ぼやかした事実
ドアがパタンと閉じる音がして、気まずい空気が流れた。少なくともハルにとっては重すぎる空気だった。
「あの」
「ハイ」
サニーの言葉に対してハルは食い気味に反応してしまう。
「あの」
「ハイ」
「えっと」
「エッ」
サニーはそれを見てハルの緊張を察したのか、少し考える素振りを見せた。その後、傍の机を二回叩いてから喋りだした。ハルはその音に反応してサニーがようやく口を開くタイミングになった。
「薬、飲んでしまったんですね」
サニーがぽつりと言った。ハルにとってそれはとても冷たい言葉に感じられた。実際にはそうではないのだが。
「は、はい」
「飲まないでって言ったのにーー。あーあ。これでもう人生の終わり! 狂ったままの変人になってしまいますよ~~」
ハルの体はこわばり、嫌な汗が流れていた。
「ははっ、なんちゃって。今のはなんちゃってって奴です。今のあなたは正気じゃないですか。ジョークですよ。私もあの薬が何か詳しく知らないですし」
「え?」
その言葉を聞いて、全身の緊張がほぐれた感じがした。
「今とっても良い顔してますよ~! 雨に打たれているときの顔より断然良い顔です!」
サニーは包帯の巻かれていない方の手の親指を立てた。換気していないのに空気が暖かいものに変わったことが分かる、にこやかな笑顔だった。
「でも、何か理由があって飲んだんだろうなって。そう感じた。っていうより見ちゃったんです。薬の箱を真剣に見つめる君を」
「それは……」
ハルは目線をそらした。
「なんとなーく察しているんです。腕が変化したことに驚いてましたし……。これは他の人には言わない方がいいと思います。私の中で確信に変える気はないですけど」
「だから、確信していたことだけ言います。多分生き残ったらこう言うべきだと思っていたので」
「助けてくれてありがとう」
「……ああ、なら、良かった……?」
未だ不安がある中、サニーの明るい表情を見ているとハルも何とかなりそうだと思えた。
「よかったよかった! これからは一緒に働くわけだし、よろしくお願いしますね!」