1:終わりの始まり。
「うん。これで終わっちゃうんだね。ここから一歩踏み出したら、終わり。」
……感慨か。死ぬ前に思う事。
少しくらいはあるけど。別にそれを勘定に入れてこの先生きるなんてことは。
でも、死ぬくらいのこともないか。
よくよく考えれば死ぬほど辛い何かがあるわけじゃない。
かといって別に、これ以上のうのうと生きている事もない。
じゃあ何、どっちがましかって。
きっと生きてりゃこの先いいことある。
それはそうなんだろう。いや、知らんけど。
まぁ、死ぬよりは? そりゃ死んだらゼロなわけだし、生きてりゃ1か2は……。
……なんてくだらないこと、考えてる意味もない。
なんていうんだろうか。
すごく、絶望的に退屈だ。
だから死ぬ。
平々凡々? それも似合わない。
ただ、面倒くさいというか、
何か、こう現実離れしたビビビとした、
脳の中に激しく電流が流れるほどのショック、高揚。
そんなものはもう二度と現れないんだなーと、思うと。
……あらがって必死こくのって、意味あるのかな。
ただずっと毎日、小さな幸せをツミツミするために──
まーいーや、死にまーす。おつかれー。
ぽーい。
こういうのは思い切りが大切。
じゃあねー、世界。
ハハ、今だけちょっぴり、楽しいかもね。
──走馬灯なんか見ないんだろうな、こんな人生。
「…………。」
ん。
おや。
「あ、あのー。あっ、起きてる! よかったー! 成功したぁ!! こんにちは、転生者さん!! えっと、えっとー、えと、あ、ようこそ異世界!!」
……。
「あ、じゃない! 違いますちょっと待って、あ、そうそう! 私は女神ー、え、ん?」
「…………んー。死んだよね、ぼく。」
「──あ、そう! そうです! あなたは死にました!! 私は女神、死したあなたの魂を呼び出し、転生させる者!!」
「あ、そういう。ボーナスある?」
「え、ボーナス!! はい、理解が早くて助かります!!! と、その前に少しだけ説明をさせてください!」
んー。楽しそうだね。
これはこれは、要するにはあれだよね、異世界転生ってやつ。
ぼくはつまりそのチケットを手にしたってワケでー、えー。
まぁ、楽しそうだよね、色々と、へへ、へへへ。
「あなたに転生してもらう世界はこちらです! えーと、こちらの星になります!! 天星リスカ!!!」
うわ、説明しなくても絶対に伝わりそうなホログラム出た。
まぁ地球みたいな丸で。おお、すごい。本当に宙に浮いてる。
どこから投影……とかそういうんじゃないんだろうなっ、これ。
お、ふふ! 手突っ込んでも大丈夫だ!
「あ、あのー……。フフ、そんなにめずらしいですか…?」
「いやあ、実際に見ると感動するねこれは! やっぱり魔法とかなのー??」
「そうですね、大方そのような感じです!」
「あなたの転生してもらうリスカなのですが、現在3つの地域を選択することができます。」
「へぇ、そこが選択性なんだ」
「そうですねっ、とはいってもあまり皆さんが転生するところと変わらないのですけど──」
「皆さんねぇー……。……なんだか事務的だねぇ」
「あ、なんでもないです。忘れてください…。す、すみません初仕事でちょっと、手際が良くなくて、すみません……。」
ハハ、なにそれウケる。
「大丈夫大丈夫、そんな気にしてないから」
「すみません……っ。えとっ、3つの地域なんですけども。1つが西、1つが東、1つが北。」
「西はすごく安全な場所です。そして東が危険と平和の混在する、そう。 まさに剣と魔法のファンタジーを体験するのにはピッタリな地域でして、人気が高いのはやっぱりこういう地域ですね。そして北は超危険!! 正直オススメはできないですけど、もし転生者さんがお望みでしたら一応ここに降ろすっていうこともできます……っ」
まぁ、東が……楽しむには一番無難ってところか。
西はスローライフ向け。
さしずめ北は魔王の本城とか何かってところなんだろうなー。
そんなとこ降りるやついんのかー?
「じゃあねー……あ、その前に! ボーナス決めたいかなぁ、ボーナス」
「あっ、ボーナスが先のほうがいいですかっ!?」
「そうだねぇ。転生ボーナスがどんなのか知れたらこういうのも選びやすいしさぁ、お願いっ」
「それはモチロン全然かまわないですっ!! ボーナスは非常にシンプル、あなたの望む能力を、どんなものでも1つ差し上げちゃいます!!!」
「……1つだけぇ?」
「え? は、はい……1つだけです……。」
「うーんそっかー。なんか最近の情勢で1つだけってちょっとケチじゃあない??」
「ケ、ケチ……。そっ、そうですかねっ……あ、えぇぇっと、融通、効かせますので……それでどうにか、満足してもらえないでしょうか……っ」
くぅ~~っ、なぁにこの子。
新人なんだねぇ、そうだねぇ今日が初勤務かい??
可愛いねぇ~~~……。
「そーおーだーねー。……じゃあこの部屋のやつ何か1つ持っていこっかなー!」
「わぁぁっ!? ダメっ!! ダメですっ!! 天界のモノは絶対に持っていっちゃダメですっ!」
「えっ、なんで??」
「えーとっ、あの、そちらは守秘義務がありますので、教えることができないですっ……。」
……天界。
そうだよねー、やっぱりそういう世界か何かなんだよねココ。
「……くひひっ。何か面白そう。ねぇっ女神様、天界に転生させてよ、面白そう面白そう!!」
「あっ、それはダメなんですっ!! えーと、マニュアルマニュアルっと……」
マニュアル……。
「んー……と、そうだそうだ。人の魂は天界に居続けると徐々に消えていってしまうんです!! だから、死んじゃうのでダメ!!」
「へぇ~」
「過去にもそういう方がいらっしゃってそれで判明したんですけどね、ちなみに鈴白様の魂も今現在徐々に消滅していってるという形ですっ……」
「わぉ大変だっ、早く決めなきゃ!!」
「えへへ、2,3日いるくらいでも大丈夫なので全然ゆっくりで大丈夫です!! 私もあまり、早く早くっていうのは好きではないのでっ……」
「──ねね、それでさ。本当に2,3日いちゃったらどうする? 1つだけってなると真剣にいろいろーと考えたいんだけど……。」
「えぇ~っと……す、すみません! 少々お待ちいただけますかっ!?」
おぉ、女神様が部屋から出ていっちゃった。
出ていっちゃったよ。
天界の何やら何やらが置いてある部屋にぼくを一人放置して。
──おいお~い、いたずらされちゃっても知らないよ~??
へっへっへ、へへ、へへ、へへへへ……知らないのになぁ~???
「──鈴白様」
瞬間、勢いよく開けられる扉。
いや、勢いよくとは言ったがそれにしては異常な勢いだ。風圧が目に見えたぞっ…。
この男女神……男女神っておかしいか。
えーと、この眼鏡のちんちくりん。汗だらっだらで息はあはあさせて。
「……ふう。鈴白様、ですね」
「あ、はい。鈴白でーす」
「あなたは、転生ボーナスを考えるために2,3日、こちらでの生を費やすおつもりと」
「はいそーです」
「……あえて厳しく言わせてもらいましょう。あなたは死んだにも関わらず幸運にも我々神々の恩寵を賜り第二の命を授かる身。ほんの多少のワガママは許すつもりではありますが、あまり我々を侮辱する行為はよしていただきましょう──あなたの態度は、それに当たる」
なんだよこの頭でっかち眼鏡。
ははは。
「っんだよそれ、ケーチ!──アッハッハ!!」
「……おい、貴様」
「──お、お兄様!! やめてくださいっ!! 私の初めてのお仕事なんですからっ!」
「お前、ポプラ!!! ダメだろ、お前完ッッ全にナメられてんだぞ!!! コイツ、僕の妹の仕事がたどたどしいからってナメにかかってんだ!!!」
「やめてくださいっ! 鈴白様はそんな人じゃっ──」
「だから僕が付き添いたかったんだよッッ!! たまにいるんだよなぁっ! こういうクソッタレみたいな性格したハズレ魂っていうのは!!! ポプラ、コイツを消せ!! 別のヤツを呼べぇっ!!」
「やめてお兄様ァッ!! お兄様っ、鈴白様はそんな人じゃないですからっ! お願いですっ、落ち着いてくださいっ!!」
「アッハッハッハッハッ!! ヒィーッ!! ──いやごめんごめん! 可愛くってつい、イジりたくなっちゃってさ! えーと、ポプラちゃん?」
「あ、はい、ポプラですぅ……。えへへ……」
眼鏡のお兄様がカンカンでいらっしゃる。あまりこれ以上意地悪なことするのはやめて差し上げましょうか。
──ふふ。
「フーッ……!! フーッ……!!」
「お兄様……落ち着きましたか……?」
「……フッ。まあいい。あまり舐めた真似はしないでいただこう。ここからは私も付き添わせてもらう、それでいいか」
「構わないよお兄様、それにからかいたかっただけでボーナスを何にしようかはもうとっくに決めている」
「貴様ごときが僕をお兄様と呼ぶな」
「えーっ、だめですかぁ~? お兄様ぁっ?」
「──テメェ!」
「あーあーお兄様!! 鈴白様もやめてくださいっ!! それでっ、ボーナスというのは何にするおつもりでっ!?」
「えーとねー。ポプラちゃん、キミといつでもお話できる能力がいいなー」
「へっ!?」
「…………。そんなボーナスを要求されたのは初めてだぞ? おいお前、なぜ貴重なたった1つのボーナスをそんな事に──」
「そんな事……」
「──いや決して『そんな事』ではないのだが、なぜそんな事に使う!!」
「ん~。楽しそうだから!!」
「……はぁ~。おいポプラ、付けてやれ。ボーナス」
「あ、はい……。えっと、それだけだとちょっと異世界を生き抜くのは厳しいと思いますので! 少しばかり身体能力にボーナスを追加させていただきます!!」
「あそれはデフォルトでついてくるのねー!! いいねいいね、嬉しいよそういうの!」
「そうでもしないとお前ら人間は速攻で獣か何かに食い荒らされるからな……折角労力を割いて転生させてやったのに、こちらとしても迷惑だ」
あ、このボーナスって下にそんな礎があったんだ……。
ありがとう、礎……。
「では降りる地域はどこにいたしましょう?」
「それもねー、もう決まってるんだ! 西にするよ、ぼくは」
「リスカの西──って、一番安全な場所じゃないか。ここなら身体能力ボーナスはいらないぞ。ポプラ外せ、無駄な力だ」
「え、えっ……!!」
「ちょっ、ちょっとまってよっ! その、ぼくもいきなり危ないところに突っ込むのは怖いからとりあえず西で様子見しようかなーって思って……」
「──ククッ!! ビビったか、貴様!? 仕返しだよバーカ!! ハハハハハ!!!」
「……ハハハ。お前、性格悪いなっ」
「貴様の性格の悪さが中々のものだからな。久々だよ、転生者にここまでイライラさせられたのは。──はースカッとした。おいポプラ、もう西のどっか適当なところに飛ばしてってやれ」
「あ、は、はいっ!! 鈴白さん、準備はいいですか!? 天星リスカ、西地域への転生を開始しますっ!!」
「うわっ、いきなり急かすねポプラちゃんっ!?」
「すみません急かされちゃったので急かしちゃいましたぁっ!! あっ、ゆっくりで、やっぱりゆっくりで大丈夫ですからっ──」
「いいよ連れてって連れてっちゃって! こういうの勢い大事だから、ねっ!!」
「は、はいっ、分かりましたっ!! では転生を開始します!!」
おおー、魔法陣だ!! 光る魔法陣、初めて見た!!
「行ってらっしゃいませ!──鈴白ろき様!!」
「……へへ。行ってきます。」
ろきが転生し、部屋に二人。
金髪の男神と女神は少しの間立ち尽くしていた。
「……大丈夫ですかね」
「まぁ、心配ならちょくちょく様子見てやればいいだろ。あと、お前と話すボーナスつけたんだろ? むしろお前、これからアイツの事鬱陶しく感じたりするんじゃないか?」
「そんな事、絶対無いですよっ!!」
「ハンッ。まぁ少なくとも、悪い奴じゃあなさそうだな。初転生にしては少し変わり者を相手にしちまったみたいだが、悪い思い出になるよりはいいだろ」
「──そういえば、お兄様が行った初転生はどのような方だったんですか?」
「…………。……異世界の女に興奮三昧、ボーナスを悪用して女性に乱暴を繰り返すクズだったよ。結局最後は勇者に殺された」
「そ、そんな……」
「お前、相手が女の子で良かったじゃないか。僕と同じ悲しみは体験せずに済む」
「鈴白さん、良い人だといいなあ……」
「……さんざ怒った僕が言うのもなんだが、信じてやれよ」
「そうですねっ。フフ。私とお話するボーナスなんて、フフフ。鈴白さんは変わった人です」
「じゃ、次の転生は受け持とう。ポプラは今日はもうおしまいでいいぞ。明日から本格的に仕事が始まるからな、頑張れよ」
「はいっ!! お疲れ様です、お兄様っ!」
「ああ、お疲れポプラ」
「……あれ。マニュアルがないぞ、どこ行った?」