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第1章 第5話 名前

「まだ眠くないかもしれませんけど、私のベッド好きに使っていいですからね」

「いやそれは……よくないだろ……」



 夕食を終え案内された部屋は、変わらず桐生さんの部屋。機械類が転がっている机周り以外は綺麗に整頓されている部屋にはベッドとは別に布団が敷かれている。



「気にしなくていいですよ。私は布団でも大丈夫ですから」

「いやそれ以前に……女子と同じ部屋ってのは……」


「大丈夫ですよ。父も母も了承していますから。私の両親ほとんど駆け落ちだったので、男女関係はかなりフリーなんです」

「…………」



 頬を赤らめてそう言う桐生さんに何も返せない。それはそういうことなのだろうか。いやいやありえないだろ……勘違いしたらそれこそ終わりだぞ……。



「私はまだ眠らないですけど、部屋暗くしますか?」

「いや、俺もまだ眠くないから大丈夫」



 会話に詰まったからか桐生さんは椅子に座り、何かの基盤を弄り出した。それをベッドに腰かけながら眺める。



「なに作ってんの?」

「監視カメラです。リアルタイムで見ようとすると市販のものは高いので改造することにしました。これで外の様子がわかれば鍵裂くんも安心でしょう?」


「それはありがたいけど……そんなことできるんだ」

「はい。昔から機械弄るの好きだったんですよ。今ではネット販売でそれなりに稼ぐことができるまでになりました」



 ネット販売……!? 詳しくないから全くわからないけど、もしかしてそれってすごいんじゃ……。



「だから喫茶店の売り上げなくても生活できてるんだ」

「そうですね……と言いたいところですけど、さすがに私一人じゃカツカツです。どちらかというと姉と妹の方が稼ぎは多いです」



 お姉さんがいるんだ……。夕食の場にいなかったからもう家を出ているのだろうか。



「鈴さんも機械を?」

「鈴はイラストレーターとかデザイン関係ですね。ほら、このキャラとか鈴がデザインしたんですよ」



 桐生さんが机の上に置いてある小さなうさぎの人形を指で撫でる。これは俺にもわかる。鈴さんめちゃくちゃすごい人だ。中3って言ってたよな……。



「……俺も中3の時長距離で全国優勝したことが……」

「そんな張り合わなくても。みんな違ってみんないい、ですよ」



 軽く受け流された……。大人の余裕を感じる……。ん……? 大人……?



「……もしかして桐生さんって……俺より年上だったりする……?」

「私は高校1年生ですよ。なので高2の鍵裂くんの後輩ですね」



 年下だった……! てっきり同級生だと思ってた……そういえばずっと敬語だったな……。



「……そう思うとあれだな……。俺って全然桐生さんのこと知らないな……」

「そりゃあ会ったばかりですから。私だってネットに転がってる情報くらいしか知りませんよ。でも一つ知ってるのは……」



 桐生さんが椅子ごとくるりと回り、俺の正面から見つめる。



「鈴は下の名前で呼ぶのに、私は苗字呼びだということです」



 その表情はどこかいじけているというか。少しふてくされているように見えた。



「だってそれは……流れってものが……」

「言い訳ですよ言い訳! もしかして私の名前忘れてるんじゃないですか? そうですよね、色々大変でしたもんね!」



 ……そんなことはない。確かに大変だったが、恩人の名前くらいちゃんと覚えている。



「兎美……さん」

「……はい」



 俺が名前を覚えていたのがわかって満足したからか、再び椅子を回転させて机に向き直る。背中を向けていてわかりづらいが、わずかに見える横顔は、赤く染まっているような気がした。

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