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八つ裂きの剣




 始乃に渡したシリーズナイフのデザインの原点は一昨日、霧の切れ目からユキに向かって投擲された魔物のナイフのようなものだ。形状で言えばククリナイフで超攻撃的なものになっている。シリーズ銘は"蝕の月影"大きいものは刃渡り五十センチ 小さいものは刃渡り九寸の十二本セットだ。用途別に強力な魔力付与がされてあり素材も様々だ。


「それでこれが隕石から出てきた太陽の石と呼ばれるペリドットを鍛えたナイフで身につけていれば闇の一族は近づくこともできない。もしこのナイフに彼等が触れようものなら一瞬で灰になってしまうだろう。」


 一連のナイフの説明を受けた始乃は言葉も出ない。万能ではないかと、なぜ彼がアシュールと呼ばれ異能力者達がひれ伏すのか、この時はじめて理解できた。世界中の魔女達が彼の傍に居たいと心から願っていることもうなづける。これ程の知識と力を持ちながらアシュールの積み重なる記憶がないとは、もし記憶を取り戻せば一体どうなるのだろうと。柔らかい優しい男の正体に愕然とする。

 

 奇跡と言って良いのだろう彼の側に使える事は許された。だから、手の届く場所だと勘違いしていたようだ、彼が存在しているのは、遠い戦場で今ここに居るのは仮の姿だと始乃はその距離を恐怖とともに思い浮かべる。


 「シューレルには彼女用にカスタマイズしたナイフのセットを贈っている詳しくは彼女から学んでくれ。」

 

 この世界の誰にも知らされていない事の一つに、大魔導師と呼ばれる魔女が在る。アシュール・エブリン・エクスローズのサリー|《旅の姉妹》を基準に"同等"とアメリカのローズ財団が非公式に設定しているものだ。

 その最上位の魔導師リストに名を連ねるシューレルに彼は師事して技を極めろと言っている。闇の狭間に身を潜め自分の望むものを手に入れるためだけに魔導を研鑽し虎視眈々とその機会を狙っている強大な力を持つ魔女だ。


 「貴方がその方を信用しているのなら私に選択肢はありません。」


 「俺が知ってる中でも最大級の力を持つ魔女だが利害は一致している恐れることはない。そして彼女は善良だ。」


 「"闇の魔女"と呼ばれる方が善良なのですか?」


 「執着するものの為だけに全てを捧げているのなら純粋であるべきだ。」


 「手段を選ばないというやり方では本当に求めるものは手に入らないという事ですね。」

 

 始乃の聡明さにユキは大きな満足を感じた。


 「それに人間との接触を極力断っているから闇の魔女などと呼ばれているが彼女の本質は豊穣の女神だ。」 

 

 闇の一族出身で豊穣の女神、なんと振り幅の広いお方だと。始乃はそれ故にこの男と対等に渡り合えるのだなと納得する。


 「分かりました私はこのナイフの使い手として恥ずかしく無いよう修行を始めます。どうぞ先にお進みください。」

 

 漠然とした暗い未来からの束縛からは逃れる事は出来た。ナイフを受け取った代償はそれ以上に辛く厳しい戦いの日々なのかもしれない。だが、この男の為に生きる喜びという新たな束縛を始乃は受け入れた。


 地下戒壇を後にして鍛冶場にやって来た。中では最悟君が既に炉に火を入れ準備を整えていた。ユキはオールテット鋼のインゴットを炎の中に納める。女は難しい、幼い精神に執着しながら劇的な肉体の変化に耐えなくてはならない。男の欲求とは全く異なるものだ。他人の肉体の一部を自分の秘するところに受け入れ快樂と引き換えに体液を受け入れる内側へのスパイラルは荒れた海のように残酷だ。特に巫の娘に対する条件は厳しい、それを守り続けるために理不尽な暴力には圧倒的な力で対抗しなくてはならない。


 ニにこは天性の結界師であり探求者、代償は最小限にして時間の幅を広げよう。ユキは薬を調合するように炉の中で渦を巻き始めたオールテッド鋼に用意しておいた触媒や鉱物を指先で正確に測り取り混ぜ込んむ。プログラム化された錬金術とでも表現すればいいのか白く滾った金属はふつふつと変化していく。


  アシュールの技術を理解吸収しようと意気込んでいた最悟だが全く異次元のやり方に戸惑うことしかできない。与えられた仕事も合図と共に大槌を全力で一度振り下ろすことだけだった。少しがっかりしたような彼の様子に気づいたユキは諭すように話し始める。


 「最悟君のその大鎚は古人類学で言う人工遺物アーティファクトに分類される物だよ。」


 「もしかして凄い物なんですか?」


 「そうミスリルハンマーって呼ばれてる、ほらゲームなんかでドワーフが持ってるやつ。突然ぶっ飛んだ話で申し訳ないが最悟君には高校卒業するまでコンビニ11-7で店長代理として素材の知識を溜め込んで欲しいんだ。」

 

 鍛冶の技術を教えてやるから勉強して待っていろと言われたことに気付いた最悟は笑顔になる。その間にも炉の中の剣は仕上がっていく、刃渡り3尺八寸の両刃の剣が異なる世界から転送されてきたように徐々に実体化している。それを見極めたユキはさらに数種類の素材を浮かび上がらせた球体の複雑な文様に囲まれた魔法陣の中に納めると無雑作に炉の中に放り込む。そして焼入れ用の水に最後に用意した"アルテチュールの星形の嘆き"を溶かし込む。


 後は瞬き三回ほどの時間だった、白く発光する剣を炉の中から躊躇うことなく無造作に掴み出すと一気に用意した溶液に突き刺す。だが想像するようなことは起こらなかった。

聞こえるのはどの中から漏れる炎の音だけ。


 「刀身三寸あたり0.1秒。」

 

 次の瞬きと同時に剣を引き上げると金床に置き最悟に合図する。バチンと渾身の力で振り下ろされたミスリルハンマーと接触した瞬間火花が弾け飛ぶ。ピリピリと音を立て弾けた白い光の中から半透明のガラスのような刀身が姿を見せる。刃渡り3尺八寸の両刃の剣に片方に三つもう片方に五つの枝支を持つ現存する最強の破魔の剣だ。一振りで八つの攻撃魔法を発動する伝説の"八つ裂きの剣"が今蘇った

 


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