25. それぞれの優先順位
※連休中に何話か書き溜めることが出来たので、ストックが無くなるまでは1日2回、更新します。
(一回目は朝か昼、二回目は夜になる予定です。読み飛ばしにご注意ください)
騎士団の会議室に、ルーク騎士団長をはじめとした団員達が招集される。
遅れて、近衛騎士団から応援として参加したジェイドも加わり、オークション会場での配置や逃走経路等を余念なく確認の上、捕縛に失敗した場合の潜伏先まで洗いあげていく。
「先日の差押品を鑑定したところ、指摘があったものはすべて偽物であることが分かっています」
コトが起こった場合、関係する物品の差押さえが必要となる。
真贋鑑定が可能な有識者として参加した、ラーゲル公爵家次男、イグナス・ラーゲルが報告書を読み上げた。
報告書にびっしりと記載されているのは、ミリエッタがルークに連れられ、古物商等に行った際に差押えをした品々である。
肉眼で瞬時に判断したと聞いていたため、その真偽は良くて五割だろうと踏んでいた隊士たちが、その報告にどよめいた。
「今回オークションに参加する商会のうち、摘発対象候補となっているのはこちらです」
物品の流通経路を精査し、洗い出しをおこなったオラロフ公爵家嫡男、キール・オラロフが、摘発候補の商会を明示する。
「オークションの結果次第では、販路の制限をおこなう必要があります。ラーゲル公爵家による真贋鑑定が終わり次第、必要事項について各拠点に通達予定です」
オラロフ公爵家がもつ国内最大の商会は、特定航路や陸路の権益を保有する。
商業組合の判断を待っていると時間が掛かるため、緊急を要する場合は、オラロフ公爵家の強権を発動し、販路を制限するのだ。
「ジェイド、今回名前が挙がった商会のうち、何か思い当たるところはあるか?」
ルークの問いに、ジェイドはリストを手に取り、目を落とす。
なお、先日のトゥーリオ公爵家での一件については、お互い意地を張ったまま、まだ仲直りが出来ていない。
「二番目に記載されている『エルドール商会』ですが、昨年、販路拡大に係る申請があがっていたと記憶しています」
「……承認はされたのか?」
「いえ、拡大の申請理由に『疑義あり』として、オラロフ公爵の名前で取下げの要請が出されました」
ジェイドの言葉にキールが、「間違いありません」と、合の手を入れる。
「こちらの商会ですが、以前も一度疑わしい動きがあったため、我がオラロフ公爵家でマークをしてはいたのですが……なかなか尻尾を出さず、決定的な証拠が掴めておりません。今回、何か動くきっかけがあれば良いのですが」
キールの言葉に、ルークがちらりとジェイドを見遣る。
「本商会は、エルドール伯爵家のものだが……確かその息子が、ミリエッタ嬢に執心なのではなかったか?」
敢えてその情報を隠したジェイドに、ルークは問いかける。
「ミリエッタ嬢の帰路の警護で、お前がつぶした内の一人だったと記憶しているが」
だんまりを決め込もうとしたところに図星を突かれ、ジェイドは眉根を僅かに上げた。
「……どうだ? ニース・エルドール……ミリエッタ嬢の馬車を度々待ち伏せし、力ずくで手に入れようとして、お前に腕を折られた男の名だ」
矢継ぎ早に述べていくルークに、これ以上はと溜息をつき、「その通りです」とジェイドが答える。
「ですが今回はイグナスの補助として、真贋の目利きを手伝うのみと聞いています。以前も一度お伝えしましたが、いくら有能とは言え彼女は一般人です。看過できません」
ルーク貴様、また巻き込むつもりか?
一触即発の状況に、居合わせた隊士たちが身構える。
この中では唯一の十代、若干十六歳のイグナス・ラーゲルが、心配そうに二人を見た。
「巻き込むのではなく、必要なのだ。証拠不十分で立件が難しい以上、別件で拘束し、自白の足掛かりとしたい」
いくら言葉を連ねても納得しそうにないジェイドに、やれやれと独り言ち、下のほうにあった書類を引っ張り出すと、ポンとジェイドの前に抛った。
「いいか? 本件に係る被害総額は、デズモンド領が徴収する市民税の実に四割にものぼる。これ以上看過出来ないのは我々のほうだ……ここで潰しておかないと、破産する貴族も出てくるぞ?」
拳を握りしめ、書類を睨み付けるジェイドに、これ以上は議論不要と畳み掛けた。
「事前にゴードン伯爵の許可も得ている。……今回はミリエッタ嬢にも仔細をお伝えし、協力を要請するつもりだ。それであれば、トゥーリオ家も異論ないだろう?」
ミリエッタ嬢の事は気に入っているし、なるべく危険から遠ざけてあげたいと俺も思っている。
だが、言っただろう?
デズモンドの人間は、何よりも任務を優先すると。
「ペア交換だ。来たるオラロフ家の夜会で、ミリエッタ嬢に行動を起こしてもらい、オークション会場へはニース・エルドールと行ってもらう。俺は……そうだな、男女ペアでの参加が必須だから、ティナでも誘うか」
そう言うと大きく伸びをし、これ以上の反論は許さないと呟いて、ルークは席を立ちあがった。
「ああ、念のため言っておく。お前は外の警護だから、オークション中、ミリエッタ嬢の近くにはいられない。……その代わり何か起きたら、一番に駆けつけろ」