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和登3

 訳も分からぬまま、急かされて準備をする。

 タムロスという名前のおじいさんは、私があまりにも色々分かっていない様子を見て「寝過ぎでわしの名前も忘れたんかい」と呆れていた。


 今日は王室から緊急の呼び出しに応じる日らしい。馬が引く大きな箱に乗りながら、王室って何?とタムじいさんに聞いたら、ため息をついて説明してくれた。口は悪いが面倒見は良いおじいさんのようだ。


 


 ここはミワと住んでいた世界とまるで違って、王様とか貴族とか市民とか奴隷とか、そういう種類の人間が住んでいる場所だとタムじいさんは教えてくれた。まぁそれが何かは良く分かんないのだけど。

 街も私が知っている車やドライヤーみたいに、スイッチで動くようなカラクリはどこにも無かった。

 私は慣れない人間の体の五本指をグーパーしながら訊く。


「タムじいさん、それでどうして私がお城に行くの?」


 タムじいさんはそれも忘れたんか…と半分諦めた様子で教えてくれる。



 数ヶ月前、元々病弱だったこの国の王妃様に、懐妊の兆しが現れた。しかしその喜ばしい知らせからまもなく、王妃様が原因不明の体調不良に陥ってしまう。王室付きの医師団が必死に治療にあたったけれど、遂にはベッドから殆ど起き上がれなくなってしまっているらしい。

 国王様と医師団は事態を憂いて、東の大地にある黄金の秘薬を与えようと考え、国内にお触れを出した。腕の立つ者は城へ集うように、と。


 黄金の秘薬は滋養強壮にとても良く効く万能薬。けれど、秘薬がある東の大地はまだ未開の部分が多く、並の腕っぷしでは怪我せずに帰ってくる事さえ困難な場所なのである。


「…で、何で私が?」


 タムじいさんは更にゲンナリした顔で説明を続けてくれる。


「そりゃお前さんなんて、いの一番に声が掛かるじゃろが」


 サッパリ理由が分からずにタムじいさんを見つめると、何でピンとこんのじゃ、とため息をひとつ吐いてから続ける。


「ワト、何で忘れとるか知らんが、お前はこの国で一番の身体能力を待つ短剣使いじゃろうが。度胸と愛嬌はピカイチの戦士じゃからのう。頭はちーとばかし弱いが、王室からの信頼も厚い」


 全然ピンとこないけど、私は人間の割に身体が良く動くらしい。そりゃ猫だもんね、と思いつつも何か失礼な事言われて頬を膨らませる。何となく自分の置かれた状況を理解しながら、馬車に揺られて王室へと赴いた。





「ミワ!ミワだ!!!」


 謁見の間に通された私は、目の前の豪華な椅子にほとんど横たわるように座っている王妃様を見て驚く。見た事のないヒラヒラの服を着ているけれど、間違いなくミワだ。

 大声を出して王妃を呼ぶ私に、その場に居た騎士団達が一斉に緊張して手元の剣に手をかけているのが分かった。タムじいさんもすぐ私を引っ込めようとする。


 だけど私はお構い無しにミワに声をかける。


「ミワ!大丈夫!?ずっとずっと心配してたんだよ!」


 たまらずミワの元へ駆け寄ろうとすると、騎士団の中から黒い影が素早く出て来て私の首根っこを捕まえる。


「お前、どれだけ馬鹿なんだ。畏れ多くも国王の前だぞ?」


 黒に紫がかった不思議な色の瞳を持つ黒髪の男は、怪訝そうな様子で私を捕まえた。



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