第1章 第7話 お姉さんは同級生
「今日もお客さん来ないなーハハハハハ!」
厨房でせわしなく動きながらお父さんが笑う。いつ客が来てもいいようにご苦労なことだが、全く意味をなしていない。
「とりあえず昼食にしようか。どうせ誰も来ないしな!」
兎美さんや鈴さんが学校に通っている間、俺は喫茶店で働いていた。まぁ働くと言ってもやることはないからただコーヒーの淹れ方なんかを教えてもらっているだけだが。一応変装のためにかけている伊達眼鏡も最早外したい気分だ。
「じゃあお姉ちゃんにお昼持ってくね」
「お姉ちゃん?」
ぱぱっとナポリタンを作り上げたお母さんがトレーに料理を乗せていく。お母さんの姉が近くにでも住んでいるのだろうか。
「そう、兎美のお姉ちゃん。昼頃起きてくるから料理持ってってあげないと」
「あー兎美さんが言ってたお姉さん……。大学が休みとかですか?」
「ううん、龍夜くんと同じ高校2年生。ちょっと引きこもっててね。挨拶に行ってくれるのはうれしいけど、もしかしたら会いたがらないかも」
「なるほど……でも声をかけるだけさせてほしいです。しばらくお世話になるので」
無理にお願いし、お母さんと一緒に2階に上がる。そうか引きこもりか……。事情はわからないけど色々大変なんだろうな……。
「美空、お昼扉の外に置いとくからね」
兎美さんの正面の部屋をノックし、トレーを置くお母さん。俺がいじめを苦に引きこもったらあの母親はここまでしてくれるだろうか。ありえないな。なんならいないもの扱いされる家よりまだいじめられる学校の方がマシだ。
「んー……」
か細い返事と共に部屋の扉が開き、暗い部屋から人が出てくる。
「「っ…………!」」
下着姿の、見覚えのある女性が。
「っ!」
寝起きらしい表情が一気に真っ赤になり、ナポリタンを置いたまま扉が勢いよく閉まる。あの顔……間違いない。桐生美空か……。
「俺……小学生の頃娘さんと同じクラスでした……」
「へー偶然! じゃあ美空も心開いてくれるかも!」
それは……どうだろう。俺の記憶の中の桐生美空は、昼休みに一人で本を読んでいるようなおとなしいボッチだったはずだ。まぁ俺も一人で校庭を走り回っていたから同じボッチだが……種類が違う。実際話した覚えないしな……。
「えーと……ひさしぶり、美空さん。ちょっとした事情でしばらくこの家にお世話になることになったから……挨拶だけ」
「……うん、事情は聞いてる……」
部屋の扉が開き、急いで準備したのか上のパジャマだけ羽織った美空さんが目を伏せながら部屋から出てきた。
「でも……あまり関わらないで……」
そしてそれだけ言うと、ナポリタンだけ取ってすぐに部屋の中に消えてしまった。
「ごめんね、人見知りで」
「いえ全然……」
イメージ通りだったので特に気にも留めなかったが、事情が変わった。突然部屋の中からゴトゴトと何かが落ちる音がしたからだ。
「大丈夫!?」
もし怪我をしていたら大変だ。声をかけることもしないまま部屋の扉を開けると。
「ぁ……ぁぁ……!」
ゴミが溢れた部屋で落ちたナポリタンを拾っている美空さんがいた。だが俺の視界を奪ったのはそれではない。
やたらでかいパソコンの中で、美空さんの動きに連動してキャラクターが動いていた。あぁそういえば姉もお金を稼いでいるって言ってたっけ……。
「美空さんって、配信者だったんだ……」
メカニックに、デザイナーに、配信者。キャラの濃い三姉妹の実態に直面した。
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