第1章 第9話 追跡
「お姉ちゃんが人と話してる!」
学校から帰ってきた兎美さんが美空さんの部屋でゲームをしている俺たちを見て開口一番そう叫んだ。
「話すよそれは……。幼馴染なんだから……」
「幼馴染……!?」
「それにいじめられてたわたしを何度も助けてくれた恩人だから……」
「上位互換……! 龍夜くんっ!」
部屋の入口で狼狽えていた兎美さんがゴミの山を乗り越え、俺からコントローラーを奪い取った。
「見てて! 私の方がゲーム上手いから!」
「兎美ちゃんとやりたくない……ゲーム上手いから……。ゲームは初心者をカモにしないと……」
「その性格の悪さ配信で出さないでよ。キャラが傷つく」
兎美さんと一緒に帰ってきたのか、制服姿の鈴さんも部屋に入ってきた。
「それと絶対に男と同居してるだなんて話しちゃだめだからね。おねぇは童貞視聴者を騙して金毟り取ってればいいんだから」
「わたしの視聴者にひどいこと言わないで……!」
「でもお姉ちゃん結構雑談するタイプだから……」
兎美さんの言葉が遮られる。彼女のポケットからけたたましく鳴り響いた警報音によって。
「兎美さん……!?」
「お客さんが来たようです。入口にセンサーつけておいたんです」
「それだけで警報!?」
「当然です。うちには滅多にお客さん来ないんだから。今来るお客さんは、怪しいに決まってます」
スマホを弄って警報を止めた兎美さんが美空さんのパソコンに触る。直後大きなモニターに下の喫茶店の映像が流れ出した。映っているのは兎美さんたちの両親と、2人の警察官。彼らは椅子に腰かけることもないまま警察手帳を見せてきた。
「数日前この店に男子高校生が入店したという話を耳にしたのですが、監視カメラの映像を見せてもらってもよろしいですか」
「っ……!」
嗅ぎつけられていた……見られていた! そんな……ことって……!
「大丈夫です。素人に私の監視カメラが見つけられるはずがありません」
「うちに監視カメラなんてありませんよ。それにうちは喫茶店。客が来るのは当然でしょう」
お父さんが警察にそう告げる。兎美さんの話もあるし、大丈夫かもしれない。でも……。
「悪いけど俺の靴持ってきてくれるか。最悪二階から飛び降りる」
「安心してください。よほどの証拠がない限り警察がここに来ることはありません」
「でも……周りの監視カメラに映ってたかもしれない」
「普通の監視カメラはそこまで解析度は高くありません。帽子を被っていればまず大丈夫です。ただ……」
兎美さんが口をつぐむ。それからしばらくして、スピーカーから警察の声が届いてきた。
「先日の男子高校生殺人事件。その犯行時刻に娘さんの姿が確認されています。容疑者と何らかの接点があるかもしれないし……可能性としては低いですが、娘さんが犯人、ということもあるかもしれません。またいずれ、お話は伺わせていただきます」
半ば脅迫するかのように言うと、警察官は店を出ていく。
「……もしかしたら、この家を捨てた方がいいかもしれません」
そのつぶやきに、俺は何も返すことができなかった。
キャラの紹介も終わったので少し物語を進めていきます! 期待していただける方はぜひ☆☆☆☆☆を押して評価とブックマークをしていってください!