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シオン

 自分で言うのもあれだが、忠誠心が厚い方だと思う。


 俺は幼い頃、火事で家族を亡くしている。

 うちは大家族で、上に3人、下にも3人の兄弟姉妹、ついでに猫やらウサギやら小動物もいっぱいいる、賑やかというよりもやかましい、けれど幸せな酪農を営む一家だった。

 ある日、野焼きで飛んで来た小さな火が家に燃え移ってしまい、それが風の廻りと重なって、あっという間に燃え広がってしまった。

 たまたま牧場にいた親父と俺は急いで家に戻り、何とか火を消そうとしたが、なす術もなく、親父は家族を助けるため燃え盛る家に飛び込んで行って、そのまま。



 突然住む場所も家族も無くした俺は孤児院に預けられ、そこからが悪夢の始まり…なんて事は全然なくて、割と不自由なく成長出来たのは幸運だった。もちろん孤児院には色々と厳しい規律もあったし、タムロスのじじいは小言が多くて面倒だったけど、そこそこ良い生活を送る事が出来ていた。なにより、衣食住があるのは、その日暮らしになるよりよっぽどマシで有り難かった。



 その時はまだ皇太子だった現国王と当時婚約者だったサミワ妃はよく孤児院を訪れていて、途中から院に入ってきた年の近い俺の境遇を知って、良く話し相手になってくれていた。

 孤児院での生活だけでなく、日常にあまり不満を感じなかったのは、前国王と皇子が仁政を執っていたからに他ならない。


 そして当時から、大人になったら騎士兵団に入れと説得する皇子の熱量はいつもやたらと高かった。俺の利く鼻と剣術の腕を一番発揮出来るのが騎士団だと、早くから見抜いていたらしい。前国王も皇子も、能力のある者をどんどん適所に登用していく人で、俺の場合はそれが騎士団だった。


 国王は皇太子の時代から、いつも国民に寄り添う見聞も視野も広い男だったし、その横で穏やかに笑うサミワ妃も、身分に関係なく平等に誰とでも接する人だった。


 だけど、


「国民の事ばっかりで自分はいつも後回しなんだよな、あの夫婦は」


 昔も今も変わらない、相変わらずな2人を想って俺は息を吐く。



 俺が騎士団の隊長に任命された時も、臣下から多少の異論は出たらしい。平の隊員ならともかく、平民出身を隊長に挙げて大丈夫なのか、と。

 それを一蹴したのが皇子だ。出生で職が決まるなんて馬鹿らしいと皇子はいつも笑っていた。そんなものは王族だけで充分だ、とも。


 騎士団なんてのはだいたい貴族出身が多い堅苦しい集団だと思っていた俺に、皇子は能力と努力に見合う場所で活躍するのは当然だといつも笑いながら語る。

 それは、俺が隊員の時から身体を鍛え、隊を統べる者として恥ずかしくない知識をつけるために学び、実戦で経験を積んでいるのを知っているからこその言葉だ。

 早くに家族を失った俺には、自分を認めてくれる場所こそが安らげる家で、それは完全に皇太子妃夫婦の側だった。



 皇子が王になってから、王族のすぐ側で執務にあたる第一部隊ではなく、各地へ動き回る実戦型の第二部隊への所属を希望したのは、国内を駆け回って王を助けたいと思ったからだ。


 外を駆け回って城へ帰る、それが俺の性にとても合っていたし、よく利く鼻も相まって、立派な王の忠犬と言われているのを知ったのはずいぶん後の事だった。

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