3:おはよう、異世界。
「──で、エロガキ。洞窟がどこら辺にあるか目星はついてるのかい?」
「エ、エロガキ……? フローリアお姉ちゃんはそんなに遠くは無いって言ってたけど……。」
麺棒みたいなのを片手にずんずんと森を進んでいくエロガキ。
ま、夕暮れまでには帰してあげないとね。そこだけ気を付けておきましょう。
……どれ、エロガキのステータスは。
宝をもらうに相応しいかお姉ちゃんが確かめさせてもらおうじゃないか。
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「ライアン」
(ヘルプを開く)
LV:8
ジョブ: 無職
生命力 68/68
マナ 20/20
力 24
防御力 18
魔力 5
魔法防御力 8
素早さ 20
運 18
[装備]
:ヒノキの棒 力+1
[スキル・魔法]
(詳細を開く)
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──レベルがタメ!!!
うっそだ!! こんなエロガキとレベルがタメ!?
フフ、でもぼくの方がステータスはどれも上だな……魔法なんて雑魚じゃないか、雑魚。
やーい才能なし、同じ無職でもこんなにステータスに差があるなんてっ。
「フッ、まぁせいぜい頑張ってくれたまえよ、エロガキくん……」
「う、うん……お姉ちゃん、エロガキじゃないよ……。僕はライアンだよ……」
うーん。
この世界じゃあまりレベルは指標にならないのかな……。
「ロキさん!! 鑑定眼まで使えちゃうんですかっ!?」
「──え?」
「特質ですよ特質っ!! スキルとも魔法とも違う特殊な能力ですっ!! 他の人のステータスを見ることができるのは正しく『鑑定眼』ですよっ!!」
「おっ、フフ……なんだい、まさかぼくのコレは凄かったりしちゃうのかいっ?」
「はいっ!! 凄いですよロキさんっ!!!」
「アッハッハッ!! おいお~い、やめたまえよポプラく~ん!! まったくぼくは他人のステータスを覗いただけなんだけどなぁ~!!」
「──そうだポプラあまりコイツを甘やかすなそれくらい普通なことだ」
うわっ、バカ眼鏡!!
「ポプラは知らないのだろうが『鑑定眼』を持って転生する人間なんてザラにいる。あまり調子に乗るな鈴白」
「お兄様~、天界のお仕事忙しいんじゃないんですか~? こんなところでぼくとお話してる暇があるんですか~??」
「ハッ!! たまたま通りかかったら会話が聞こえたもんだからな、僕は真実を伝えに来たまでだ!! お前なんか全然すごく無いって事をな!!」
「へいへ~い、じゃあね眼鏡~」
「フハハ、スネたな鈴白! ブァーーーーーーーッ!!! あー愉快だ! 今日は久々に気持ちよく寝付けるぞぉ!!」
だ、大丈夫かこの眼鏡……ちょっと心配になってきたぞ。
「す、すみませんお兄様が……」
「いえいえ……」
ハーッハッハッハッハ!!
遠くからなんか聞こえてくる……。
「うーん、特質かぁ。それもステータスで確認できるのかなぁ」
「はい、できますよっ!!──その、よかったら一緒に確認しませんかっ!!」
「ふふ、みたいかねポプラ? ぼくの特質をみたい?」
「みっ、見たいです!! かなり、とても、すごく……!!」
「ちっちっちっ。これを見せちゃったらポプラはもうびっくりしてくれなくなるからなぁ~っ。今はまだ秘密にしておこっかなぁ~っ」
「えぇ~っ!! 気になりますよぉ~っ!! ロキさんっ、見せてっ! 見せてぇ~っ!」
「はいダメ~ッ!!」
切った!!
うふふ!!!
特質、特質っと。さぁーって、ぼくは一体どんな特質を持って降り立ったのかなぁ~っ??
お、まずは鑑定眼。それから、おぉ。『魔術9』、『マナ再生3』……マナ再生。マナが回復していたのはコレのおかげかぁ、強いじゃないか。
それと、なんだいこれは……『魅惑の血』? ヘルプっと……へぇ、ぼくの血はどうやら魔物を引き付ける気質になっているらしい。注意しなくっちゃ。
その他には、『飛行』『変身』、『ステータス偽装』……まだ、まだ。たくさんあるね。
「…………。」
「……ふぅ~ん」
こりゃ、全部把握するまで時間がかかるなぁ。
とりあえず、飛行と変身は便利そうだね……。覚えておこう。
「どうーエロガキ? 見つかりそうー?」
……エロガキ?
あれ!? エロガキは!?
いない!! ちょっ、どこ行ったんだアイツ!
大変だっ、しばかれるぅっ! 迷子にさせて帰っていったりなんてしちゃったら村人総出でしばかれるっ!!
「おーい!!! エロガキィー!! エロガキどこいったぁーっ!!」
「──お姉ちゃん助けてぇっ!!」
ムッ!! エロガキの声が森の向こうから!!
「お姉ちゃん行くから待っててねーっ!! あ、どさくさに紛れてパンツ覗こうとすんなよお前っ!!」
「覗かないよっ!! お姉ちゃんは僕をいったい何だと思ってるのっ!!」
「助けに来たぞエロガキオラァーッ!!」
……フム、イノシシか。
どれ。
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「ゴア・ボア」
(ヘルプを開く)
LV:10
ジョブ: 低級モンスター
生命力 80/100
マナ 0/0
力 35
防御力 10
魔力 0
魔法防御力 3
素早さ 28
運 10
[装備]
:ゴア・ボアの牙 力+3
[スキル・魔法]
なし
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おお、ただのイノシシっぽい割にはいっちょ前に生意気なステータスしてるなぁ。
ところでここって安全な地域なんだよね? レベル10のモンスターって強くなあい?
……うーん、この世界の事よく分からないからなぁ。
ま、いっか。
「おいエロガキぼくはこの茂みから絶対にでないからな。覗かれたらたまったもんじゃないからな……」
「見ないからぁっ!! というか見れないよぉっ!! 助けてよぉっ!!!」
見れたら見るつもりだったのかっ!! コイツ、やっぱり油断も隙もないエロガキだな……!!
エロガキは麺棒を噛ませてなんとか抗ってる状態だ。手なんか牙で擦れて傷だらけじゃないか。
こりゃふざけてる場合じゃ無さそうだ。
よく見りゃエロガキの麺棒にはヒビが入ってきている。
近くの茂みに隠れているが、ここからでも少しミシミシというきしみが聞こえてくるぞ……。
さーて。
村で聞いた危険な魔物が出るという噂はこいつのコトだな。
エロガキは完璧に時期尚っ早。まっ、行かせたぼくもぼくだ、鍛錬を重ねて出直してもらいましょっか。
……こう使うんだよね、これ。
しかし仰々しい名前だ、さぁ威力を見てみよう。
──『神の光線』
迸る一条の光が、あっという間にイノシシを貫く。
いや、貫いたかどうか、ぼくの目には全く見えなかった。
ただ白い光線が走り、そして気付いたらイノシシは倒れていた。
マナ消費は150。脅威のマナ持ちの悪さ。
でもかっこいいから良しっ。フフ、予想通りの魔法でございました。
「うぐっ、ううっ……!!」
おっとエロガキがイノシシの下敷きになってる、どかさなきゃ。
よっこらせっ。
「ほらー、大丈夫かエロガキ。──あ、パンツ覗くなよっ!」
「お、お姉ちゃん今……!」
「え、何!? パンツ見えた!? 自分の傷の心配よりパンツが勝るか!!! エロガキは本当にエロガキだなぁ!?」
「いやっ、見てないしお姉ちゃんの中で僕の評価どうなってんだよ……!! 今、お姉ちゃんゴア・ボアを片手で……!!」
「え?」
あ、おぉー……
「──すごいなぼく!!」
「お、お姉ちゃんすげぇ……」
……うーん、力関係のステータスはぼくよわよわだし、何か特質が関係あるのかなぁ? いっぱいあって全部見てないや。
「じゃエロガキ帰ろっか。こんなちんちくりんなイノシシ一匹にこうなっちゃうようじゃ、無理だよ」
「……そう、だね」
「えーと、ヒール?」
お、発動した。
回復魔法で少年の手の傷がみるみる回復していく。
「あ、ありがとう、お姉ちゃん……」
「どうする? 帰りはおんぶしていこっか?」
「あ、えーっと……」
「あっ、やっぱいいや。エロガキお前どさくさにまぎれて股ちんころ背中にスリつけようとしたりさり気なくおっぱい触ったりしようと思ってるだろ。そんな野蛮なエロオスガキをおぶるつもりはないから引き続きキミが先頭立って帰ってねパンツも覗かせないから」
「お姉ちゃんぼくお姉ちゃんのせいで女の人が嫌いになりそうだよ」
いやぁ、もう日が沈んだかぁ。結構奥まで歩いてたんだなぁ~……。
フローリアお姉ちゃんはそう遠くないって言ってたらしいけど、実は通り過ぎてたのかな?
「ライアンっ!!」
「お母さんっ!」
おっと、お出迎え。
村人がぼくたちの事心配して森の入口で待ってくれていたようだ。
金髪のママさんが走り寄るライアンを抱きかかえる。
息子をありがとうございます、ってお礼までされちゃった。
どっちかっていうと危険に巻き込んじゃったんだけど……ま、いっか。
「ロキ!! 怪我は無かったかい?──あ、あんたその血!!」
「え? あー、ちょっと枝で切っちゃったのかな? コレくらいなら大丈夫だよ。へへ」
ぼくにお家くれてるおばあちゃんが心配して駆け寄ってくれた。
ちょっと手を切ったみたいで、血が出てるね。
森の奥から草木のざわめく音が響いてくる。
あ、そうだ。
「やっほーポプラちゃん」
「はいっ、ロキさん!!──って、その血大丈夫ですか!?」
「え、これ?」
「あ、村のみなさんも見ます?」
村の皆も結構心配そうだなぁ。そんなに血出てるかなぁ。
「──はい。」
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「鈴白 ろき」 [変更:1度まで]
(ヘルプを開く)
LV:8
ジョブ: 無職
生命力 1/104
...............
............
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「ロ、ロキ……?」
「おばあちゃん。ぼくたち今日、ゴア・ボアに会ったんだ。」
草木のざわめきが徐々に村まで近づく……。
「牙でね、腕を切られちゃった」
激しい地鳴りが、振動と共に村中に響き渡る……。
「──ロキ、さん……?」
「やっぱりさ。血のニオイって、美味しそうに感じるのかなぁ?」
──草木を踏みにじり、森から飛び出す無数のゴア・ボア。
互いにぶつかり合う事など気にせず、狂ったように猛進を続ける。
「……っ!! 魔物だ!! 魔物が攻めてきたぞーっ!!」
村中に響き渡る鐘の音。
それすらも掻き消えそうなほどに、ゴア・ボアが狂ったように村の中へ駆り出てくる。
踏み潰される村民、喰い荒らされる農夫、家畜。そして、老婆……。
あー、あれぼくの事かくまってくれたお婆ちゃんだねぇ……。
うわぁ、グロい……そんなに食い千切ん無くたっていいのに。食欲旺盛だねぇ。
ふぅ。一瞬でこんなになっちゃうとは、ぼくもびっくり。
──もう“血”はいらないかな?
「ヒール。」
よし、完治っ!
「……ロキ、さん…?」
「──あ、これぇ? ふふ、なんとぼくには『飛行』の特質がついてたんだよ!! へへっ、すごいでしょー。褒めて褒めて?」
「じゃなくて、違う……ロキさん…村、村が……」
「にぎやかだね……ねぇ、渋谷って知ってる? ぼくがいた地球の話なんだけど、スクランブル交差点の信号が切り替わるとこんな風に──」
「──ロキさん!!! 村がっ!! 村の人達がぁっ!!!」
「アハ。ポプラちゃん可愛い。」
「──っ……!?」
はぁ……。ぼくが男だったら食べたくなっちゃうよ、そんな顔をされたら……。
「ねぇ、ポプラちゃん……」
「……っ」
「キミは、とても可愛いね。」
「そんな顔を見せてくれるだなんて、キミはすごく可愛い……」
「あぁ、見て……ぼくの事を受け入れてくれた村が壊れちゃうっ…」
「ねぇ、ポプラちゃん…ぼくじゃ助けるのは無理だ」
「見てるしかできないなんて……ポプラちゃん、ねぇ、見て……。」
「ぼくら、見てることしかできないね……」
はぁぁ……楽しぃ…………。
背徳は、どんなものにも勝る快楽……。
ぼくはずっとずっとずーーーっと……恋い焦がれていた。
あの日から、ぼくはずっと……ずっとずっと、退屈だった……!!
はぁっ……。
「ねぇっ、あふっ、ふふふ……平和ぼけしてる人達って、こうもすんなり人を受け入れちゃうんだねっ……はぁっ……はぁっ……みんなっ、優しかったなぁっ、あふっ、あふふふ……」
──おや、あそこで食べられているのはライアンくんかな……?
ゴア・ボアがぐちゃぐちゃとお腹を食い漁っているみたいだ……。
「えへへ。ねぇ。エロガキ~! 生きてるっ?」
あ。目がこっち見た──
「やぁん♡ えっち♡」
「ねぇポプラちゃん。なんか、可愛そうだったね。村の人達」
「……誰のせいで、こうなったと思ってるんですかっ」
「やぁ~、まさかあそこまで血のニオイに敏感だったとは、ぼく予想外だった!!」
「──どうしてっ!!……ロキさんっ! どうして……っ!? どうしてこんな事っ……!!」
「ん~でもさっ、これだとただ単に魔物が無性に暴れちゃっただけっていう事に収まっちゃうよね」
「な、何を言ってるんですかっ……!?」
──『最上級火炎魔法』
うごめくゴア・ボアを諸共焼き尽くす灼熱の業火。
村の全てが、一瞬にして炎の地獄に包まれた……。
「おぉ……なんて威力!! ねぇポプラちゃんっ、見てみて!!! ぼく転生したばっかりなのに、こーんなにすごい魔法使えちゃうっ!! へへへ……!!」
「…………あ、あ……」
あー……相手してくんなくなっちゃった。
青ざめて、ただ呆然とこっちを覗いているだけで……ま、それはそれで可愛くていいんだけどねっ。
さてさてっ、これはもうどこからどう見ても敵襲!!!
それもきっと、すごい魔術師!! すごい悪いやつが村を襲って破壊してしまった!!
村民大虐殺、皆燃えカスとなり煤が大気に散っていくっ!!
「向こうの町、明かりが付いてるねぇ~……しっかりこの炎、見ててくれてるかな?」
メタモルフォ~ゼッ!!
フフ、『変身』だなんてっ、なんて便利な特質。
鷹に変身し、その翼を大きく開き飛び立つ。
向かうはあの明かりのついた町。さぁさ、敵襲の評判を聞きに行きましょう。
楽しみだな。楽しみだなぁ。
これが始まり、終わりの始まり。
神の皆様、感謝します。
数千、数万、幾星霜。
此の世を繋ぎ、育まれしは。
なんて素敵な、おもちゃ箱。