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11. デズモンド公爵家の仮面舞踏会


「ミリエッタ、こちらへいらっしゃい」


 オラロフ公爵家主催のお茶会に出席した数日後。

 母に呼ばれ応接室に入るや否や、三通の封書を手渡された。


「……これは?」


 何の気なしに裏返すと、一通目の封蝋に、デズモンド公爵家の家紋が押されている。


「デズモンド公爵家で開かれる、仮面舞踏会の招待状よ」

「仮面舞踏会?」


 仮面舞踏会というと、『大人の社交場』といったイメージがあるため、自分のような若輩者に招待状が届くなんてと、ミリエッタは驚いた。


 続いて二通目を裏返すと、ラーゲル公爵家、三通目はオラロフ公爵家の封蝋である。


 四大公爵家のうち、三つの公爵家から一度にお手紙が届くなんて、何事ですかと慄くと、ゴードン伯爵夫人は頬に手を当て、弱り切ったように目を伏せた。


「いえ実はね、貴女とトゥーリオ卿がお出かけした次の日、突然四大公爵家の婦人会に呼ばれてしまって」


 貴婦人達の座談会で、流行りのドレス工房について話に花を咲かせるはずが、いつの間にやらミリエッタの初デートの話になっていた。


 執拗にデートの内容を聞かれた挙げ句、『相手をよく知りもせず、今の段階で一人に絞るのは如何なものか』と忠言までされてしまう。


 それではどうすれば宜しいでしょうかと助言を求めると、『ミリエッタ様は男性に耐性がなさそうだから、前回の夜会同様どなたかにハンカチでも手渡して、他の男性とも接点を持たれたらいかがでしょう』と、オラロフ公爵夫人が提案してくれた。


 その言葉に被せるようにして、『仰る通り、最低でもあと()()は準備して、夜会の度に持っていれば、何があっても安心ですわね』と、ラーゲル公爵夫人が(あい)の手を入れる。


 トゥーリオ公爵夫人は沈黙を守っていたが、デズモンド公爵夫人まで「この先、どこでどんな出会いがあるか分かりませんものね」と、笑顔で圧をかけてくるものだから、思わず頷いてしまったのだと、ゴードン伯爵夫人は説明した。


「ほら、公爵家は御令息だけでなく、御息女も未婚の方がいらっしゃるでしょう? なんでも強化月間にするとかで……これから三か月間は、トゥーリオ公爵家以外の三家が持ち回りで、何かしらの場を設けると仰っているのよ」

「はぁ……」


 強化月間は結構な事だが、この雰囲気だと、ミリエッタも強制参加のようだ。


「強化月間中のドレス新調は不要で、オラロフ公爵が各国から輸入したドレスを、希望者に毎回貸出してくださるんですって」

「まぁ! 普段馴染みのない外国のドレスに袖を通す良い機会……楽しみです!」


 王都にあるオラロフ公爵の別邸を朝から開放し、着方が分からない服については、公爵家の侍女達が着付けてくれるらしい。


 先日お茶会ついでに、交易ルート検討会に参加した際のこと。

 輸入服の素晴らしさを広めたいのだが、貴族達が手を伸ばす機会がなく困っていると相談され、それではと出した案の一つが採用されたようだ。


 仮面もドレスも、気に入ったらその場で買い取り・注文が可能とのことで、俄然楽しみになってきたミリエッタ。


 そそくさと刺繍ハンカチを三枚作成せねばと思い立ったところで、エスコートを誰に頼むべきか首を捻った。


「お母様、デズモンド公爵家の仮面舞踏会が一番近い日程ですが、エスコートは父か兄で宜しいでしょうか」

「ああ、そうね。今から連絡してもお仕事で忙しいでしょうし、トゥーリオ卿に無理をさせたらいけませんね」


 デートの日、帰宅して自室に入るなり、溢れかえる花の香りにむせそうになったことは記憶に新しい。

 それからも数日おきに手紙や花が贈られてくるほど、()()なジェイドのこと。


 連絡をしたら、無理を押してでも来てくれるかもしれない。


 迷惑をかける訳にもいかないし、後でお手紙に書けばよいでしょうと、ミリエッタはのんびり刺繍柄を選ぶのだった。



 ***



 ――そして、デズモンド公爵邸の仮面舞踏会当日。


 強化月間なのだから、未来の側妃を探すという名目で参加する権利があるはずだと、『世迷い言』を言い始めた王太子(婚約者有り)のせいで、興味もない仮面舞踏会の護衛任務を課せられた。


 顔を隠してやる事など、如何(いかが)わしい事一択じゃないかと、ジェイドはうんざりしながら、だが不審者がいないか真剣に会場を見廻す。


 と、異国のドレスに身を包み、エスコートを受けながら歩いてくる少女に、目が釘付けになった。


「……?」


 特段不審者というわけではないのだが、なにやら妙に気になり、任務の合間にチラチラと視線を投げかける。


 顔全体を仮面で隠し、付け毛だろうか、王都ではあまり見かけない淡いブルーの髪。


 仮面の男がダンスを申し込み、彼女に向かって手を差し伸べると、白く細い手を柔らかく乗せる所作がとても優雅で美しく、ジェイドは任務を忘れ、しばし見惚れた。


 他にも未婚らしき令嬢は沢山いるのだが、一際目立つその少女はひっきりなしにダンスの申込みを受け、楽しそうに談笑しながら何度も何度もホールを行き来する。


 するとそこに、群を抜いて大きい男が現れ、少女に向かって歩み寄った。


 ジェイドを超えようかという身長に、軸がぶれない体幹の強さ。

 バランス良くついたしなやかな筋肉は、野生の獣を思わせ、一目見ただけで名のある騎士だと分かる。


 ハーフフェイスの仮面から覗く目は、炎のように深紅に燃え、ジェイド同様日に焼けた褐色の肌に、瞳と同じく深紅の髪がふわりとかかる。


 深紅の瞳に、深紅の髪!?

 ……ルーク騎士団長じゃないか。


 デズモンド公爵の嫡男、ルーク・デズモンド。

 数多のご婦人方と浮名を流す、騎士団きっての美丈夫である。


 厳めしい見た目にそぐわぬ柔らかな物腰と包容力が、女性には堪らないんだと、幼馴染のティナが少々ブラコン気味に語っていたのを思い出す。


 こういった場に姿を現すのは珍しいなと周囲を警戒しつつ目を遣ると、ルークは少女に向かい、胸に手を当て一礼した。


 それから優しく手を差し伸べると、少女は恥ずかしそうに一歩踏み出し、ゆったりとした曲に合わせて、二人はワルツを踊り始めた。








※仮面舞踏会は原則男性からダンスに誘うのが本舞踏会のルールとなっているため、『夜会でのみ。且つ令嬢自ら話しかけた者』の条件は免除されます(慌てて補足)

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