都会の街の片隅の小さな部屋で何思う
今日は雨が降っているらしく、外はどんよりと重たく暗く、どこか悲しい雰囲気だ。
私は大学の期末試験を終えたばかりで、今は春休みの真っ只中。私は旅行に行くでもなく、計画を立てるのが面倒くさくて家でダラダラとする毎日を過ごしている。
でもやることはやっているつもりだ。将来のための勉強は欠かさず毎日するし、時事だって溢さず摂取する。普通のことをして、普通の生活を送っているつもりだ。
「おーい、あきほ。開けてくれー」
今日はどうやら、私の彼氏が来る日らしかった。すっかり忘れていた。最近は彼が日常の背景に溶け込んでいる。風景になっている。
「あー、今開けるね」
私の家はアパートで、3階の角部屋。東の窓からは日の出の太陽が朝を提供してくれる。今日は雨で陰鬱とした街の景色しか見えないが。
「ほれ、野菜買ってきた。今日の夜は鍋しよ」
「うん、ありがと。入って」
こうして私たちは、2人で退屈な春休みを部屋で過ごしていくのだ。彼は髭を剃ることも面倒くさくなり、今では無精髭の姿を何の恥じらいもなく私に見せてくれる。付き合い始めたときは、目すら合わせられないような初心な私たちだったんだけどな……
私たちは慣れてしまったのだろう。この、のっぺりとした、地面すれすれを這うような生活に。何の変化もない、変わらない毎日が続いていく、そんな現状に。
「何する?」
「んーとりあえず、映画でも見る?」
「あーいいね。とりあえずアマ○ラ付けとくね」
「うい」
「何がいい?」
「うーん、過去の名作とか?」
「今日はちょっと贅沢してレンタルする?」
「おっいいね。じゃあこれとか」
「いいね、恋愛もの。じゃあ、ちょっとコーヒー入れてくるから。先座ってて」
「ありがとー」
高校生の頃の私は何かと焦っていた。その焦りはとても不鮮明で輪郭がなく、自分が何に悩んでいるのか分からなかった。その漠然とした不安はもしかすると、受験戦争の過度なストレスによるものだったのかもしれない。もしくは、勉強しても勉強しても、その成果が実際何に役立つのか、一向にわからなかったからかもしれない。それとも……
今でも私たちは不透明な毎日を生きている。でも、高校生のときほど、わからないということに、恐怖を抱かなくなったのはなぜだろうか。将来をどうしていこうとか、自己実現をどうやって成し遂げようとか、そんな崇高な目標とかも最近ではどうでもよくなっている。
高校時代にあれほど、散々言われてきた社会貢献という言葉も、今では糞食らえと思うようになった。自分の実力もないうちに、心の底から社会に貢献しようと考えることのできる人はそんなに多くはないということを大学に行って、あの無気力な人間たちを見てからリアルで感じてしまった。そしてそのうちの1人が私でもある。
諦めた数があなたを大人にするという言葉はまさに言い得て妙なのかもしれない。最近は本当に、そう、思う……
「なぁ、セックスしながら、映画みよ」
「あーやだ。だってそれだと集中できないじゃん」
「別に激しいことはしないからさ。入れてるだけでいいから」
「……なんでそんなことしたいの?」
「うーん。なんか変わったことしたいなって」
「ふーん。変な人ね。まぁいいけど」
私はコーヒーの入ったマグカップを折りたたみテーブルの上に置く。
そして、パンツを履いていない状態の、ダボっとしたよく分からないズボンを脱ぎ捨てて、彼のスタンバイしている場所へ、ゆっくりと腰を下ろしていく。
「濡らしてないけど、すんなり入るもんだな、意外と」
「あー喋らないで。今いいとこ何だから」
「あーい。じゃあ、俺は勝手に1人で動いてるわ」
彼はそういうと、ゆっくりとしたペースで動き始めた。
抵抗を強く感じながら、私は恋愛映画を見る。
昔の映画というだけあって、画質はいいとは言えない。だが、それがむしろ、この映画の味を出しているともいえる。
ピチュピチュピチュ……
ピッチュピッチュピッチュ……
『I am not as fine a person as you think I am. So please don't put such expectations on me. If you are thinking of me, don't ask me for anything.』
春休みの雨の日。
私の部屋のなかには、お互いの気持ちが独立して存在していた……