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砂漠のオアシス




 横に座る女の手がいつのまにかシエリの膝の上に置かれている。それに気付いた彼はどうすればいいのかと悩んでいた。


 「炭酸水をもらえるか?」

女は笑顔で頷いて氷を少しだけの冷たい炭酸水を用意してくれた、さらにグラスは飲み口の薄いもので完璧に彼の好みだった。

 

 そして再び彼女はシエリの横に腰掛けると当然のように彼の膝の上に手を置いた。


 「カリーシン、我々に今一度謝罪の機会を与えて貰えないだろうか?」


 そう言ったマイコがいや全員の視線がシエリの膝の上の女の手に注がれ気不味きまずそうな表情を浮かべている。


 「それは構わんが《《まだ》》謝る事があるのか?」

 

 フン、とダートーサが不機嫌そうに顔をしかめシエリの隣の女を睨み付ける。


 「その泥棒猫の名はパオワのルーゼ、姫様の体を乗っ取る不届き者です。」


 「猫は悪くないの。」


 「ワッセンナーややこしくなるのでその話はまた後でな。」


 「さすがに今度の話は説明が必要なようだ。パオワの一族のことは聞いているが俺はまだムトリまで行ったことが無い。」


 「あら、お兄様は三年ムトリに住んでいらっしゃったのよ、お忘れになったの?エブリン姉様と一緒にここの怖い魔女のお姉様達からお隠れになっていたの。」


 「半分本当で半分嘘です。」

 ダートーサが娘の話を聞いて呆れ顔でそう反論する。


 「優しい魔女のお姉様達から逃れていたというのか。」


 「カリーシン、ふざけないでください。」


  異世界との境界線の街であるムトリはテルハ砂漠のオアシスで異世界へと続く砂漠はオールテッド鋼の産地でもありパオワはそこを支配する一族の名前だ。ヒマラヤダンジョンの奥地にありアデラールはその近くで行方不明になっているが関連があるかどうかは分からない。


「第三世代の後期のこと予言に従い姫様と貴方は、たった二人でムトリの街を無血開城したのです。その手助けをしたのがこのパオワの娘ルーゼです。」


 「お兄様お姉様が一族の安全と繁栄をお約束してくださったからです。」


 「もう何万年もの昔の話ですが、この娘はまた姫様にたかってきたのです。」


 「ひどい、私はお父様から追放され二度と一族に生まれる変わることはありません。いつか許されるように一族に再び受け入れられるような手助けがしたいとお姉さまにお願いしただけです。」


 「カリーシン、申し訳ありません姫様ご不在とお伝えしてましたが今ここに居るこの小娘が姫様なのです。無謀にも意識を譲り渡し見かけも変わっておりますが間違いなくエブリン・エクスローズその人です。」

 

 ざっくりは理解できたがシエリはどう返答していいのか反応できない。


 「お化けに体を乗っ取られた。」


 「お化けなんかじゃありません。」


 「そうだもっと始末の悪いものだ」


 「ひどい、ひどすぎますお兄様助けてください。」

 

 と言いながらシエリにしなだれ掛かる。だめだと思っていても彼の本能が受け入れようとする彼女はエブリンだが今は別人だと言い聞かせ女を睨みつける。


  ヒッと女は小さな悲鳴を上げ体を離すが膝の上の手はそのままだ。シエリもなぜだかその手には抵抗できない。


 「その手の位置は姫様が貴方の横に座る時いつもそうしていました。この問題山積の忙しいところ、疫病神のような女ですが本質姫様に間違いありません。」


 「テヘッ、ではないぞ。」


 マイコは一度彼女に釘を刺し話し始める。それを要約すると。


  テルハ砂漠厶トリの人々はその特異性によって永きに渡り独立独歩を維持し異世界本国から切り離された存在だった。オールテット鋼は魔力を触媒に様々な魔道具に加工できる万能の異世界鉱物だ。その9割を算出するオアシスの街ムトリは膨大なオールテット鋼を使用した結界に守られる難攻不落の要塞都市で、外部からの攻略は不可能だと言われていた。その地を内部から無血開城したエブリンとシエリだったが彼らの目的は支配ではなく予言による協調だった。

 

 元々ヘドニスト|《快楽主義者》の彼らは人間文化をほどなく気に入り積極的に取り入れ時代を超えて現在に至っている。電化製品はもちろんネット環境も整っておりアデラールは支配者パオワ一族からの依頼でムトリに向かう途中行方不明になったらしい。

 

 シエリはダートーサからエブリンからだという一枚のメモが渡される、それには。


  "自分はパオワのルーゼと共に彼のガイドと成ってアデラールを探し出し、いにしえの契約通りパオワ一族を救いに行くから、後よろしく。"


  とだけ走り書きで記されていた。


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