眼帯と包帯と機械と銀河
地鳴りがした。その地鳴りはだんたんと近づいてきて、大きな音を立ててハル達のいる部屋の前で止まった。
するとすぐに扉が開き(破られ)、土煙のように廊下の塵が舞っていた。
「やあやあ! 新入りが入ったと聞きたった今参上した!」
粉塵の中から現れたのは身長がハルの二倍はある大男だった。走ってきたからか白髪が揺れている。男は右目に黒い眼帯を付け、銃剣を片手に持っている。もう一方の手には手綱があった。やがて粉塵が収まると、大男の正体が明らかになった。筋肉質な馬の上に眼帯の男が乗っているのだった。
「俺の名はバリョウ! こいつの名前はリョウバ! 今後の活躍を期待しているぞ!」
バリョウは指で名乗り、馬を指してそう言うと、手綱を引っ張った。
「てぃやーーーー!!! 失礼する!!!」
ぽかんと口を開けたハルにサニーが言った。
「ああ……聞いたと思いますけど今のがバリョウとリョウバ。いつもあんな感じ……。仲間想いで結構仕事もできるんだけど、こだわりが強いというか、個性的なんですよね……」
「あんたには負けるけどね」
二人が入口に注目している間、音もなく部屋に入り込んだ者がいた。
「もう火も付かない。こんなライター捨てなよ」
机に置いていたライターをカチカチと鳴らし金髪の女が首をかしげていた。わざとらしくつまらないという風なそぶりをしてサニーを挑発しているようだった。
「この包帯女……! 勝手に入ってるんじゃね……じゃないですよ!」
「入ったのはアタシじゃないって。こっち」
代わりに差し出されたのは後ろにいた通信機器をいじっていた少女だった。
「あぁ! 私は関係ないです! ただ新人の方を観察しに来ただけです!」
「ヘリートさん……盗聴・盗撮の次はついに侵入ですか。見損ないました。後で管理者に通報します。その女連れて出ていってください」
「あー怖い。アタシの包帯でアンタの両目とも潰してやろうか?」
「……そんなこと二度と言えない口にしてやります」
「WEBもまともに使えてないアンタには無理」
「WEBなんて使わずかかってこい!!」
びっくりするほど蚊帳の外のハルに誰かが話しかけた。
「少年。会話の輪に入れていないぞ。輪に入るんだ。銀河が言っている。銀河はその輪ができる瞬間が見たいそうだ。具体的なシナリオは……そうだな……。第一声に『ごきげんよう』。第二声に『一緒に儀式しませんか?』。銀河はそれを欲している」
不思議な雰囲気を持つその男はにっこりと微笑む。ハルは愛想笑いでごまかした。
「さあ早く! 銀河が早く見せて欲しいと言っている! 銀河が見たいことは私も見たいことなのだ! さあいこう、『ごきげんよう』だ」
「え? いやぁ……ちょっと……」
ハルが困っている様子に気付いたサニーは少し冷静になったようで、ハルのもとに近づいてきた。
「手、貸して」
サニーはハルの手を掴むとそのまま部屋から出て走り去っていった。
「ごめん。ちょっと周りが見えて無かった。あと、訂正しなきゃね。研究所の職員ってみんなあんな感じだった。みんな仕事はできるけど、どっか変なの。良い方にも、悪い方にも」