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掌編集1 幻の都市とスーツ人  作者: 阿久沢牟礼
6/10

書きつける

 ノートを開いて、ペンを持って、さて書こうという段になって何を書くのだったか忘れた。そんなことを何度も繰り返しているうちに、書きつけるきっかけというものがわからなくなってくる。


 そう、必要なのはきっかけなのだろう。


 それこそ車のエンジンを掛けるのにキーを回すような具合で、紙に向かうという行為を皮切りに何かしら書き出すことさえできればその後も書いていかれるのではないか。


 それならば、と一つうなずいてペンを置き、ノートを閉じる。


 それから部屋を出、居間へ行き、ベランダへ出て、外の景色をひとわたり眺めてから、ここぞとばかりに部屋へ戻る。


 颯爽とノートを開き、高らかにペンをノックし、白紙に向き合う。


 ひゅっと一本、線を書いてみたところで手が止まる。


 すらすらと文字が出て来るどころか、一画で止まってしまうとは。

 仕方なくふたたびベランダへ向かい、相応の間合いをおいてから同じことを繰り返す。


 二画目が書き入れられる。


 またベランダへ向かう、三画目。


 またベランダへ向かう、四画目。


 五画目でようやく一文字目が出来上がる。


 なるほどこれは、そういう性質の活動なのか。


 と、納得してふたたびベランダへ向かう。


 この往復を何度も続ければ、少なくとも平均十回程度で一文字は綴られるのではないか。

 百回程度で一文が出来上がるかもしれない。

 一千回もやれば一節が出来上がるかもしれず、

 十万回もやれば何かしらまとまりのある文章が出来上がるかもしれない。


 そうすると、いつかどこかのタイミングで、自分が結果的に何を書こうとしていたのかが知れることだろう。



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