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キャメロン姫の覚悟

「あと2か月だ……。ベルンハルトはまだ来ないのか?」

 マニシッサは焦っていた。叔父による王家の簒奪は既成事実化されつつある。

 あと2か月後に自分の婚約者であったキャメロン姫との婚姻が行われれば、叔父のシグルト王の権威は万全となる。

 その前に反乱を起こし、シグルトを引きずり降ろさなければならない。その期日が2か月後に迫っていた。

「3隻の商船がここに立ち寄って帰国したのが3か月前です。到着後、こちらに向かうのならそろそろ到着するはずです」

 そうマニシッサ軍の将軍が答えた。マニシッサに従う兵は1000人に満たない。勇敢な兵士たちであり、ここまで苦労を重ねながら忠義を尽くしてくれた。

 しかし、倒すべきシグルト王に付き従う軍は3万を超える。そして無敵の鉄騎兵団300人がいる。マニシッサはこの鉄騎兵団に惨敗をして後継の座を追われたのだ。

(キャメロン……待っていてくれ。必ずオラが君を迎えに行く)

 伝え聞いたところによれば、キャメロン姫はシグルト王の求婚を拒否して、王宮の塔に幽閉されているという。マニシッサとの婚約解消のためには1年間の期間が必要なため、あと2か月でその期限が来ると強制的に結婚が成立してしまうのだ。

 それまでにマニシッサがシグルト王を倒し、キャメロン姫を奪還しないといけない。そして次の日。沖合に待ちに待った船団が現れた。見張り台で監視をしていた兵が急いで知らせに走る。

「殿下、来ました。アウステルリッツからの船です」

 マニシッサは沖に現れた10隻の船を見た。スコルッツア商会の紋章が入った帆を見て歓喜した。

「やっと来た……。これで反撃ができる。キャメロンを取り返せる!」

 シグルト王はマニシッサの反乱の報を聞いて舌打ちをした。

 幽閉したキャメロン姫との結婚式は1か月後に迫っていた。国を挙げた結婚式は、シグルトの王位簒奪の罪を解消し、名実と共に国民から王として崇められえるために必要であった。

「これなら早く殺しておけばよかった」

 シグルトは少し後悔した。マニシッサが一部の兵と共に田舎の海岸地帯に潜伏していることは知っていた。キャメロン姫が懇願するので、これまで見逃していた。

 マニシッサに従う兵はわずかで彼に付き従う貴族もなく、いつでも潰せると油断していた。もちろん、結婚式さえ終われば殺すつもりであった。

「奴にアウステルリッツから来た商人が支援しているとの噂でしたが」

「はん……。そんなものは恐ろしくもなんともない。所詮は武器の支援だろう。奴の兵は1000人も満たぬ。そして余には無敵の鉄騎兵団が味方している」

 シグルトはマニシッサが自分の隠れている土地にやってきた商船に便宜を図っていることを知っていた。鎖国を是とするドラゴランドではそれは違法行為である。

 多くの貴族はそのことを嫌っていた。マニシッサに与する貴族がいないのもこのことが原因であろう。

「この際だ。余の結婚式の前祝に奴の首を手に入れようぞ」

 シグルトはマニシッサ討伐に軍を動員した。その先鋒は鉄騎兵団である。この軍団長はシグルトの盟友である。キャメロン姫との結婚式にキャメロン姫の妹姫を娶る約束であった。

 動員した軍は1万人。自分を支持してくれた大貴族に司令官を務めさせている。マニシッサとの兵力差は圧倒的である。

 勝利を確信したシグルトはキャメロン姫を幽閉している塔へ向かった。マニシッサの処分を伝えるためだ。

「奴はわしの情けを無視し、姫の命乞いにも関わらず反乱を起こした。この国の王として奴を討伐する」

 幽閉された部屋の扉は鉄格子で囲まれている。キャメロン姫はリザード族の中では絶世の美人と言われる白いうろこをもつ。その美しい光沢はシグルトを虜にするのに十分であった。

「あなたは王ではありません。わたしの婚約者マニシッサ殿下から簒奪した者です。討伐されるのはあなたです」

 1年近くも幽閉されているにも関わらず、キャメロン姫は気丈であった。妹のキャサリン姫も同じ塔に幽閉されている。この姫も白いうろこが美しい魅惑の美女である。

 その妹と手を取り合い、ここまで耐えてきたのだ。

「くくく……。相変わらず姫は気が強い。そういうところもわしは好みだ。心配するな。奴を討伐した暁には結婚式だ。式さえ挙げればお前はわしの物だ。力づくでものにできる。奴の首の目の前でお前を手籠めにするのが楽しみだ」

 笑いながら去っていくシグルト。反乱など簡単に鎮圧できると思い込んでいる。

「……ゲスが」

 シグルトが去っていくのを見て、キャメロン姫はそう小さく吐き捨てた。シグルトは王弟だった時から抜け目のない嫌な男であった。キャメロン姫は、マニシッサの婚約者として小さな時から王家とは親しくしていたので、シグルトの人なりはよく知っていた。

 人の好いマニシッサを陥れ、利に聡い貴族を調略して彼を追放した。また、キャメロン姫が年頃になってから、彼女を欲望の目で見ていたことも知っている。

(だけど……)

 キャメロン姫は現実をきちんと把握できる人間であった。マニシッサが反乱を起こしたと言っても、その手勢はせいぜい1000人というところであろう。

 今のシグルトの力の方が圧倒的である。特に鉄騎兵団は300人という少数ながら、一切の攻撃を受け付けない鉄壁の防御を誇る軍団である。

 これをなんとかしなければ、マニシッサに勝ち目はないだろう。

(もしマニシッサ様が死ぬことになったら……)

 キャメロン姫は妹のシャロン姫と相談していた。マニシッサが討たれた時には、自分たちも自害しようと……。王位簒奪者や裏切り者の妻になって、生き恥は晒したくない。

(マニシッサ様……。ご武運をお祈りしております)

 キャメロン姫は塔の窓からわずかに見える月に願ったのであった。


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