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風の刃羽根(かぜのはばね)

作者: チャイムン

 盆地ならではの熱暑の真昼を叩き斬る刃のような雨が降る。

 稲光が北の空を引き裂き、耳つんざく雷鳴が唸る。


 汗取り肌着のガーゼの肌襦袢を素肌に着ける。

 次は白い襦袢。その上に白衣(びゃくえ)

 私は背が高い方ではないので、おはしょりは大きい。緋袴(ひばかま)の裾から見えないように、裾を短めにするためでもある。

 緋袴の前の腰板を慎重に調節し、間違っても転ばないように少し短めにする。腰紐を後ろで結んだら裏腰板をその蝶結びの上に当て、その腰紐を前に持ってきて結ぶ。


 白い練り絹の真菰文様(まこももんよう)(ちはや)を羽織り前紐を几帳(きちょう)結びにする。

 私が初夏生まれなので、別名花勝見(はなかつみ)とも言われるこの文様が使われる。


 勝つために。


 短い夏の世の戦いは雨が上がれば始まる。


 ******


 ―こんな宵にはお狐さんが篝火(かがりび)()くわいなぁ―


 亡き祖母の声が聞こえる。


 ―おばあちゃん、あれがそうなの?-


 幼い私が指をさす。


 ―ああ、時子にも見えるのねぇ。ほら、連なって、日暮れのお山を行くわいなぁ―


 連なる光が脳裏に浮かぶ。光と言うには儚い仄明るい丸い玉。


 ―日暮れのお山には山犬さんが住んでいてねぇ。夕方通ると、お山を抜けるまで後ろを着いてきてくれたんだよ。みんな怖いって言ってたけどね、私はいつも「ありがとさんよ」ってお礼を言ったもんだよ。日暮れのお山の山犬さんは優しい山犬さんだよ―


(知ってるよ。おばあちゃん。山犬さんは今は私の傍に居てくれるもの)


 私の武器はこの扇。

 夜の闇を優しいものに戻すため、風を巻き起こす。

 風に乗って、大きな鳥と山犬さんが敵を討つ。


 ******


 ―ああ、時子にはあれも見えるのねぇ―


 ―見えるよ。綺麗な球がいっぱい。綺麗ねえ―


 墓所の無縁仏を囲む光の珠は美しい。


 ―無縁さんを囲むあれが綺麗と思う時子なら、きっとできるね。やってくれるね―


 ―何を?―


 ―綺麗な光を綺麗なままにすること。私ができなくなってからかなり経つから、最初はおじいちゃんの力を借りなきゃね。いつからできるかねぇ―


 ******


 祖母は私の初潮を待って、舞いを教えた。舞の形をとった闘い方を。


 ―女はね、血を流している間は闘えるのよ―


 祖母の声が背を押す。


 さあ、この夜が来た。


 祖父が逝って初めてのこの夜。

 たった一人で闘う夜が。


 今宵からは読経の助けはない。

 一人で祓うのだ。癒すのだ。


 それが闘い。


 夜は好き。

 この闇に安うものを守り給え。


 風を起こせ、扇で襅の大袖で、舞いの足で。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 何故そんな恰好で、どうしてそういう条件のときのみ闘えるのかなどの、設定部分にフックがあったところ [気になる点] 設定とシチュエーションだけで話が終わってしまっている [一言] せめて対象…
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