1 キッカケ
良く教習所通いは楽しくない、ツライ、ムカつく、面白くないなんて言うひとがいるけど僕は小春さんを見ているとそうは思えないんだよね。
僕は小春さんの家で飼われてる黒猫なんだ。年齢は3歳。
だから、誰よりも小春さんのことを知ってる。
旦那さんの優斗なんかよりずっと僕の方が小春さんのことを知ってるんだ。
僕は小春さんを守るためにこの家にきたんだ。
福山小春ってのが小春さんの正式な名前なんだけどね。
小春さんの年齢は40歳。
その当時、小春さんは六本木の某WEB制作会社に勤めていたのだけれど、契約満期になったので3月末で退職することになった。
そんな4月のある日。
小春さんの旦那さんの福山優斗がこんなことを言ってきたんだ。
「小春さん、仕事辞めたんだよね?」
「うん。辞めたよ」
「じゃ、時間あるよね?」
「あるよ。どうして?」
「車の免許取りに教習所に行いかない?」
「え?」
「お金はある?」
「うん、貯金はあるよ」
「じゃ、決まりだね。教習所に行こう~♪」
なぜか優斗はかなりテンションがとても高かった。
そう言うと優斗はネットで近所にある教習所を探し始めたんだ。
そして見つけたんだ。
小春さんの家から二駅で行ける距離の教習所をね。
教習所のネットのパンフレットを見ると年齢別にパック料金が書いてあった。
「30歳、40歳コース一括パック30万円」ってね。
このコースは実技講習乗り放題のコースだったんだ。
30代40代になると実技の講習で一回乗っただけでハンコはなかなかもらえないんだ。
だから、実技講習を受けても大丈夫なようにこのパックはできてるらしい。
小春さんは自分も同じく実技講習ではハンコが一度ではもらえないと思ったんだ。
優斗はとても堅実というかケチというか小春さんの教習所に通うお金は出してくれなかった。
優斗が小春さんにこう言ってきた。
「これからこの教習所に行ってみない?」
「今から?随分と突然だね。優斗くん」
「善は急げっていうじゃん!!」
二人は優斗が停めている駐車場に行ったんだ。
駐車場はマンションの裏側にあった。
そこには優斗が乗ってる車が置いてあった。
レガシィのツインターボがそこに停まっていたんだ。
二人は車に乗り込んだ。
「ねぇ、優斗くん。私が免許取ったらこの車運転するの?」
「そうだよ。何か問題ある?」
「いや、こんなに大きな車運転できるかな?」
「大丈夫だよ」
「そーかなぁ~」
そう小春さんが話しているうちに教習所近くのパーキングに着いたんだ。
そして、小春さんと優斗は教習所の受付に行ってみた。
教習所は横浜市A区にあった。
二人は受付にいた。
いろいろと受付の女性に質問して聞いていたみたい。
小春さんはこの30万円コースのパックが自分には良いと思ってそれを選んで自分のクレジットカードで支払ったんだ。
優斗は支払ってくれなかったからね。
そして、大量の講習本やらなんやらを学校から渡された。
小春さんはこの大量の本を見て戸惑っているみたいだった。
こうして小春さんの教習所通いが始まったんだ。