鍛冶屋砦 2
兄妹の襟首を引っ張り、女が彼らを引き寄せる。豊満な肉体、豊かな黒髪、大きく見開かれた瞳から大量のアドレナリンが分泌されているのが見て取れる。アーマーは外されているが戦闘帰りだと想像のつく、汗で体に薄着の張り付いた女達が後に続いいる。
「あの男前は誰だい?そして親父達はなぜ昼間から酒を飲んでるんだい。」
「おかぁ、、」
最悟は背中に押し付けられる母親の大きな乳房から逃れようと抵抗するが身動き出来ない。ちらりと背後に彼女と同じように怒りを隠せない女達が従がっているのを見て諦めたように力を抜き話し始める。
「要するにアシュール原野聴雪様が突然現れて、それをいいことに酒宴を始めたってわけだね。」
「いや母さん、正確には聴雪様は鍛冶屋を見に来たと酒は断られたんだけど。波多野の叔父貴達の苦労話しにほだされて飲もうってことになったんだよ。」
「クッ、上手く逃げられたか。ではプラン B だな。」
本気で悔しそうだ。プラン B がどんなプランかは知らないが最悟には悪い予感しか無い。
「ところで女達の姿が見えないけどどうしたんだい?」
「嫁や娘が聴雪様にたらされちゃいけないと家に押し込められちゃったんだよ。」
鍛冶屋幻妖斎の妻、鍛冶屋薔薇樹は長女のノヴァラの説明を聞き口元に悪い笑みを浮かべる。そして軽く片手で娘を後ろにポイッと放り投げる。ノヴァラは身をひねり難なく着地するが目の前の女が母親と狩りに出ていた妹のイヴァラだと気づくと不機嫌な顔をする。
「お姉、下心丸見え可愛くない。」
「何言ってるのよ中一の妄想娘が!」
「お姉は妄想頭でするけどイヴァラは心でするの。」
「それがなんなのよ!」
「でもお姉本当は可愛い。スキ〜」
と言って姉に抱きつく、ノヴァラは顔を赤らめ不思議系の妹に翻弄されるがまんざらでもない様子だった。
「よし、ならばプランCでいくよ。」
それを聞いた女たちは頭の口元と同じ悪い笑みを浮かべながら散開する。
残された最悟は、よし逃げようと決意する。いや、逃げるのではなく聴雪様に見てもらうため鍛冶場の掃除をしておこうと広間に背を向けるのだった。
話を聞けばこの髭面の人の良さそうな親父達の経歴は華々しいものだった。多くの者が各自衛隊の特殊作戦部隊出身だったり他国での軍事教官の経歴を持つものだったり、なぜアルバイトで不在なのか分からないが頭領の鍛冶屋は第一空挺団の副団まで勤めた男だという。話し好きの波多野爽波と言う俳人と同姓同名の男に至ってはフランスの S 機関直属の傭兵部隊でグルガン族と共にアフリカの紛争地帯を転戦していたと言う筋金入りの猛者だった。
「いや俺なんか敵わないんじゃないかな。」
そんなユキの正直な独り言に彼等は静まり返る。
「聴雪様たとえ酒宴の場の戯れ言でも我々はあなた様と腕試しがしたいなどと馬鹿を申す者はおりませんよ。それだけの圧倒的な力の差がある事を見て参りました故に。」
「堅いな、ユキと呼んでくれ。」
「よろしいので?」
「かまわん、命令とは言わんぞ波多野爽波。」
「え〜、私はフルネームですかい。」
戯けた波多野の声で場が再び賑わいを取り戻す。
カーン
そこへ拍子木が一度打ち鳴らされ、それを合図に手に酒と肴を携えた女たちがなだれ込んできた。さらにその後ろから十二輪の花のように艶やかな衣装の女たちが広間の中央に進みユキに一礼すると舞い始めた。
やばい、大量の魔女の襲来にユキは心の中で悲鳴を上げる。迂闊だった、女性がいないな、とは感じていたがこんな爆発物が用意されていたとは思ってもいなかった。だが隣に座る波多野も口をぽっかり開けて何が何だかわからない様子だ。
舞が終わるとその中心人物である女が胡座をかきユキの前に座ると両の拳を床につけて礼を取る。
「我が名は鍛冶屋幻妖斎が妻、薔薇樹ユキ様のご帰還を祝う宴、改めて取り仕切させていただくことをお許し願います。」
バラキの凄まじいほどの気っ風の良さにユキは大声を出して笑う。
やっぱ男は女には敵わないんだな、と心の中で思いながら。




