戦闘班
その場でハルの全身の力が抜けた。
「もう追って来ないよね」
「多分ね」
ヘリートの通信端末が鳴動した。
「支援要請の信号を確認しました。現在の状態を教えてください」
「…はい。調査班のヘリートです。ファメントコード、鉄のファメントを駅の地下不明エリアで確認しました。戦闘中の職員を援護しつつ、共に駅地上1100エリア付近まで戻りました。ファメントが追いかけてきたため、地上で迎撃、ファメントは現在地下だと思われます」
「了解。戦闘班から数名送ります。ファメントが地上に移動しないよう対応をお願いします」
「了解」
ヘリートは端末を仕舞い、ハルに手を向けた。ハルは手を掴まなかった。
「腕、まだ戻ってないから」
そう言って腕を地面に押し当てて立ち上がった。
「今から駅の建物内部に戻るよ。戦闘班が来るまでファメントが出て来ないようにしなきゃ」
「えっと、戦闘班って?」
「簡単に言うと調査班の仕事を引き継ぐ人達のこと。今回の仕事内容は引き渡しミスだよ、調査班の基本業務は依頼内容の確認と周辺の調査だけだから。まあ初めてだったら疑問も持たないよね。誰も言ってくれないし」
二人は屋上から階段で下へ降りた。ファメントが通ってきた穴は移動ケーブルのすぐ隣の空間だったみたいだ。地下の入口で二人は止まった。分厚い赤い扉が目印になっている。
「移動ケーブルなんて使わない限り地下入口はここだけだし、ここで戦闘班を待とうか」
ヘリートは座り込んだ。
「本当に入口ってここしかないの?」
ハルは地下へ行くときにこんな入口を使っていないかった。
「研究所が観測した限りは。別にできてる可能性もあるけど」
そしてキニアに案内されたことも思い出した。
「ファメントに襲われたの、変な人に案内されたからなんだ。最後にファメントに対面させられて」
「どんな人だった?」
「キニアって名乗ってた。あとファメントに人を与えてる?みたいなことを言ってたような」
「怪しいね。後で報告しておいた方がいいかも」
ハルは他人がいるという状況に安心して疑問に思っていたことを口に出した。
「ファメントって何者?」
「ファメントはファメントだよ。人や動物、植物でなくて、物質でもない。だけどそれらの特質を持っている。だからファメントコードで分類してる。研究所でもファメントを知るための実験をしているらしいんだけどよく分かってないって。意思なんて持ってないと思うけど、明確に人を吸収しようとする。不気味」
ちょうど話が終わった辺りで、カツカツと金属音が近づいてくる。
「来ちゃった」
鉄のファメントは胸の捕食器官を大きく開いていた。ハルは腕の刃を構え、ヘリートはナイフを構えた。ピストルの弾丸はもうないらしい。
ファメントが地面を強く蹴った。その瞬間、後方から声がした。
「端に寄れ! 避けろ!」
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二人は咄嗟に端に寄った。ファメント目掛けて両腕にガントレットを付けた人が突っ込んでいく。ガントレットはファメントの頭と胸に突っ込み、強く振動し、硬いファメントの体を簡単に潰していく。その体は徐々に削られ、最後には大きな軋むような音を出してひしゃげた。