮のないシエリの視線に彼女は。
「記憶を失うことはある意味素敵なことですね、馴染んだ女の体もさぞかし新鮮でしょ。」
それだけ言うと再び笑い始めて止まりそうにない。シエリがため息をつきながら開き直って女の胸やら尻やらを遠慮なく観察する。馴染みのものかどうかは分からないが魅力的なことには違いなかった。




