怒怒怒怒
滑らかな感触の管の中を流れていく。最大速度は小さいまま、ゆっくりと。
下へ進むにつれて、匂いと湿気が強くなる。嗅いだことのある鉄っぽい匂い。そして水晶体を通り抜ける色は列車で見た狂気的な色にそっくりだ。
大きな飛沫と共に、広い空間に出た。ここからは空が見えない。巨大なパイプがいくつも立ち並ぶ。背の高い木のように、地べたに広がる赤を吸い上げている。根元には吸い寄せられ、吸い尽くされた者たちが横たわっている。分解されるのを待って居るようだった。
「お前のせいだ!」
突然声が響く。至るところで反射した音がまるで自分の脳内で作り出した音のように錯覚する。
「お前だ!」
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ピストルを握ると無機質な音声がこだました。ピストルの代わりにナイフに持ち替えた。ナイフの使用注意ランプが赤く点滅しているが、心臓が速く進んで点滅していることに気付けない。
「お前が奪った」
足を動かそうとすると、沈殿した何かが絡みついてくる。慎重に足を運ぶ。膝まで浸かっている。水面の揺れが見えて、足を止めた。円盤のようなものに3つの顔が付いた人型の怪物が闊歩している。どの顔も怒っているように見える。さっきから聞こえる声はあの怪物から発せられているようにも聞こえる。
怪物の進む先で何かが藻掻いている。天井から漏れる微かな光の下、水に溺れた虫のようなそれは人間だった。
「俺は……俺はまだ生きてる。うまく生きられる。まだ負け犬だと決まったわけじゃない……。出し抜かれたんだ……!」
怪物はゆっくり、ゆっくり近づく。
「おい、なんだよ。近づくな」
人間がジタバタするのに居も介さず、怪物は人間に近づく。水面の揺れが最大になったとき、怪物は円盤を近づけていた。揺れが無くなったとき、怪物の円盤に怒り顔が一つ追加されていた。
「***!? ****!」
顔は意味不明な言語で喋る。言語ではない、ただの感情なのかもしれない。その後も怪物に見つからないように慎重に動いていた。
「お前が奪った!」
再びその声が聞こえてはっきりと分かった。これは怪物の声ではない。なぜなら怪物がこちらを察知したように向かってきているから。そして、一つ心当たりがあった。心臓の鼓動に紛れて発せられる不自然な振動。
時計を取り出してみると、時計が吠えた。
「幸せを奪っていったお前を許さない!」