鍛冶屋砦 聴雪
自分が大きな勘違いをしていたと気付いたユキは、まず逃げ出そうと試みたが許されなかった。髭面の親父たちに神輿のように担ぎ上げられ広間の上座に据えられてしまった。
皆アシュールの帰還を喜んでいるのだろうが、むさ苦しい親父たちにキラキラした瞳で見つめられてもユキは戸惑うばかりだ。
「聴雪様のご帰還だ祝だ酒の用意をしろ!」
いや、酒を飲む口実か!ユキは立ち上がる。
「俺は鍛冶屋を見に来ただけだ。えっと責任者の方はおられるか。」
一瞬一同静まるが、今度は彼らが理由がわからないという顔をしてユキを見つめてくる。ただちょっとした誤解があったことは互いに少しわかってきたようだ。
「某は組頭の波多野と申す、聴雪様には平安の都で鬼狩隊の一人としてとしてお仕え申しておりました。頭領の鍛冶屋幻妖斎は不在につき某が話を伺わせていただきましょう。」
なんとなくしっくりこない話しづらそうな波多野という男にユキは。
「いや普通に話してもらっていいぞ、俺も勢いで変な口調になったが現代人だ。知ってると思うけどアシュールと言ってもそんな昔の記憶は無いしな。」
要するに彼らは遠い昔、ユキと共に異世界人と戦って来た戦士で、欧米のS機関やローズ財団でアシュールのサテライトと呼ばれる者達。その活躍に応じて忘れ得ない記憶を与えられ生まれ変わる異能持ちの戦人だ。ユキの師、戦師山田光刹の力添えで組織され、頭領である鍛冶屋幻妖斎を中心とした戦士集団は、ラコーヤで前線を監視し魔物を狩る役目を担っているらしい。
「いやー助かりました、今回もスカ、かなーって半分諦めてましたよ。」
組頭の波多野爽波と名乗った男は片膝をついて頭を垂れた。彼は第三世代と呼ばれる"剣と魔法の時代"に一度、平安時代の鬼狩り隊の一員として一度、ユキと共に異世界人との戦いに参加して来たと言う。導き手に出会うことが出来ないまま、この千年で三回生まれ変わり、おかしな記憶と人間離れした能力で異端視されたり便利に使われたり一度は一生座敷牢で暮らしたと、涙を流しながら語り始めた。
ユキは申し訳ない気持ちでいっぱいになる。自分の不在がサテライトと今は呼ばれている彼らの人生を長きにわたり狂わせてきた。今ここにいる三十人ほどの男達は皆同じような経験をして、ここにたどり着いたという。一度導き手に出会えれば生まれ変わってもその道筋を辿って再び仲間達と合流できる。だが波多野のように数多くの生まれ変わりを経てようやくたどり着く者も少なくないようだ。今ここにいる者達は本日非番だと言う事なのでユキは。
「では、飲むしかないかな。」
その一言に一同わっと声を上げ用意されていた酒や肴が運び込まれる。
「お兄は、どうするの?」
「俺はサテライトじゃないからな、叔父貴達が落ち着いたら挨拶に行くよ。」
昨日ユキの後を追ってバス停から寺まで走った少年が妹と思われる少女にそう告げた。
「どうだったの聴雪様って、詳しく教えてよ。」
最前線行きの、行き先のないバスで爆睡していたあんちゃんがアシュールだとは思わなかったが、その後が凄かったと話し始める。
「かなり重そうな荷物を背負って山田(三女)の後を追って初見で寺まで走りきったよ。」
「へぇ~っ、どのコース?」
「ド S コース。」
「ひっ、ちい姉(三女)本物ドS?あれって ちい姉専用のハードトレーニングコースでしょう!お兄も行ったの。」
「いや無理、あのコースは歩幅半歩間違えただけで谷底行きだ。Eコースで走って五分離された。やっぱバケモンだよアシュールって。」
「私挨拶言って、お酌でもしちゃおうかな。」
「ダメだろ、女はみんな、たらされるから隠れているようにって話だろう。」
「いいじゃない、私がアシュールの女になって玉の輿に乗れば親父もアルバイトしなくていいし。お兄もお寺のお姉の一人ぐらいものに出来るかもよ。」
中二の妹の不遜な言動に最悟は開いた口がふさがらない。




