表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/98

武器供与

「ベル、香油に使う薬草の栽培についてだけど……」

 帰国したベルに請われて、シルビアは子爵家の領地での様子を伝えた。ドインの牛蠅に効く薬草についてベルは情報を得ていた。

 その薬草は、シルビアの実家であるダヤン子爵家が治める領地のきれいな沢で採れるものであった。

 名前をグリーンラディッシュと言う。使う場所は地下茎でここが大きく膨らみまるで芋のようになる。これをすりおろすと植物の名前どおり、きれいな緑のどろどろとした液体になる。

 これにトウモロコシからと取れる油と混ぜて作ったのが虫除けになるという。

 但し、この製造方法はダヤン家代々に伝わる秘密である。

「なるほど……これはまるでワサビのようだね」

「わさび?」

 シルビアはそう聞き返したが、ベルはスルーした。生まれ変わる前の知識を話してもシルビィには理解できないだろう。

「これの増産はできる?」

「領地にはきれいな沢がたくさんあります。このグリーンラディシュを栽培している農家は少ないですが、売れない作物を作っている農家にやらせれば増産できます」

「これはどのくらいで成長するの?」

「約1年です。栽培は難しくありません。ただ、きれいな水と冷涼な気候が必要なのでどこでも栽培できるわけではないのです」

「うむ……」

 栽培している農家が少なく、十分な量のグリーンラディッシュは手に入らないが、当面は野生のものがダヤン家の領地には多く、それを買い付けることでドインとの貿易をすることが可能であった。

(あとは工場の完成だな……)

 ベルはダヤン子爵領に牛蠅除けの香油製造工場を作っていた。これを三角貿易の商売品とするのだ。

「シルビィ、引き続き、この仕事を頼みます」

「はい。うまくいけば領地の人々の生活が豊かになります。頑張ります」

 シルヴィに香油製造をお任せ、銃と大砲の製造は大学の友人ベノンとルーベンスにやってもらっている。

 胡椒の販売とラプラタ藩国の通行料徴収はエデルガルドが引き受けてやっている。

 この伯爵令嬢は既にベルの妻気どりでスコルッツア商会の切り盛りを生き生きとやっている。

 見た目は典型的な貴族のお姫様であるが、やっていことは商会経営者の妻。取引では妥協せず、そして通行料の徴収のしくみを整えてしまった。

 各港からラプラタ海峡を通る商船は、あらかじめスコルッツア商会の出張所で登録し、許可証代わりに旗を受け取る。

 その情報は1日のうちにスコルッツア商会の本部に送られ、伝書鳩によってすぐさまラプラタ藩国へと送られる。

 最初は通行料を払わないで通行しようとした商船も、半年も経つと大砲による攻撃と通行料3倍に恐れをなし、スコルッツア商会に支払うようになった。払えない金額でもないし、システムが分かりやすいので定着しつつあるようだ。

 やがてラプラタ藩国で軍事演習を十分こなしたリザードマン銃隊とシャーリーズが戻って来た。

「よし、船が戻ってきたらドラゴランドへ行くぞ。マニシッサを王にするんだ」

(ベル様、僻地の王子に肩入れする理由がクロコには分かりませんですわ)

 クロコはそう反対するが、ベルにとってはこれは大変な利権がかかった大勝負だと思っている。南方航海路は他の商船にも必ず突き止められてしまう。それを秘密にはできない。しかし、スコルッツア商会が莫大な利益を上げるには、南方貿易の独占が必要なのだ。

「つまりベル様は、ドラゴランドの内戦に加担して王子の信任を得ることで、実質的な南方航海路を独占するというお考えなのだ」

 エデルガルドはクロコと同じような質問をした商会の番頭たちにそう説明し、ベルンハルトの偉大さを刷り込んでいた。エデルガルドはとても頭が良く、そしてベルの意図を100%理解している。

 マニシッサに対する武器支援についても彼女が中心となって準備を進めていた。 自分の実家であるヴィッツレーベン家の領内の鍛冶屋を総動員して、ベルが設計した新しい武器を生産していた。そしてその準備も整った。

 最初の航海で大もうけした資金を使って船を3隻し、シルヴィに用意させた牛蠅除けの香油を満載した商船は、それと引き換えにまた胡椒を大量に積んで戻ってくるはずだ。

 これでベルの資産は大幅に増加する。今度は香油で儲け、胡椒で儲けるから最初の航海で得た利益の実に10倍以上の利益はあるだろう。

 ドラゴランドへはシャーリーズと共にベルも行くことにする。そこで10名の銃兵を指導役にして100名のリザードマン銃撃隊を編成する。この隊長をシャーリーズにやらせるのだ。

 さらにラプラタ藩国のコボルト兵を100名が加わる。これはゲナ8世が銃兵の練度をあげるために派遣することを要請したのだ。

 ベルとしては戦争に勝つためには必要と判断して、この100名と共に送ることを決定した。

300丁の銃と2門の大砲。そして十分な量の弾薬とベルが開発した新しい武器を用意し、半年ぶりに帰国した3隻の商船に積み込ませた。

 向かうはドラゴランド。マニシッサ王子が待つ国、アークランドである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ