ベルの思惑
後で分かったことだが、シャーディーには4人の妻がおり、さらに自分専用のハーレムも持っているという。
妻たちは誰も疎かにせず、平等に扱い、何不自由ない生活をさせているという。ハーレムにいる女たちもそうらしい。
男の夢、ハーレムである。
しかし、ハーレムを作るにはとんでもない財力がいる。
ほとんどの男は妻一人養うことすら満足にできない。
妻を働かせたり、欲しいものを我慢させたりしている。
なんでも買い与え、自由に気ままに過ごさせる。そして安心安全を与える。
その代償が心の安らぎ、性的な欲求を満足させること。
一人どころか複数の妻や愛人を満足させるなんて、心も懐もそしてあっち方面の強さも兼ね備えた男子か許されない行為だ。まさに選ばれた男。キングオブキングである。
ドインの大商人シャーディが、それを実行しているのは莫大な収入を得ているからである。そして彼が若い頃から苦労を重ね、人間として完成された男であるからだ。
そしてそれは絶え間ない努力を必要とするが、シャーディはそれを商売の励みにしている。
(常々、あのおじさんは公言しているそうですわ。男たるもの女を何人幸せにできるかがその存在価値であると……ですわ)
(令和の時代なら袋叩きにあいそうなセリフだな)
(令和ってなんですの?)
ベルはクロコの質問には答えない。まあ、何が正しいかはその国、その時代の人の考え方で変わる。誰もが幸せで満足しているのならそれもよいと考えるのは男の傲慢さであろうか。
「少なくとも成功を追求するための強力な動機にはなるな」
「ベル様は何を言っているにゃん?」
思わずベルが口の出したことを聞いたシャーリーズは不思議そうにそう聞いた。ベルはシャーリーズを見て思わず腰に手を回した。
「何するにゃん」
「いや、ちょっと決意を新たにしただけさ」
ベルには幸せにしたい女の子が3人いる。このシャーリーズはその一人だ。
あと、妻候補ではないが、なんだか気になる子もいる。その子にも学費やら生活費たらを正体を隠して援助をしている。
「ベル様、なんだか変にゃん」
「僕はこの航海で大きく成長することができる。これまでは父様のお金の力だった。それを失い、僕は0から作り上げる。シャーリー、無事に帰ることができれば一発逆転だ。これだけの胡椒を持ちかえれば、巨万の富を得られる。そして南方航海路の独占のための方策を実行する」
シャーディとの交渉が成立し、信用買いでベルは胡椒を大量に手に入れた。それをハゲタカ丸へと運ばせる。陸上のキャラバンが十隊はいるだろうという量である。
ベルは胡椒を積み込む船員たちの働く様子を見て、今後のことを考える。まずは南方航海路を抑えるために船を入手。ドインとの貿易を本格的に開始する。
当然、他の商船も追従するだろう。だが、他の船は3つの困難に直面する。
(まず第1にゲナ8世陛下と結んだラプラタ海峡の徴税ですわね)
(ああ。コボルト族の正当な権利を守ってやる。その代わりに僕のスコルッツア商会の船は税の減免を受ける。他の船には重税がかかる。価格競争で優位に立てるだろう)
ラプラタ海峡の強制徴収権の発動のためには、ベルが開発する大砲がカギを握る。南方航海路を使うにはここを通らないといけないので、ゲナ8世のラプラタ王国は安定的な収入を得ることができる。
さらにこの税徴収についても食い込むアイデアをベルはもっていた。
(2つ目は赤死病の克服ですわね)
(ああ。このノウハウがなければ長期の航海はできない)
しかしノウハウはいつか広まる。船員から徐々に漏れてしまうのは防ぐことはできないだろう。そこで重要なのは補給地である。
この補給地に対してもベルはアドバンテージをもっている。ドラゴランドという中継地になる島の存在。そしてこの国を治める人物との関係。
中継地となるリザード族の島国ドラゴランド。今は鎖国をしているが、ここの王族マニシッサと知り合いになった。彼に協力し、ドラゴランドを鎖国主義のシグルト王を引きずり落とせば、ベルの商会だけが利用できる国となる。
これも成功させれば、ほぼ独占できる。他の商会は食い込めないだろう。新王マニシッサにとってベルは恩人も恩人なのだ。
これの権利は非常に大きい。実現すれば南方航路を通ってドインと貿易することはベルが独占できる。
それを達成するには、帰国して開発している大砲と銃の開発にかかっている。虐げられているコボルト族とリザード族の王子を助けることだ。




