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月の港




 不安を覚えた姫様が屋敷に戻ると言い出したのはパリから三十キロ程離れたオルジュという町に差し掛かった時のことだった。


 しかし、時すでに遅く全ては終わった後。屋敷に戻った私たちを待ち受けていたのは小間使いの娘を庇いまともに爆発を受け止めズタズタに引き裂かれた少年のもう動く事のない無惨な姿だった。彼女達はショックで感情を失ない涙も出なかったという。


 「それがセザール・シエリ卿の目には異常と映ったのでしょうか、その後再び彼は私達と言葉を交わすことはありませんでした。責任を押し付けられたとは言いませんがそれが原因で S 機関とローズ財団の冷たい関係が始まったのです。」

 

 淡々と続く彼女たちの話にシエリは深い自我の中に沈んでいく。彼の内ポケットにあるエブリンの写真はその事件の時のもので取り乱した彼女が警戒を僅かに緩めたスキに公の場で収められた唯一のものだと教えられた。

 

 自分の浅はかな行動がこの世界の未来に少なからず悪い影響を与えたことを改めて伝えられ、どう処理していいのかわからなかった。その少年の葬儀は月のボルドーで行われ墓もそこにあると言う。毎年代表者が命日には花を供えに行ってくれているらしい。


 「カリーシン、それが私達が身を置いている戦場です。これも小さなエピソードに過ぎません。」

 

 そうなのだろう、これからも自分の無能さを何度も何度も嫌と言うほど味わって行くのだろうと、シエリの視線は遠くなる。

 

 いつも沈む夕陽を見ているような終わりのない黄昏時の中で隣を歩く仲間の顔も黄金色の風景の一部に過ぎず思い出す事もなく通り過ぎて行く。その虚しさゆえに耐えきれず記憶を失ったのか?いや違う、シエリには漠然とした確信があるがその答えが得られるのは、きっと自分の死の瞬間だろうと感じた。前世の少年も遠ざかる意識の中たどり着いたのだろうかと、あるはずのない記憶を辿っていた。


「ただ先ほども言ったように悪いことばかりではありませんでした。」


 「そう私たちは不完全ではありますがサリー|《旅の姉妹》を取り戻し。」


 「そして貴方を取り戻した。」


  "俺を取り戻した?"


 「そうだ、カリーシン我々は貴方の転生パターンをトレースことすることに成功したのだ。」


 「千年の間、手をこまねいた分けではありません。」


 「私たちは今までも何度か貴方に手が届くところまで来ていたのですが整備されない情報網と進化しない伝達速度のお陰で捕まえることが出来ませんでした。」


 「まあ物語風に言えば、貴方は世界を旅する冒険家。無意識のうちに辿り着いた場所場所で人助けや世直しをしては姿をくらます義賊の一面を持ち、逃げ足も一流だった。」


 「千年もそんな好き勝手続けてきたんだからもういい加減いいでしょ。」


  割と頻繁に転生していることには驚いたが。楽しげな彼女たちのおしゃべりにシエリは再び救われたと感じたようだった。


 「そうだな満足したよ。」



 ただ同年代であるため彼女達も成人するまで自由に動くことができなかった事と情報網が整備されていなかったため、時代を自由に駆け巡る彼に追いつけそうで追いつけなかったということらしい。

 

 劇的な科学の進歩の時代がおとずれ恩恵を受けた S 機関、ローズ財団は早期に彼らの確保に成功する。イレギュラーな事故ではあったが先代アヴァンダン・シエリ少年の不幸な出来事が一世で二代のアシュール使える者達を生み、年齢の先行した彼女達が、その確実性を向上させた。


「なるほど俺の命の価値が暴落したということか。」


 「やめてください。カリーシン私達がどれだけの時間を費やし貴方との再会を準備してきたのか貴方は知らないのです。」


 「そうなのか俺にはリセットボタンが取り付けられたかと思ったぞ。」


 「笑えない。」

 

 ワッセンナーが小猫の威嚇の様な顔をする。


「すまん、父上のことだったな。」


「そうです、この4月に月の港に行った後パリで話がありました。もう三年あれば前世の出来事にたどり着き受け入れてくれるだろうと、私達はようやくその時が来たのだと快く受け入れました。」


 「セザール・シエリ卿は私たちを拒絶しましたがアデラールとラナトゥは私たちを信じて貴方の捜索と教育に人生の全てを費やしてくれました。お救いしたいのです。」

 

 ダートーサが次の迷宮にシエリをいざなおうとしながら彼の横に何気に座る女の顔を見ていた。

 

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