蜜の味
「石垣の隙間に住み着く蜘蛛のアーリーは巣穴の入り口近くに潜んでいて通りかかりの虫をダッシュで捕まえては巣に引きずり込んでいたんだけどある日、それっと巣を飛び出すと、そこにはとても大きい蜘蛛がいて逆に食べられちゃうの、おかしいでしょ。」
さすがにその手の話を三つばかり聞かされたところでユキは毒気を抜かれたように立ち上がる。今度はニ胡がユキの胸に顔を埋める格好になる。
「ありがとう助かったよ。」
「アーリーの話まだいっぱいあるから。」
そういうことではないのだがと、ユキは無意識にニ胡の髪の毛の匂いを嗅ぎながら必死に抱きしめる腕を解こうとする。ここのところ、出会った女達の魅力に抗するのが難しくなっている。天然入りの魔女達の様々な攻勢を思い出し、たじろぎながらもユキは力を抜いて悪い鼓動を元に戻すとニ胡の頭を一つ二つ撫で身体を離した。
「何か飲むか?」
「ん、おすすめのハーブティーがいい。」
ナチュラル系の美少女はコーヒーは飲まないからな、などといつもの《《いらん事》》を考えながらユキはミニキッチンのコンロに湧き水入のヤカンをかける。
「適当に座ってくれ。」
そう言って例の荷物から数種類の缶瓶と大きな袋包みを取り出すとテーブルの上に置いた。そして、お湯の沸くまで色々なことを考える。
"ニ胡には世話になった、これは借りだな、だが近頃発作が重く深くなっているような気がする気をつけなくてはいけない、最高の破魔の剣を鍛えてやろう、幸いにも(アルテチュールの星形の嘆き)がコンビニに置いて有ったので問題解決だ、出来る限り薄く軽く大きく形状を整えることができる。
ニ胡は細いがどれぐらいの重さの剣が振えるのだろう後でいつも使っている剣をを持たせてもらおう。昨日の発作は最悟君に流してもらったな。そうか彼は呼んである、その時あれを用意してやろう。待てその前に始乃だ、彼女にどうやってこのナイフを渡そう彼女は何を受け入れどう覚悟しているのか、シューレルが言っていたような破滅の道が彼女の前にあるとすれば何とか打ち破ってやらなくてはいけない。それが傲慢だと言われても俺はやると決めている。今日も来てくれたみたいだけど顔が見れなかったな。三女の物言わぬ瞳の奥を覗くのを楽しみにしていた事に気付いてユキは、"その時ヤカンがカタカタと音を立て始める。
火を止め少しを冷ますための時間に ハーブ の用意をする。西洋人参木、ルイボス、桑の葉、レモングラスに数種のドライフルーツを入れて甘みと香りを足す。巡りと再生をテーマにシンプルに仕上げてみる。混ぜたハーブを4,5杯分ティーポットへ残りを小さなガラス小瓶に入れリボンをかける。
「始乃姉狙われてる。」
「知っていたのか?」
「私達チョーセツが思ってるより仲がいい、何でも話す。」
「何でも話すのか?」
「そうなんでも。」
仲がいいことは良いことだが何でも話すのかとユキは少し意外な気がした。個性の強い三人の血の繋がらない姉妹から自分がどんな評価を受けているのか興味はあるが知るには勇気がいるなと考える。だが始乃の抱える問題を共有しているのなら話は早い。
ポットからカップにお茶を注ぐと特別な蜂蜜ダルセルニパの花の蜜をティースプーン一杯かき混ぜてニ胡の前に置く。
「ありがと。」
ニ胡はハーブティーを味わいながら少し驚いた顔をした。目を閉じて巡りを楽しんでいるようだ。表の世界には存在していないものだがダルセルニパの花の蜜は魔力経路の活性効力があり、またハーブ等の薬効を爆発的に向上させる力を秘めている。
もうそろそろ花咲く時期だなとユキは一面の花畑を思い浮かべる。だが、この花の蜜を独占する一族は出来れば関わりたくない、一言で言えばこの世界の必要悪的な存在だ。取引も金銭ではなく彼等主観の物々交換で面倒くさい。
「すごい、ダルセルニパの花の蜜おいしい。」
その言葉に今度はユキが驚かされるニ胡にもまだまだ秘密が隠されているようだ。




