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追放された魔法侍はドワーフの温泉宿でいい想いを味わう 〜温泉、サウナ、漫画、ラーメン、ビール、餃子、エルフ、モテる、なんでもあるよ〜

作者: イーサーク

「魔法侍、あんたはクビよ。今すぐ私たちの前から出ていって」


 忘れるために俺は、町のドワーフが経営する温泉宿に向かった。


 宿の入口で靴を脱ぎ、靴箱に入れて鍵を閉める。

 そばの受付で靴箱の鍵と腰の日本刀、左手に持っていた魔法の杖を預けて、タオル一枚レンタルした。


 女湯から出てくる子に目配りしながら、男湯の暖簾のれんをくぐって更衣室へ。

 ロッカーの前に行き、フードがついた青色のマント、旅人の服を脱いで、鍵をかける。


 ロッカーの鍵を手首に巻いて、いざタオル一丁となって浴場へ!


 カポ~ン、というおなじみの音が響き渡る。

 これだよ、これ。

 浴場の洗面所で身体をきれいに洗ってから、温泉の中へ入った。


「ふう……」


 隅の壁に寄りかかって、ゆったり湯に漬かる。


 ここは格安で、料理と酒もうまい。

 サービスいいから、結構な人気がある。

 しかも今は、俺一人の貸し切り状態だった。


 いやあ、やっぱり温泉っていいもんだね。

 嫌なこと忘れられるよ。


 ほんの一時間前、俺は入ったばかりの冒険者パーティーで、リーダーの女魔術師に追放されたばかりだ――。



「はっ?」

「だからダイチ、あんたは、用済みだって言ったの。ほら、行った、行った」


 酒場の中で、魔法侍姿の俺は意味が分からず突っ立っている。

 女魔術師ラバナは取り巻きの男たちと一緒に、ニヤニヤ笑っていた。


 俺たちは、S級冒険者パーティー『悪狼狩り』。

 一ヶ月前、俺は初めて冒険者となり、このパーティーに雇われたばかりだ。


「どうして俺がクビなんです? この前、王様との大事な会談のため外交使節としてやって来たエルフのお姫様を魔族から助けたばかりですよね?」


 その時の魔族は強かった。

 それでもお姫様を助けられたのは、俺の活躍があったから。

 エルフのお姫様、元から侍の大ファンで、キャーキャー喜んでくれたっけ。


 そんなことを密かに思っている俺に、新リーダーの女は説明しようとする。


「ダイチ、あんたは日本からやって来た侍と、私たちのいる世界の森の中でひっそりと隠匿していた魔女の両親に拾われて育ったのよね?」

「そうですが……」


 何百年も前から俺たちのいる世界では、日本という異世界からたくさんの人たちが転移してきている。そのため異なる世界の文化が入ってきて、ドワーフの温泉宿みたいなものが色々できた。


「日本の刀、漫画、小説、お寿司……何でもいいけど、あんたは子供の頃から父親の故郷のものに接し、武術と魔法を教わって育ってきた。魔法侍なんて、やれるのもそのためね?」

「ここに入った時に説明したとおりです」


 この職業を思いついたのは、天然の母親。

 やってるのは、愛する女を護ることを選んで、志半ばで夢を諦めた父親の分まで名を上げるため。

 そこまで本気で思ってるわけじゃねえが、まあ、恩返しだな。


「それで、今言ったことの何が、俺をクビにする理由になるっていうんです?」

「全部よ、全部。あんたを誘ったのは、侍好きなお姫様のご機嫌取りのため。それがなかったらあんたみたいな汚物誘うわけないじゃない。元々私は、あんたが大好きなもの全部、大嫌いなんだから」

「……はっ?」


 俺は、マジで頭がおかしくなってくる。

 

「漫画や小説なんて気持ち悪い、お寿司やおそばなんてグロテスク、見るからに田舎臭くて古臭い。侍なんて、野蛮人そのものだわ」


 異なる文化をどう思うと、そいつの自由だが、


「そんなところからやって来た男を愛する女も大概よ。只でさえ神に仇為す汚れた魔女だっていうのに。だから私たちも汚されない内にあんたをクビにするの」


 ずっと大好きだったものをそこまで言われて、黙っていられるはずがない。


 俺は腰を低く構え、左手に杖を持ったまま、腰の刀を抜き放とうとする。


「ひっ……!?」


 いきなりの俺の行動に、目の前の女が超ビビった。


 こんな奴斬ったって、あの人たちが喜ぶはずはない。


 溜飲を下げた俺は、刀を抜くのをやめる。

 その瞬間、俺は周りの男たちを怒らせ、剣や槍、杖を向けられることになった。

 

「てめええええー!!」

「ラバナさんになんてことを!?」

「ガキのくせに死にてえのか!?」


 このパーティーの男たちのほとんどが、ラバナの色気の虜だ。

 今すぐ俺を八つ裂きにしかねない勢いだった。


「……わかりました。いいですよ」


 俺は両手を挙げて、無抵抗を示す。


「お望み通り、俺から出ていきます」

「……さっさと出ていきなさい、このクズ!!」


 威勢を取り戻したラバナが激怒し、俺に醜く怒鳴り散らした。


「そうだ、そうだ、さっさと出ていけ!!」

「ダンジョンの中で死にやがれ!!」


 うるさく喚くそいつらに背を向けて、酒場の扉に手をかける。

 去り際に俺は、奴らに向かって、敬語は捨てて言い返す。


「おっと、これだけは言っとくぜ。後で俺を追い出したこと……後悔するなよ」


 こんなパーティー早々に抜けるかとは思っていたけどな。

 誘ったのはお姫様のご機嫌取りのためだけだっていうんなら、初めからそう言ってくれりゃあいいのによ。誘ってくれただけで、嬉しかったんだ。


 それなのに……こんな嫌な想いさせられるとは思わなかったぜ。



 一人でもやっていく自信はあるが、そう上手くいくかねえ……。



 俺は、温泉宿の熱い熱いサウナの中にいた。


 入って、三十分。

 熱い、熱い……この後のビールのために我慢、我慢……。


 俺はじっと耐える。


 斬っちまえばよかったか、なんていう危ない気持ちが出てくる。

 けどそんなことしちまったら、あの人たちに会わせる顔がない。


 しばらくした後で、俺はサウナを出た。

 更衣室で浴衣に着替えて、廊下を抜ける。

 途中で浴衣姿の女の子たちを拝みながら食堂に向かった。


 食堂内には本棚が設置されていて、漫画が七百冊ぐらい並べられている。

 なんと食事しながら読むことが許されているのだ。

 サービスいいだろう?。


 俺は本棚から読みかけの漫画を手に取ると、カウンター席に座った。


「いらっしゃい、お客さん。何にしますか?」


 厨房にいる女エルフの職人が、カウンター越しに聞いてくる。


「そうだな……」

 俺はメニューを見ながら、今夜食べるものを決めた。

「味噌ラーメン、餃子六個入り、アサ◯ビールジョッキ一杯、以上!」

「まいど〜」


 俺は料理が来るまで、手にした漫画を読む。


 俺が読んでいるのは、作者が女エルフ漫画家、主人公はへっぽこエルフ少年。

 森奥深くの館を舞台に、エルフの王女、人間の少女、ドワーフのお姉さんなどといったヒロインたちとドタバタ劇を繰り返すほのぼのラブコメ作品だ。


 たまにお涙頂戴のシリアス展開。

 森の中で寂しく暮らす孤独な男エルフたちに大人気である。


 その過激な内容(人間基準からすればギリ健全)から一部の地域を治める老人エルフたちに有害図書、禁書扱い、発禁処分を喰らってるらしいが、複製、転売、横流しと流通が盛んで歯止めがかからない。


 禁書ってなんじゃそりゃあと言いたくなるが、何百年、何千年と厳格に生きてきた、伝統を重んじる老人エルフたちの気持ちもわからんでもない。

 当然、人間世界では普通に出版され、日本漫画、現地漫画と人気を争っている。


 ちなみに、今年で連載百周年。

 自分も読んでおいてなんだが、それでいいのか、エルフ?


「は~い、お待たせしました~」


 目の前の厨房から、女職人エルフの手が伸びてくる。

 俺の前に置かれたのは、味噌スープとラーメンとチャーシューたっぷり入ったどんぶりと、じゅくじゅく焼かれた餃子六個乗った皿。続けてドカッと飛び込んできたのは、白泡たっぷり黄色いビールいっぱいのガラスジョッキだ。


「待ってました!」


 お淑やかな美しいエルフの職人姿っていうのも乙だねえ。

 お待ち~って、江戸っ子らしく言われるのも可愛いだろう。


 俺はまずジョッキの取っ手を取って、ビールをゴクゴクと飲む。

 唇に白い泡がジュルとして、口の中にほろ苦い酒が流れてきた。


 舌を転がして、さわやかな味を楽しむ。

 頭と身体の中に、心地よい酔いがすうっと入ってきた。


 次に飲むのを止め、ジョッキを右側に置く。

 カウンターに置かれた束から箸を手に取った。

 どんぶりを顔の下に寄せて、ラーメンの麺をずずっとすする。


 うーん、美味い。

 こってりとした脂がのってていいねえ。


 れんげですくって、スープもずずっと。

 これもおいしくて、身体が温まる。


 続けて、餃子。

 醤油とラー油を小皿にたらし、箸で混ぜる。

 それから餃子を一個、小皿につけて、口の中へと持っていく。


 くう~。この味に、元気づけられるぜ。


 その後も俺は、ラブコメ作品をおかしく楽しみながら、ラーメン、餃子、ビールをおいしく味わった。


 しばらくして食べ終わって、小さなコップのお水をごくごく。

 当然ジョッキも空だ。


「ビールおかわり。もう一本」

「銘柄はどこにしますか?」

「そうだな……キリ◯で」


 俺は、どの銘柄もイケるぜ。


 すぐ飛んできた二杯目のビールを飲みながら、漫画のつづきを楽しむ。


 ふと気づいて、食堂の壁にかけられた時計を見ると、宿に入って既に六時間が経過していた。

 そろそろ帰るか……。


「あっ、ダイチさん。ここにいたんですね。やっと見つけました〜」


 と思ったところで、いきなり騎士の少女に話しかけられる。


「あなた……メルディさん?」

「はい、メルディです。先日はどうもお世話になりました」


 そう言って、メルディがお辞儀する。


 この子は、この前エルフのお姫様を助けた時に彼女の護衛として同行していた騎士の一人だ。冒険者と騎士の違いはあれど新人同士ということで親しくしてくれて、魔族が襲ってきた時、俺は彼女と一緒に戦った。


「なんでここに? さっきの口ぶりから察するに、俺を探してたんですか?」

「はい。あなたを探すために四人がかりで町中を捜索してました」

「俺を探すために四人がかりで?」

 

 しかも探し回ったということから元を辿って考えると……。


「もしかして、先に悪狼狩りを訪ねました?」

「はい……。聞きました。残念です」


 マジかよ……。


「ごめんなさい、お楽しみの最中だったのにお邪魔してしまい、それどころか思い出させてしまって」

「構いません、構いません。あなたは何も悪くない」


 彼女たちは、自分の仕事をしただけだ。

 こうやって気遣ってくれるだけでとてもありがたい。


「それでどうして俺を探してたんですか?」

「はい、ダイチさん。実はエルフのお姫様が、侍であるあなたにすっかり入れ込んでしまいまして、会談が行われる間、改めてあなたのいるパーティーを雇いたいと言ってきたんですよ」


 えっ?


「……それ、ほんと?」

「はい。順を追って話していきますと……それなのにあなたがパーティーをクビにされたとお聞きして、お姫様、ものすごく怒ってしまって」


 わお。


「只でさえお姫様のご機嫌を損ねただけでも大変なのに、あの方はエルフの国から送られた大事な使節。外交問題にも発展しかねないということで、国王陛下までお怒りとなり、S級パーティー悪狼狩りは、降格処分を受けることになりました」


 ……マジで。


「……降格ってことは、S級からA級に?」

「いいえ。二階級降格なので、S級からB級です」

「B級って、平も平、モブのBに?」

「はい。モブのBです」


 俺は何も言えなかった。


「……そうですか。で、俺は?」

「はい。お姫様が、だったらあなたと個人的な契約を交わしたいということで町の中を探し回っていたんですよ」

「……なるほど。そういうことだったんですね」

「そういうわけです。ダイチさん、来てくれますか?」

「もちろんですとも。明日早速伺います。お姫様によろしくお伝え下さい」

「ありがとうございます!」


 メルディは、満面の笑みとなった。


「それでは、ダイチさん。また明日、お待ちしてますね」


 そう言って、メルディは上機嫌で帰っていった。


 俺はテーブルの方を向いて、まだ酒が残っているジョッキを片手に握る。


「……ククク」


 愉快な笑いが止まらない。


 あいつらは、二階級降格。王様にも目をつけられる。

 それと比べて、俺はお姫様に気に入られて個人契約、王様の目にも止まった。


 俺はたまらず、ビールを一気飲みする。


 かあー、もう最高!

 これが飲まずにいられるかっていうんだ。


「お姉さん、もう一杯!」

「は~い」


 ゴクゴク。

 かあ〜、うめえ〜。

 もっと飲もう、飲もう。


 今夜は遅くまで飲み明か……えっ、魔法侍はどうしたって?


 刀とか杖とか、振らないの? 

 魔法、ぶっぱするんじゃないの? 

 どんなスキル使うんだよ、見せてくれないのって? 


 ……すまねえ。


 けどさ、せっかくいい気分になってきたんだ。

 頼む。今は楽しませてくれ。

 なっ、なっ。


 俺は、七杯目のビールを一気飲みする。


 はあ~、うっめえ……。

 

「お姉さん、もういっぽーん。あと餃子二十個追加で!」

「は~い」


 その夜、温泉宿で俺は、腹いっぱい酔いたいだけ飲み食いするのだった。


 ああ、明日の二日酔いとか腹の具合なら心配いらないぜ。

 そんな時のために、一発解消できる母さん秘伝の霊薬があるからな。

そのあとの話

 魔法侍の武芸披露(スキルが気になる人はお読みください)


 それからまもなくのことである。

 また思いがけない事態が起きた。


「あのう、すいません」


 飲んでいる俺に、温泉宿の浴衣を着た人間、エルフ、ダークエルフの可愛い三人娘が話しかけてきたんだ。


「はい、なにか?」

「魔法侍のダイチさんですよね?」

「お姫様を助けていただいたっていう?」

「刀と魔法、共にすばらしいと聞いたぞ!」


 えっ、なに、なに。

 俺って、この子たちに話しかけられるぐらい有名になってるの?


「ええ、そうです。俺が魔法侍のダイチです!」


 俺は張り切って、自己紹介する。

 その子たちは喜んだ。


「やっぱり!」

「あの、もしよかったら刀と魔法を使うところ見せてくれませんか?」

「えっ!? あなたが魔法侍さん!?」


 すると厨房にいた職人の女エルフまで話に加わってくる。


「私にも見せてください!」


 俺、今、モテている!


「あっ、そうだ。店主ー!」


 ドワーフの宿の主がやってきて、俺は刀と魔法を使った武芸の披露を依頼された。


「いいですよ。喜んで!」


 宿の主と女の子たちが拍手してくれる。


 それから店の人たちによって、披露するための舞台が整えられた。


 用意された舞台は、なんと温泉宿の男湯。

 そこの浴場で入浴中のお客さんに迷惑かけるのではないかと思ったが、その人たちは話を聞くと誰もがノリノリでつき合ってくれた。


 男湯に裸の男たち、浴衣姿の女たち、厨房の職人たちが観客として集まった。

 家族連れの人までやって来て、誰も入っていない温泉の前に集まる。


 店に預けていた刀と杖を返してもらった俺は、浴衣姿で舞台の上に歩いて行く。

 腰に日本刀を帯び、左手に魔法の杖を持ちながら、温泉を背にして観客たちの前に立った。


 まずは、挨拶からだ。


「みなさん、こんにちわ。魔法侍のダイチといいます」


 自己紹介すると、観客たちが拍手してくれた。 


「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます。この場を用意するためここで入浴中でしたのにお譲りしてくださった方々、温泉宿の人たちには感謝に堪えません。少しの間ではございますが、皆さまに楽しんでいただけるようがんばりますので、どうかよろしくお願いします」


 そこまで言って、観客たちに一礼した。

 温かい拍手に包まれながら、慎ましく顔を上げる。


 格好にはだいぶ悩んだ。

 元のマント姿でも良いと思ったが、せっかく温泉に来たんだから浴衣ですることにした。 

 ああ、正直かなり酔っていたが、俺の手元が狂うなんてことはありえない。


「それじゃあいきま〜す」


 俺は、腰を落として構える。

 左手で杖と鞘を重ねながら両方の先を手で抑え、刀の柄を右手で握りしめた。


 用意が整った俺の前に、宿の主が一つのリンゴをポーンと投げる。


 リンゴが目の前にきた瞬間、俺は素早く刀を抜いて振り払った。

 宙のリンゴが真っ二つに割れ、温泉の中にどぼんと落ちる。


 もちろん俺が、斬ったのだ。


 俺の妙技に、観客から拍手喝采が沸き起こった。


「次、二刀流」


 左手に杖、右手に刀を持って、その場に立つ。

 俺の前に宿の主が、四つのリンゴを続けて投げた。


 俺は左手の杖に、《変化》の魔法をかける。

 『杖』を『刀』に変えて、二本の刀を四回振るった。


 四つのリンゴを、先ほどと同じように両断し、温泉の中に落とす。


 杖が刀に変わるというめずらしい魔法も目にして、観客がどよめいた。


 母さんと一緒に造った魔法の杖だからな。

 弓にも、槍にも、斧にも変わる。杖のまま振るったって強いぞ。

 剣術、弓術、槍術、斧術、杖術は、親父殿に教わった。


「続けて、火の魔法!」


 宿の主の許可は取ってある。


 宿の主と男たちがリンゴをいくつも手にして、俺と温泉に向かって投げまくる。

 当然リンゴは、俺の刀が届かないところにもたくさん飛んで行った。


 俺は、火の魔法を唱える。

 左手の杖の先から炎を出し、右手の刀の刃に炎をつけた。


 攻撃魔法と魔法剣の同時使用だ。


 刃が届かないリンゴに火球を飛ばし、届くリンゴは炎の刀で焼き払う。

 火がついた真っ二つのリンゴが、次々と温泉の中に落ちて消し止められた。


 それ以外に、火は全くついていない。


 華麗にして豪快な技に、観客から拍手と歓声が起こった。


「最後にとっておき、魔の一刀」


 浴場の隅には、巨大な岩があった。

 俺の身長よりも高く、刀の先が届かないほど奥行きがある。


 俺は左手に杖を握りしめ、右手に刀を構えて、巨大な岩の前に立つ。


 観客たちが注目する中、刀を片手で頭の上まで振り上げる。

 その刀身に、多くの魔力を込めた。


 これからやるのは、刀の一撃を極限まで強化する魔剣だ。


 俺は巨大な岩めがけて、その刀をななめに振り下ろす。


 巨大な岩が、俺の前の先から奥まで右斜めに両断された。


 この技は、刀の先から魔力の斬撃が走る。

 それが、巨大な岩を奥の奥まで断ち斬ったんだ。


 観客たちから、これまでで一番の拍手と歓声が湧き立つ。

 その中で、俺はみなさんに話しかけた。


「もちろんこの岩は、この宿のものですから壊したままではありませんよ。魔法侍は、壊れたものを元に戻せる魔法使いですからね」


 そう言って、割れた岩に向かって、左手の杖をほいっと一振り。

 魔法をかける。


 断たれた岩の左上側が浮かび上がり、右下側と重なって、たちまち元に戻った。


 土魔法は、俺が一番練習してきた属性だ。


 俺のこのパフォーマンスに、さらなる拍手と大歓声が送られた。


 その後、宿の主に壊したままでいいと言われたので、魔法を解いた。

 これから浴場には、斜めに重なって、注連縄が巻かれている二つの岩が置かれることになるという。


 俺と親父殿の名が上がったぜ。

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