通行税契約
「大砲……なんだそれは?」
「これの大きいものです」
ベルは自分が開発した銃を取り出した。あのシャーリーズを救い出した時に使った銃である。 あれは耐久力に問題があり銃身が割れてしまったが、これは新たに素材を工夫して作った2丁目の銃だ。
ベルは弾を込める。並々ならぬ様子にコボルトたちに緊張が走る。護衛の兵士もベルに向かって槍を突き出した。
しかし、ベルは動じることがない。部屋の隅に会った土器に向かって銃を発射する。発射された弾は射撃音とともにそれを粉々にした。
「わっ!」
「ぎゃっ!」
「何なのだ!」
思わず耳をふさいだコボルトたち。ベルは発射した銃を差し出した。
「これは銃という武器です。そして大砲はこれを大きくしたもの」
ベルはそう説明した。もちろん、大砲は作っていない。しかし、ベルのタレントである『武器の創造主』を使えば、それを作ることは可能である。
「恐ろしい武器だ……こんなものを人間たちはもっておるのか?」
ゲナ8世はそう心細そうに尋ねた。偉そうな口調でしゃべっていても、やはり12,3歳の少女である。話すたびに耳がぴょこぴょこ動くのが妙に可愛い。
「これを海峡の両サイドに設置すれば、海峡を通過する船を止めることができます。そして海峡には両岸から綱をいくつも張って、通行できないようにします。通行料を払わない船はこの大砲で沈めるのです」
ベルはそう説明した。通行税を払わない船は撃沈してもよいことになっている。何隻か見せしめに沈めれば、みんな払うだろう。
「その昔、おばあさまが女王だった時、投石機で金を払わない船を沈めたことがあったそうだ。今は船の速度も上がり、防御力も上がっているから投石機による威嚇ができなくなった。それに代わるものであれば、昔のように税収入が得られるかもしれぬ」
そう幼い女王は関心を示した。このラプラタ藩国のコボルト族は通行税の収入がないために、岩場ばかりの狭い国土をなんとか耕し、僅かばかりの食料を得ていた。
産業のない国では働くところもなく、男も女も他国へで出稼ぎ出かけていくしかないのだ。
「ベルとやら、その大砲というのはどうやって手に入れるのじゃ。高価であればとても買えぬ」
そうゲナ8世は尋ねる。大砲はまだ作ってもいないからベルはもっていない。売るためには作らないといけない。そして莫大な開発費も必要だ。
「ゲナ陛下。こうしましょう。1年後に大砲を持っていきます。代金は結構です。必要数を貸し出します」
「な、なんと代金はいらないとな……。それでお前にどんなメリットがあるのだ?」
女王はまだ疑っている。美味しい話には落とし穴があることを知っているのだ。ベルはだますつもりはない。お互いにウィンウィンの関係になることを説明する。ここからが肝心なのだ。
「大砲とロープのおかげで税収入が得られるようになったら、税収入のうち、僕に20%のレンタル料をくれればよいです」
ベルはそう申し出た。大砲のメンテナンスや補充も無料である。全てベルがドインから帰国後に設立する会社が行う。
ゲナは後ろの大臣や官僚を呼んだ。みんなで相談をしている。この話は乗ったとしても銀貨100枚を損するだけであるし、元々、払わずに逃げようと思えば逃げられるのにこうやって交渉してくるベルに好感をもっていた。
すぐに輪は解けた。国といっても村の寄り合いに近いから、決断も早い。多くの家臣たちもこの話に乗ってもよいと思ったようだ。
(それだけ追い詰められているということですわ。相変わらず、ベル様は人の足元を見るのがお上手ですわ)
(……父様がなぜ魔族や少数民族に肩入れしていたのか分かったよ。あまりにも気の毒だ。正当な権利さえも行使できないのだから)
大砲の制作は依頼中で、今は砲身と発射装置をベルが書いた設計図通りに作っている。
破壊力や命中力等、今後改良を加えないと実用化には時間はかかるだろうが、海峡を通る船への脅しに使うくらいなら、派手に着弾するだけで充分である。
問題は最初に渡した資金だけでは足りず、今後、開発が続けられないということであるが、香辛料の輸入で莫大な利益が出れば完成できると思っていた。
「分かった。お前の話に乗る。すぐに契約書を作ろう」
ラプラタ藩国とスコルッツア商会と通行料徴収についての覚書
1 スコルッツア商会は大砲を必要数ラプラタ藩国に貸与する。
2 ラプラタ藩国は徴収した通行料の20%をスコルッツア商会に支払う。
3 ベルンハルト・スコルッツアの帰国後に正式な契約を締結する。
ラプラタ藩国 女王 ゲナ8世
スコルッツア商会 代表 ベルンハルト・スコルッツア男爵
ベルとゲナ8世はサインをした。細かい契約はベルが帰国した後に行う。




