表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/98

通行税利権

 ラプラタ藩国へリザードマン兵10名と一緒に向かったベルは、久々にコボルト族の女王ゲナ8世と対面する。

「ゲナ陛下、ベルンハルト・スコルッツア。約束通り、大砲を持参しました」

 試作品の大砲はすでに海峡を望む海岸に設置してある。

 海峡を今日も通行税を払わず通過していく船が数隻ある。

「それであの船を止めることができるのか?」

「はい、陛下」

 ベルは学友のベノンとルーベンスに目で合図する。

 ベルは望遠鏡で船を確認し、道具を使って素早く射程距離、撃ち出し角度を計算する。これもタレント『銃神の力』である。

「右へ20、角度42度……」

 ベルがそう言うとベノンがハンドルを回す。大砲が右へ回転する。ルーベンスは砲身についたハンドルを回すと砲身が上へ上がる。

「よし、砲弾を込めろ」

 後ろに積んである砲弾をコボルト兵に運ばせ、大砲の後ろ口から装填させる。

「では、陛下、号令を」

「うむ、分かったのじゃ。撃て!」

 凄まじい音が鳴り響き、ゲナ8世以下、コボルト族の家臣たちが地面にへたり込んだ。耳を抑えている。

「な、な、なんじゃ。雷か?」

 ゲナ8世は音と共に何か飛んでいたのを見ている。それははるか彼方の通過中の船の前で爆発し、大きな水柱を作り出した。

「これが砲撃です。船が止まらないなら、これで船を沈めます。今は警告で外しました。まだ止まらないようですので、少し痛めつけましょう」

 ベルはもう一つの大砲の発射を命じた。これは既にベルが狙いを合わせていたので、止まらない商船の帆柱を吹き飛ばした。

 コボルト兵が乗る小舟が数隻近づき、船を包囲している。あれなら通行税を徴収できそうだ。

「す、すごい……すごいぞ、ベルよ」

「ゲナ陛下。これでこのラプラタ海峡を通る船から通行税を取ることができます。陛下の国は豊かになるでしょう」

「うむ。感謝する」

「それで陛下、ご提案があるのですが……」

 ここからが商売である。ベルは通行税徴収について、様々な提案をした。

「通行税を5倍にしろじゃと?」

「はい。銀貨100枚では少なすぎます。商船の稼ぐ料金と合いません。陛下の先祖が法皇様から頂いた権利は銀貨100枚ですが、調べるとその根拠は船の利益の10分の1とあります。当時は銀貨100枚でしたが今なら銀貨500枚でも少ないかと」

 ベルの主張はまともである。また銀貨500枚なら商船も払えなくはない数字である。

「それでその500枚のうちのお主の取り分は?」

 ゲナ8世はそうベルに聞いた。当然、ベルも分け前をよこせと言うに決まっていると考えたようだ。ベルがずる賢い顔で幼いゲナ8世を見る。

「陛下、通行税は陛下の国の税収、一商人の僕がそこから利益を得ようとは思いません。返って各国から因縁をつけられましょう。それよりも……」

 ベルは船からの通行税徴収の方法を提案した。海上で止めて船から金を徴収するのは大変だし、1隻ずつやっているとラプラタ海峡が渋滞する。

 そこで港にあるベルのスコルッツア商会の事務所に払い、払った船は船名と証となる番号を付けた旗を受け取る。

 それを掲げた船は通すが、旗のない船は大砲で撃沈するのだ。停止した船からは罰金を兼ねてさらに3倍の通行税を要求する。

「おもしろいシステムじゃのう。そしてお前も儲かるわけか。手数料をいかほど取るのじゃ」

「10%ほどです。もちろん、払うのはゲナ陛下ではありません。船主に請求します。そして陛下、この徴収代行は我がスコルッツア商会だけの独占契約でお願いします」

 ここが大事である。これにより、ベルはさらに莫大な利益を得ることができる。

 コボルト族には有効な徴収手段がないし、商船側も利便性があった方が良い。ベルのスコルッツア商会に手数料を払わなかれば、海峡で停戦して直接コボルトの徴税官に支払わないといけない。

 それは面倒だし、停戦して支払うまでに2,3時間はかかる。これは商船側としても大変なデメリットである。10%の手数料を払いさえすれば、停戦することなく、安全にラプラタ海峡は通れるのだ。

「お主も悪よのう……」

「ゲナ陛下、陛下の国もこれで指折りの豊かな国になりましょう」

 にやにやしてさらにベルは交渉を続ける。

「大砲はあと2門取り付けます。大砲の料金はいただきません。これは永久的に貸し出しとします。その代わり、砲弾とメンテナンスは我がスコルッツア商会が行います」

 ベルはそう申し出た。大砲の料金をもらわないというのは利益供与であるが、損ではないとベルは皮算用していた。

 武器を供与することでラプラタ藩国との信頼関係は強固なものになる。すなわち、この国と様々な交易をすることが容易であるということだ。

 今後豊かになるこの国の信頼を得られるのは大きい。それこそ大砲の売却益よりはるかに大きい。さらにメンテナンスや砲弾、火薬を独占的に売ることができる。競争相手ができる前にそういう契約にしておけば、固定収入が継続的に得られるのだ。

(これはいわゆる印刷機商法だ。ハード機器はただ同然で供与し、インクで儲けるのと同じ)

 ゲナ8世がベルの商法に気づいたかどうかは分からないが、意味深な顔である。

「それは仕方がないだろう。その大砲とやらはお主しかもっておらんのだろう」

「はい。しかし、時が経てば真似をする者もいましょう。それにこの大砲をラプラタ海峡で使えば、宣伝効果は抜群です。各国から注文が入れば僕は大儲けでいますから」

「なるほどのう。お主、やっぱり人がよい顔をしているが心はかなり悪よのう」

 そう言うゲナ8世も幼いながら、ベルの意図を理解していた。貧困にあえいでいた国がこれで救われるのだ。ベルのスコルッツア商会と組むことに異議はない。家臣も賛成するだろう。

 ベルは大砲と銃の量産を急がねばと考えた。まずはドラゴランドのマニシッサに100丁納品しないといけない。そのために連れて来たリザードマン兵10名に装備させて、このラプラタ藩国で演習をさせている。

 これもコボルト兵にも供与するという条件で、ゲナ8世に場所を提供してもらった。

 ゲナ8世はベルの申し出に便乗して、シャーリーズを隊長にして、ラプラタ藩国内に蔓延る山賊退治を行わせたのだ。

 この実地訓練でリザードマン兵10名とコボルト兵5名は熟練度を上げた。

 ベルが今回持ち込んだ銃は、元込め式の先進的な銃である。

 江戸時代の終わり。先込め式の遅れたミニエー銃やゲベール銃を主力とした幕府軍が元込め式のスナイドル銃主体の薩長軍にもろくも敗れた。ベルはこの異世界で火縄銃や先込め銃をすっ飛ばして元込め銃を開発したのだ。

 銃口の内側にライフリングが施工されて命中率も高い銃である。この15名の兵士がもつ武器はラプラタ藩国からわずか半月で山賊を一掃した。

 実際の戦闘データを基に銃を改良し、ベルは量産体制を急がせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ