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和登2

 ミワとの新生活は、とても快適なものだった。以前に猫を飼った事があるのか、私が気まぐれに過ごしている様子をミワはいつもニコニコ見ている。


 ご飯の準備から室温の調整、深夜の遊びの催促にも付き合ってくれるし、お布団に潜り込んでも、くすぐったいなぁ〜と笑って一緒に寝てくれる。最初に病院で病気にかかっていないかちゃんと検査して、健康の太鼓判を貰うとすごく嬉しそうに良かったね、と笑う。パーフェクトな飼い主さんだ。


 その反面、自分は朝早くから夜遅くまで働きっぱなしで、毎日青白い顔をして帰ってくる。元から華奢だったミワは、雨の日に出会った頃よりも更に細くなり、野良出身の私よりもよっぽど不健康そうだ。

 ミワも病院に行った方がいいよ、とミャウミャウ喋るけど、ミワはいつもかわいい、かわいい、と私を撫でるだけで、あまり自分の体を労わらない。

 私の事は些細な変化でも気にするのに、自分には割と無頓着なのがミワの唯一駄目なところ。


 遅くに帰ってくるミワを玄関まで迎えに行くと、毎日、ただいま、ワト大好き、と連呼しながら私を抱きしめお腹辺りをスゥスゥと吸う。ミワいわく、猫吸い、といって心が大幅に回復するらしい。何故だか吸われる私も心が回復するので、猫吸いはお互い幸せになれるスーパーハッピータイム。

 あぁ、本当に良い飼い主さんと出会えて良かった。




 ある日、仕事から帰ってきたミワがケホケホと乾いた咳をしていた。

 大丈夫?と寄って行くと、ミワは「心配してくれてるの?大丈夫だよ」と喉を撫でる。

 心配だよー…と、ミワの足に頭をガツガツぶつけると、うふふ、と笑って私を抱き上げる。

 そのまま猫吸いタイムかと思って前脚を広げたら、ふらりとミワがよろけて私をそっと床に置いた。


「あぶない…ワト落としちゃうとこだった。ごめんね、今日はお薬飲んで寝るね。ご飯とお水たくさん置いておくからね」


 着替えてお布団に入ってからも、ミワの咳は止まらなかった。


 ケホケホ、ゴホゴホ、何だか咳がどんどん酷くなっていき、私は心配でミワの頭の周りをグルグルと歩く。

 最初はミワも私の気配を感じて細い手を布団から出して撫でようとしていたけれど、その内に体を丸めて体を震わせ、止まらない咳と戦ってるいるようだった。


 どれくらい時間が経ったのか、ミワから苦しそうな息遣いがヒュウヒュウと聞こえてきた。


 ミワ、大丈夫?と前脚でかいた毛布をそのまま鼻先でめくって、ミワの腕の中に入る。ミワはとても熱くて、私が入った事にも気付けないようだ。鼻をヒクヒクさせながら頬の辺りに顔を近付けると、一瞬ミワの眉間にシワが寄って、息をひとつ、ふぅと吐く。


 本当は苦しくて腕の中は嫌なんだけど、何だかそこにいた方がいいような気がして私はそのままミワの腕の中におさまった。


 しばらくすると、ミワの体はグッタリとして、あんなに熱かった体がそのまま動かなくなってしまった。

 私はどうして良いか分からずに、そのまま腕の中でうずくまる。

 そしてどのくらい時間が経ったのか、気がついた時には私も一緒に動けなくなってしまった。



 ミワ、起きて。

 ミワ、遊ぼう。

 野良(わたし)を拾ったんだから、ちゃんと私が死ぬまで一緒に居ないと駄目だよ。

 ミワ、ミワ。私、また野良になっちゃうよ。


 強く強く、帰って来て欲しいと願いながら、私の意識がどんどん細くなる。あぁ、もう死んじゃうんだと思って目を閉じたら、急に眩しい光が目に入った。



「こりゃ!いつまで寝とるんか!!登城の日まで寝ぼけおって。さっさと起きんか!」


 暖かい布団を引き剥がして、恰幅の良いおじいさんに起こされる。


「…….あれ?ミワは??」


 私、ミワの腕の中で寝ていたはずなのにな。あと何だか声がニャーニャー鳴いてない気が…


「何言っとるんじゃい。寝ぼけて王妃の名前を軽々しく呼び捨てにするでないわ。さっさと支度せんか」


 寝ていてカチコチの体を伸ばそうと、前脚を伸ばしてお尻を上げようとすると、


「何じゃい、その猫みたいなヘンテコな伸びは。ほれ、さっさと支度せい」


 おじいさんは私をチラリと見て、シーツを剥がしてどこかへ行ってしまう。

 失礼な。猫みたいって…私はれっきとした……ね…こ…


「……じゃ、ない??」


 伸ばした前脚に視線をやると、その脚が人間仕様になっていて肉球が無い。私は思わず頬を触る。

 毛も無い。正確には頭にはあるけど、顔に無い。


 ベッドから飛び起きて近くの窓まで近寄ると、白銀に茶色が所々混ざった髪の短い女がいる。私が右頬を触ると、窓に映る女も左頬を触る。


 どういう事?どういう事?

 私、元野良猫で、今も猫のはず。

 大好きなミワと幸せに暮らしていたはずだし、でもミワが冷たくなっちゃって、私も追いかけて冷たくなったと思ったんだけど…。


「どうしちゃったの?私」


 訳が分からず呟くと、窓の女も同じ顔で困惑していた。

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