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天職【ノゾキ神】  作者: 美桐院
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第5話 冒険者ならきっと!

三年もの月日を過ごした港町ギルバードを離れ、セオルは冒険者の町アドベントに来ていた。


「いらっしゃいませ」


セオルは町に着くなり、魔導書店に足を運んだ。


「あった!良し、あとはこれと、これと……」


セオルが魔導書店に入ったのは、これが初めてではない。

港町ギルバードでも、目を輝かせながら、店内を見て回るセオルの姿があった。


しかし、今回は一つひとつ手に取っていく。

買いたい魔導書はすでに決まっているようだった。


「こちらをください」

「えっと……」


店員の女性は、驚きを隠せない表情で、セオルを顔を伺う。


それもそのはず、セオルが購入しようとする三つ魔導書は、一般的に購入されるものではなかったからだ。


一つ目と二つ目は、マナ回復速度・倍速(壱)と倍速(弍)である。

どちらもかなり値が張るもので、この世界の上級冒険者でさえも、購入をためらうほどの魔導書だ。


そして、疑惑の三つ目は、超級魔法ロナ・バースト。

陳腐な名前ではあるものの、無属性魔法最強の魔法と言われている。


「ロナ・バーストですか……」


店員の女性が不思議そうにセオルを見つめるのも理由があった。


ロナ・バーストは、圧倒的な威力の裏腹に、莫大なマナ量を消費するのだった。

加えて、無属性魔法なのだ。


冒険者として生計を立てる魔導士ならば、一般的に属性付きの上級魔法を購入する。

消費マナも少ない上に、弱点がつければ、威力も申し分ない。


「はい、間違えありません」


店員の女性は、そうした冒険者の事情も知っているからこそ、なおさらセオルの思考が理解できなかった。

まだ半信半疑の様子で、彼女は最後の確認をする。


「本当に本当に、お間違えないでしょうか!」

「はい!ちゃんとお金もあります」


セオルは、ローブを軽く店員の方に開けてみせた。

パンパンに膨れた財布袋が、姿を覗かせる。


「えっと……合計金額は2,500万ゴールドになります」


財布袋から50枚の50万ゴールド硬貨を取り出すセオル。

店員も驚きに瞬きを素早く繰り返していた。


50万ゴールド硬貨は、一般市民が一生手にすることはないことも多いのだ。


そして、2,500万ゴールドともなれば、

一般家庭が5年は優に暮らしていけるだけのお金だった。


「ぴったり2,500万ゴールド頂きました!」


振り切ったように、嬉しそうに笑顔を見せる店員の女性。

セオルは感慨深そうに、目の前から姿を消していく硬貨を見つめている。


三年のセールスの努力が、この一瞬になくなった。

そう思えるだけの苦労があった。


「こちらが商品になります。では、こちらの部屋をお使いください」

「ありがとうございます」


そうして、ようやく本物の魔導書が手渡された。


というのも店内にあるのは、どれも魔法説明が書かれたレプリカなのだ。

また、店頭で魔導書を狙った襲撃を防ぐため、店内で魔導書を使用できる部屋まで用意されている。


これだけ高価な商品だと、それも頷けるだろう。


「それではごゆっくり〜」


セオルは小さな部屋の扉を閉める。

さっそく魔導書の方へ、セオルが手を伸ばした。


「マナ回復速度・倍速(壱)を取得しますか?使用は一度限りです」

「はい」

「マナ回復速度・倍速(弍)を取得しますか?使用は一度限りです」

「はい」

「超級魔法ロナ・バーストを取得しますか?使用は一度限りです」

「はい」


それぞれの魔導書にて、確認作業を終え、無事にセオルは三つの魔法を手にする。

すると、魔導書はチリになって消えていった。


「ありがとうございました」


店員の女性に見送られながら、セオルは店を出た。

セオルはぎゅっと拳を握りしめた。


「この力で頑張っていくしかないか」


財布が軽くなり、張っていた気もどこか緩んだ。

そう自覚した上で、自分を鼓舞するようにセオルはそう言った。


セオルはアドベントの冒険者ギルドに足を踏み出した。


* * *


セオルは今、初めての討伐クエストの最中である。


「ロナ・バースト!!!」


様子見ていど。そんな甘い考えで、超級魔法を発動したセオル。

爆風に吹き飛ばされ、セオルは後方に吹き飛んでいった。


「やってしまった……」


圧倒的なオーバーキリング。


目の前にいた3体のゴブリンは跡形もなく。

また、生い茂っていた木々さえも消え去った。


「まだ、これをあと、何回するんだ」


セオルが受注したのは、ゴブリン15体。

あと、もう12体残っている。


毎度まいど、森を破壊しているようでは、先が思いやられる。

しかし、セオルには、この魔法しか頼るものはなかった。


「ロナ・バースト!!!」

「「ロナ・バースト!!!」」

「「「ロナ・バースト!!!」」」


3体、5体、4体と順調にゴブリンを倒し、計15体のゴブリンを倒し終えた。


「すいません、クエストを完了したのですが……」

「もう完了したのですか!有望な新人さんですね」


可愛らしく微笑むのは、冒険者ギルドの受付嬢ユーレンだった。


「あの、それで素材の方は……」

「その素材のことで、実は、ちゃんと倒したんですけど、跡形もなく消えてしまって……」


ユーレンは大きくため息をついた。

対して、セオルは冷や汗が滴り落ちる。


「一様聞きましょう、跡形もなくどう倒したんですか?」

「魔法で……」

「どんな魔法で?」

「これ言わなきゃいけないんですか?」


どのような魔法が使えるか、本来は開示するべき情報ではない。


「分かりました、ロナ・バーストです」


小声で囁くように話すセオル。


「ちょっと聞き取れませんでした」

「ロナ・バーストですよ」


ユーレンは聞き間違えではなかったことを確認した。

そして、呆れたように続ける。


「はぁセオルさん、その魔法はですね。もし仮に使えても、ホイホイ使えるものではないんですよ」

「そうですね、マナ消費激しいですし」


「少しは知っているようですね。ですが、もし仮にその魔法で15体のゴブリンを倒したなら、何回この魔法を使ったのですか」

「4回です……」


セオルはヒソヒソと伝える。

しかし、セーレンはそれを鼻で笑って見せた。


「はぁ4回ですか、よーく分かりました」

「えっと、それはクエストクリアって!」

「そんなわけないでしょう。もう少し上手い冗談を考えてください」


怒ったようにして、セーレンはそう言った。


4回のロナ・バーストは非現実的なのだ。

上級魔導士のマナ総量あってしても、ロナ・バースト1回分の魔力が足りるか否かである。


「もう今日は疲れました。私も他の仕事がありますし。一旦、このクエストは保留扱いにしておきます」

「うぅ分かりました……ありがとうございます」


セオルは静かに俯いた。


保留扱い、クエスト失敗の罰金を請求されなかったわけだ。

ここにはセーレンの優しさもあったのだろう。


諦めるしかない。

寂しげな背に、セオルは冒険者ギルドを出た。

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