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掌編集1 幻の都市とスーツ人  作者: 阿久沢牟礼
8/10

幻の都市とスーツ人

 荒涼とした原野の真ん中に白銀色の高層ビルが立ち並ぶさまは、遠目には蜃気楼としか見えなかった。


 とはいえ街なかへ一歩足を踏み入れると、苦労して歩き通した広大な原野のほうがむしろ幻だったかのように、都市然とした都市がそこにある。


 ところ狭しと林立した高層ビルの合間を行き交う人の群れは、男も女も、老いも若きもスーツを身にまとっている。皆なにかしらの役目を負っている様子で、わき目も振らず歩いてゆく。そして巨大な高層ビルの入り口を出たり入ったりしている。

 アリのようだ。

 とりあえずどこか食事が出来るところを探すのだがどこにもなく、腰を落ち着けるベンチさえ見当たらない。


 つるつるしている、と言ったらいいだろうか、この都市には、一般的な都市にあるような喫茶店とか、スーパーマーケットとか、公園とかいったものがなく、あるのはただただ高層ビルだけ。


 取っ掛かりがまるでない。


 住居らしい建物もないのだから、すべてがビルのなかで完結しているのだろう。ともあれビルのなかに入らないことには、生きてはいかれないらしい。


 とはいえ、スーツを着ていない者があの建物へ入れないことは明らかだ。


 やむを得ず、手ごろな背丈の人間を一人、ビルとビルとの隙間に押し込み、着ているものを拝借する。

 意外なほど抵抗せず、まるで重さがないように軽々している。


 おかしいなと思って上着を脱がせ、シャツを脱がせると、中身がない。


 もしやと思い、通りへ出て、そこらを歩くスーツ姿の人々をかたっぱしから脱がせにかかるのだが、案の定、男も女も、老いも若きもスーツの内側がないのだった。

 スーツを着ていればこそ、スーツからはみ出した顔や手が確かに実体としてあるようなのだが、脱がしてしまうとそれらさえ消え、あとには服のほか何も残らない。


 これで謎が解けた、彼らにはそもそも生活が必要ないらしかった。


 ビルのなかに入ったところで、水の一杯にさえありつくことはできないだろう。



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