和登6
「じゃ、騎士団所属以外の隊員は並んでくれ。今から匂いを嗅ぐから」
当たり前のようにシオンは言う。はて?匂い?
人間同士ってよっぽど深い仲じゃないと体臭なんて嗅ぎ合わないと思うんだけど…。もしかしてこの男、変な性癖でも持ってるんじゃ…?
「おい、そこのじゃじゃ馬。妙な勘繰りして見るんじゃねぇよ。俺だって出来ればしたくねぇ」
私の視線に気付いたのか、シオンはゲンナリとしながら私に向かって説明する。
「これは俺の能力の特性上しょうがねぇの。人より鼻が利くんだよ。万が一、お前達を見失った時に便利だから、初めて隊を組む奴は最初に匂いを記憶させてもらってる」
そう言って、大柄の男の人に近付きシオンは、スン、と頬の辺りの匂いを嗅ぐ。結構顔を近付けるので、男同士とはいえ見てる方も妙なソワソワが走るのは私だけだろうか。
次いで綺麗な女の人。同じように匂いを嗅ぐと、シオンは少し耳を赤くして女の人をみつめる。女の人はシオンの耳元で何かを呟いてから、うふふ、と笑ってお礼を言っている。
ほら!やっぱりちょっといやらしい感じで嗅いでるんじゃない?!別に手とか嗅ぐだけでもいいんじゃないの?!
私は疑いの目を隠す事なくシオンに向ける。
「…おい、お前今何か変な事考えてただろ?」
シオンがため息を吐きながら私に言うので、私は無言で顔を向ける。シオンの性癖は置いておいて、私はさっさと準備して早く出発したいのだ。
「すけべチビ」
近付きざまにポツリと言うと、シオンは面倒そうに「黙ってろ」と私の頬に顔を近付ける。
スンスン。スンスン……………ん?何か長くない?明らかにさっにの二人より時間が掛かっている気がするんだけど。何の嫌がらせだ。早く終わらせてよ、と言おうとした時、
カプリ。
急に耳を軽く噛まれて、驚きと熱が顔に集まって真っ赤になってしまう。熱くなった顔のまま、私は噛んだ主を見る。
すると紫と黒の混ざった瞳と目が合って、その瞳の持ち主が瞬きをしてからニヤリと笑った。こいつ、わざと…。
すると、ギュッ、と思い切り私の鼻を摘まんでから「お前、変な匂いするんだな」と悪態をついてシオンは去ってしまった。
は?変?酷くない?私一応オンナノコなんだけど?!猫だから?…にしたって酷くない??結構ちゃんと毛繕いしてる方の猫なんですけど?!
笑いを堪えた隊員の人から「どんまい、ワトちゃん。隊長に気に入られてよかったね」と、意味が分からない事を言われた私は、両耳を隠して身悶えた。
シオンの鼻と勘は本当に良く利くらしく、隊員さんに、アレ、まじないみたいなモンだから、とやっぱり良く分からない慰めを受ける。
信じられない。何が【まじない】だ。私を吸っていいのはミワだけなんだからね。
絶対にあいつより先に薬を見つけて、さっさと戻ってこなくっちゃ。ミワ、待っててね!
私はフン、っと気合を入れて旅の準備に取り掛かった。