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【2巻発売記念SS】ミリエッタの強制モニタリング

お読みいただきありがとうございます。

2巻発売記念のweb版SS、少し早めのハロウィン仕様です!

※四令息のキャラや関係性は書籍版にあわせています。



『この度、ドラグム商会で新事業を展開することになりました。

 つきましてはモニタリングに御協力頂きたく、オラロフ公爵邸までお越しください』


 ジェイドとの結婚式を三ヶ月後に控えた、とある日の午後。

 親友ステラ・オラロフから、なにやら改まった手紙がミリエッタのもとに届けられた。


 そして本日、オラロフ公爵邸へと向かったのだが――。


 ミリエッタは到着するなり、物語でよく目にする妖精のような恰好に着替えさせられ、只今絶賛、困惑中であった。


「可愛い! ミリエッタ様、抱きしめたくなるほど可愛いです!!」

「あ、ありがとうございます……? それで、本日はなぜ着替えを?」

「手紙に記載したとおり、ドラグム商会で新事業を展開することになりまして……外国のとあるイベントに因んで、仮装衣装のモニタリングをしたいのです!!」


 よくぞ聞いてくれましたと得意気に説明を始めたステラの後ろで、一足早く着替え終わったティナが、魔女の衣装でひらひらと手を振っている。


 外国のとあるイベント――、その名前は、『ハロウィン』。

 収穫を祝うと同時に悪霊を追い払う目的もあり、その際に様々な仮装をして楽しむのだという。


 折角なので我が国でも広められないかと、新事業を立ち上げたステラ。

 試しに仮装用の衣装を入荷し、まずはどんな反応をするか身近な人で試してみたいとのことだった。


「丁度別件で会議があり、四大公爵家の令息達が本日我が家に揃い踏みです!! 一人ずつ呼び出して、タイプ別にモニタリングしていきましょう!」


 ちょうど四人が四人とも、個性的でタイプの違う令息達。

 これは面白い結果になるぞと、ステラは一人ほくそ笑んでいる。


「それでは参りましょう! 記念すべき一人目はルーク様です!!」


 え、一発目でいきなりルーク様!?

 ちょっぴりラスボス感のある我が国最強の騎士団長が、侍女に連れられ扉をノックする。


 一体何の用なんだと警戒しながら足を踏み入れるなり、ミリエッタを見て動きを止めた。


「……ミリエッタ? それに、その恰好は?」


 珍しく動揺したように一歩後退った後、妖精ミリエッタの後ろで微笑みを浮かべるステラとティナに気付き、目を眇める。


(ミリエッタ様、『お菓子をくれないとイタズラしますよ』、と言ってください)

(……ッ!?)

(新事業成功の決め手となる魔法の呪文です!! さぁ、早く!!)


 ミリエッタは覚悟を決めるように、ルークへと歩み寄った。

 突然呼び出された挙げ句、よく分からないまま妖精の恰好をさせられ、謎呪文を唱えなければならないらしい。


「ルーク様、お菓子をくれないとイタズラします」

「……ん? イタズラ?」


 しばし沈黙が流れ、見つめ合う二人。

 ミリエッタは段々恥ずかしくなってきて、モジモジと俯きがちに衣装の裾をいじり始める。


「ええと、その……」

「一体どういう意味だ? ミリエッタ、後ろの二人が何やら言わせている様子だが、嫌な時は断って構わないんだぞ?」

「嫌というわけではないのですが、その、実は私にもよく意味が……」


 本当に、一体どういうことなのだろう?

 謎呪文を唱えたミリエッタ本人ですら、意味がよく分かっていない。


(なるほど、話が進みませんね)

(堅物のお兄様には、ちょっと難易度が高かったんじゃないですか?)


 後ろでステラとティナが、密談をしている……ようなのだが、隠す気はないらしく丸聞こえである。


「まったく、お前達はいつもミリエッタを巻き込んで。また何かロクでもないことを企んでいるんだろう?」

「お、お菓子をくれないとイタズラを……」


 呆れるルークの前に立ち、それでもステラの役に立たなきゃと恥ずかしさに頬を染めながら繰り返すミリエッタ。


 一生懸命なその姿に、思わずルークの頬が緩んだ。


「ハァ、仕方ない。だが困ったな……あいにく菓子は持ち合わせていないんだ。甘んじて、君のイタズラを受け入れよう」


 さぁ、遠慮なく来いと告げられ、ミリエッタは困りに困った。


 イタズラって、何をどうすればいいのだろう。

 助けを求めてティナとステラを振り返ると、二人仲良くメモを取っており、全然こちらを見ていない。


「ルーク様は甘んじてイタズラを受け止めるタイプ……っと」

「ちょっと振り幅が少ないですね」


 その考察は果たして役に立つのか疑問だが、頼まれたからには仕方ない。


 魔女の恰好をしているのだから、ティナがやればいいのではと今さら気付くが、既に手遅れ。

 さらには「お兄様は少数派だから当てにならないですね」とティナが投げやりに結論付けている。


 やらせておいて、まさかの放置。

 ……なんてこと、あの二人はまったく頼りにならない。

 そして私は一体、何をすれば!?


 意を決し、ルークの頬を指先でプニッと押したところで、バァンと音を立てて勢いよく扉が開いた。


「ミリエッタが俺を呼んでいると聞いたのだが!?」


 二人目はジェイド。


 晴れてミリエッタの婚約者となり、王国一の幸せ者だと恥ずかしげもなく豪語する、愛が強すぎ近衛騎士。

 部屋に飛び込むなりルークの頬をつつくミリエッタに気付き、大慌てで身体を割り込ませた。


 ステラが目配せをすると、侍女達が壊れやすい調度品を部屋の隅へと移動する。


 なぜ、移動を……?

 疑問符を浮かべるミリエッタの指先を、ルークから守るようにジェイドが握りしめた。


「あんな筋肉だらけの男をつついたら、固くて怪我をしてしまう」


 もう二度と触れないほうがいいと、結構失礼なことを言いながらハンカチで優しく指先を拭いてくれる。

 そして自分を見つめるミリエッタの衣装に気付き……口元を抑えながら数歩後ろへ飛びすさった。


 そのまま酩酊したかのようによろめき、ガタガタと音を立てながら、真っ赤な顔で棚に掴まっている。


 ああなるほど、壊れ物を移動したのはこのためか……。


 ミリエッタが一人納得していると、「よ、妖精!?」と呟きながら、必死で崩れ落ちそうになる膝を抑えている。

 なお、一人目のルークはステラに誘導され、別途設けられた観客席にて静かに成り行きを見守っていた。


「ジェイド様、お菓子をくれないとイタズラしますよ?」


 ほんのりと小首を傾げながら言葉を紡ぐミリエッタを見下ろし、ジェイドはヒュッと息を呑んだ。

 仁王立ちで天を仰ぎ、ギュッと目を瞑り、悩ましげに眉間へとシワを寄せる。


「……どちらも、捨てがたい」

「え?」


 お菓子もあげたいし、先程ルークにしていたようなイタズラも体験してみたい、とのことらしい。


 ジェイドはミリエッタの腕を掴み、そのまま自分のもとへと引き寄せる。


 抱き締めるように腕の中へ閉じ込めると、もう片方の手でミリエッタの頬に触れ、「それではイタズラが終わり次第、君のためにあらゆる国のお菓子を取り寄せよう」と訳の分からないことを言い出した。


 抱き締められるのは嬉しいが、よりによってこんな人前で……困り果てたミリエッタに気付き、ルークがすかさずジェイドを引き剥がしてくれる。


「……そこまでだ。ミリエッタが困っているだろう」


 騎士団の上司でもあるルークに怒られ、首根っこを掴まれ、ジェイドは名残惜しそうに去っていく。

 ルーク監視のもと、また一人、観客席に人が増えた。


「ジェイド様はイタズラされた後でお菓子をあげたいタイプ……」

「全部盛りとは随分と贅沢な……柔軟性がありすぎるのもまた考えモノですね」


 ただいまのモニタリング結果について、またしても二人が考察をしている。


 この考察が新事業にどう活かされるのだろうか。

 ミリエッタは不思議で仕方がない。

 そしてノックの音が聞こえ、三人目のキールが姿を現した。


 室内を一目見て新事業に関わる何かだと気付いたのだろう、ミリエッタに歩み寄るなりニッコリと微笑んだ。


「うん、とてもよく似合っている。本物の妖精みたいだ」


 ミリエッタの手を掴み、クルリと回して全身を確認した後、「このシリーズの入荷数を増やし、子供用も同数、発注を掛けてくれ」とすかさずステラに指示を出している。


 さすがはドラグム商会の次期商会長……と思いきや、何かを思いついたらしく、ミリエッタに謎呪文を唱えるよう要求した。


「ええと、お菓子か、イタズラか……?」

「イタズラも捨てがたいけど、実はちょうど飴を持っているんだ」


 人好きのする微笑みを浮かべ、社交界一の貴公子はポケットから小さな飴玉を取り出した。


「折角のリクエストだ。食べさせてあげよう」

「ええッ!?」


 ミリエッタに迫り、楽しそうに飴の包みをひらひらと振る貴公子……だがその腕を、観客席にいたはずのジェイドが掴んだ。


 そのまま飴を取り上げ、ガリガリと噛み砕きながら一気にゴクンと飲んでしまう。


「お楽しみタイムは終わりだ。飴は終わった。イタズラもない」


 応援で駆け付けたルークと、勝ち誇ったように告げるジェイドに両腕を引きずられるようにして、キールは撤収していく。


 ルークとジェイド監視のもと、さらに一人、観客席に人が増えた。


「お兄様はお菓子をあげると見せかけて、イタズラしたいタイプ……」

「腹黒感が否めませんね」


 今回も無事、考察が終わった。

 これで残すところはあと一人。

 イグナスであれば大した悪さもしないだろう。


 安心安全……第三関門まで突破したミリエッタを含む、その場にいた全員がゆったりとリラックスしながら最後の一人を待った。


 四人目のイグナスはさすがの秀才……部屋に入るなり、すぐに状況を理解する。


「ミリエッタ、その、よく似合ってる」

「あ、ありがとうございます」


 照れ交じりにイグナスから褒められ、恥ずかしそうなミリエッタ。

ほんわかとした空間を作りだす二人に、観客席からジェイドが不穏なオーラを放っている。


「まったく、みんなバレバレだよ。ミリエッタにお菓子かイタズラか迫られて、僕が慌てる姿を見たいんでしょ? でも残念、そうはいかないよ」


 そこまで言って、フフンと勝ち誇ったように胸を張る。


「ミリエッタ、僕にお菓子をくれないのなら、イタズラをさせてもらうよ?」


 言われる前に、言ってやる。

 攻撃は最大の防御であると告げ、イグナスは謎呪文を先んじて唱えた。


「イグナス様が? 一体どんなイタズラを?」

「……えっ?」


 ミリエッタに内容を聞かれるとは思ってもいなかったのだろう。

 具体的な方法を聞かれて何やら頬を染め、モジモジと恥ずかしそうに口籠もりだすイグナス。


 なんかこう、なんとも言えない桃色の空気が部屋に充満し、言ったイグナスも言われたミリエッタも、居た堪れなくなる。


 満を持してジェイドが立ち上がり、イグナスの身体をガシリと羽交い絞めにした。


「何をするんだ、ジェイドは関係ないだろう!?」

「よし、お前ら、イタズラしてやれ」

「は!? なんでだよ、何で僕がされる側なんだ!?」


 イグナスの悲痛な叫びに、それではとキールがちょっかいをかけにやってくる。


「待て待て、お願いだからほんとに待って……!! もう何なんだ、許さないからな!?」


 わーわーと涙目で大騒ぎをするイグナスをくすぐり、楽しそうにちょっかいをかけるジェイドとキール。

 少し離れたところでルークが「適当なところでやめてやれ」と呆れている。


「イグナス様は考え過ぎて、空回りするタイプ……」

「想定内とはいえ、同情を禁じ得ないですね」


 無事四人分の考察が終わり、満足気なステラとティナ。


「これ、本当に新事業の役に立ちます……?」


 不安気なミリエッタに、勿論ですとステラは満面の笑みを浮かべた。


 ……この後『ハロウィン』イベントは王国内で広がり、数年後には国民的行事となった。


 そして、いち早く販路を確保したドラグム商会は莫大な利益を得ることとなり、大富豪であるオラロフ公爵家の新たな資金源が、また一つ増えたのである――。




【お知らせ】

読んでくださった皆様のおかげで、本日2巻発売です!

本当にありがとうございました!

web版から6~7割新規ストーリーに差し替えた1巻同様、2巻もとても楽しくなっています。

詳しくは活動報告にのせてありますので、御覧いただけますと幸いです(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ

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