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第1章 第6話 呼び方

「……んん」



 どうやら眠ってしまったようだ。かけた覚えのない毛布の中でもぞもぞ動きながら目を開ける。部屋は暗いが、テーブルの上の間接照明がこの部屋の主を照らしている。かわいらしい雰囲気には似つかわしくないゴツゴツしたヘッドホンと初めて見るメガネをかけてパソコンに向き合っている兎美さん。



 スマホをつけてみると時刻は朝の5時。俺は普段目を覚ます時間だが、もし兎美さんはあのまま一睡もしていないなら申し訳なさを感じてしまう。やはり会ったばかりの男と同じ空間で眠るのは抵抗があるのだろうか。



「んんぅー……。……あ、おはようございます……」



 伸びをした兎美さんと俺の視線が合う。彼女は眼鏡とヘッドホンを外すと、眠いのかとろんとした瞳でこちらに歩いてくる。



「ごめんなさい、夜型なもので……」



 そして短く謝罪すると俺が寝るベッドに飛び込んできた。離れてと言いたかったが、このベッドは元々彼女のもの。俺と一緒で申し訳ないが、毛布に入れてあげる。



「改めて……お礼させてください。あの時は助けてくれてありがとうございました……」



 ポーっとした瞳のまま俺の顔を見てそう言う兎美さん。そして続ける。



「それでなのですが……私だから、助けたんでしょうか……? それとも、誰でも助けたの……?」



 物欲しげな問いかけに少し悩む。どう答えればいいかは何となくわかってるけど……今後俺がずっと嘘をつき続けられるとも思えない。正直に答えよう。



「別に君がかわいくて良いところを見せたかったからじゃないよ」

「かわっ……!」


「……ごめん、今のは余計だった。それと誰でも同じことをしたかっていうと……そうでもない。ただ走ってたらテンションが高くなって……無意識みたいなもんだよ。だからあえていうなら……たまたまだ」

「たまたま……ですか」



 きっと俺の答えは望んだものではなかったはずだ。それなのに兎美さんは満足げに微笑むと、身をよじって俺の方に近づいてきた。



「じゃあその偶然に感謝ですね。学校も学年も違う私たちがこうして出会えたんですから」

「いやその偶然のせいで俺殺人犯にされたんだけど……」


「そこは素直にうなずいてくださいよまじめだなー」

「まぁそうだな……。それ以外のことだったら、本当に良かったと思うよ。こんなに優しくしてもらえたのは生まれて初めてだったから」


「なら龍夜くんはこれからずっと幸せですね。今までずっと辛かった分、きっとこれからの人生は良いものになりますよ」

「だったらいいけどな……。兎美さんのようにはいかないよ」



 世の中はそんなに上手くできていない。何をやっても上手くいく奴は一生そうだし、間が悪い奴は一生誰かの劣化な人生を送る。そう思ってしまうのが真面目なのだろうか。どうせ真面目なら、勉強ができるようになりたかったな……。そうすればきっと両親にも愛してもらえて……。



「龍夜くん、兎美さんって呼びました?」

「あぁごめん……桐生さんに戻した方がよかった?」


「うーん……別の呼び方だと?」

「んー……兎美……ちゃん……?」


「ちょっと恥ずかしいですね……。あだ名だと?」

「……うーちゃん……?」


「ふふ、それはかなり恥ずかしいです。呼び捨てなんかどうでしょう」

「……兎美」


「……! だめです……少しドキッとしちゃう……!」

「じゃあどれがいい?」


「そうですねー……。今のところは何とも言えないです。これから少しずつ、見つけていきましょう」

「……そうだな」



 そうだ。叶わないもしもを考えていても仕方ない。今はこれからのことだけを考えていこう。これからの、兎美さんとの人生を。

慣れないイチャイチャ、難しいです。よかったと思っていただけましたら☆☆☆☆☆を押して評価とブックマークのご協力をよろしくお願いいたします!

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