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脱出

 ベルの体を張った解毒措置でシャーリーズは穏やかな寝息を立てている。解毒は成功した。手足の麻痺がなくなり、止まりかけていた心臓も動き出した。

(危ないところでしたわね……。って、ベル様、なんか落ち込んでいますけれど、どうしたのですわ)

(自己嫌悪だ……いくら命を助けるとはいえ……シャーリーにあんなことを。動けない女の子に鬼畜の所業だ……それに初めの相手はシルヴィと決めていたのに……ううう……落ち込む)

 シャーリーを助けるためとはいえ、行為自体は人には言えない。シャーリーも初めてだったみたいでシーツに事後の証拠が残っている。

(ベル様、まあ予行練習ということで忘れることですわ)

(予行練習って、クロコ、余計に傷つくじゃないか。それにシャーリーに失礼だ)

(じゃあ、シャーリーにお礼を言うですわ。筆おろしの相手、ありがとうとですわ)

「言えるか!」

 思わずベルは声に出してしまった。眠っているシャーリー以外にいない部屋の壁にベルの声が響く。

(でも、ベル様がしなければシャーリーは死んでましたですわ。これは人助けというものですわ。不可抗力というものですわ)

 クロコはそうベルを慰めた。しかし、クロコの内心は(これは面白いことになったですわ)と思っているところが邪妖精たる所以だ。

(ベル様ったら、おもいっきり解毒したから、これはシャーリーに赤ちゃんができたら面白いことになりそうですわ)

 そんな最悪なことを考えている。そうなったらシルヴィとエデルガルドという2人の婚約者候補がいるベルにはさらにシャーリーが加わわり、ドロドロの関係が成立するのだ。

「一体どこに行ったのだ!」

「捜せ、遠くには逃げていないはずだ!」

 扉の外が騒がしくなっている。ベルとシャーリーズが牢から消えたので捜しているようだ。

「女の方は動けないはずだ。遠くには逃げていない。施設内を捜せ!」

 そう言いながら扉を開ける音がする。この夜具の保管庫も調べに来ることは確実だ。

(ベル様、部屋を1つずつ調べているようですわ)

(人数は何人だ?)

(近くにいるのは3人ですわ)

(シャーリーを襲った手練れではないだろうな?)

 ベルが気になるのはシャーリーズや護衛の傭兵を一瞬で倒したプロの暗殺者だ。そいつがいるとまずいことになる。

(そんな怖そうな感じではないですわ。教団の素人自警団って感じですわ)

(それならいける!)

 ベルは銃を手に取った。弾は全部で6発。予備の弾は持っていない。

「これを使う。シャーリー、起きろ、体は動くか?」

 ベルはシャーリーズの体をトントンと叩く。

「うっ……ここは……」

 シャーリーズが目を覚ます。解毒したばかりで体の動きは元のようではないが、麻痺はなくなったようだ。

「あ……なんで……わたし……裸なの……にゃん」

 シャーリーズは自分が何も着てないことに気づく。慌てて脱ぎ捨ててあった服を着る。猫耳メイドの格好である。しかし、肝心のパンツがない。

「え、え、え~」

 シャーリーズは自分のものから流れ出た液体のようなものが、自分の太ももを伝って流れて行くの見て驚き、顔を赤らめた。出血している。それに何だか別の液体もまじりあっている。

「な、なんでわたしの体が濡れているにゃん……血も出てるし、何かはさまったような違和感が……」

「シャーリー、奴らが来る。腰にシーツでも巻いておけ!」

 ベルはそう叫んだ。シャーリーに説明している暇もないし、ここで説明してもたぶん理解できないだろう。今はこの絶体絶命のピンチをどうしのぐかだ。

「扉を開けた瞬間にこの銃で一人を倒す。そうしたら部屋を飛び出る。シャーリーは僕についてきて」

 ベルはそう命令した。脱出ルートはクロコに調べさせてある。クロコの案内に従えばこのアジトから逃げられるはずだ。

 ドカッ。ものすごい音がして扉が開いた。古い木でできたドアはそれだけで壊れそうになる。蹴って入ってきたのは革の胸当てを付けた地下教会の私兵。信者の中から体の大きな男を選抜している。ここは貧民街の民家をいくつか買い取り、その地下に作った場所であるから、それほど多くの私兵はいない。

 扉を乱暴に空けたのも、この部屋がもっとも怪しいと感じたからだが、中に入ろうとした男は乾いた破裂音と体に熱い衝撃を受けて崩れ落ちた。

 ハンドメイドの銃が敵を貫いた瞬間だ。ベルは両足を踏ん張って両手でハンドガンを構えて扉が開き、男が中に一歩踏み入れた瞬間に引き金を引いた。

「い、痛い、痛い!」

 弾は男の体に命中したが、分厚い革鎧のおかげで致命傷にはならなかったようだが、戦闘不能になった。

「どうした!」

 後に続いた私兵もベルの引き金で倒された。こちらも戦闘不能。致命傷を与えないように弾丸が命中する。ベルのタレント『銃神の力』である。

「シャーリー、出るぞ!」

「はい、にゃん」

 ベルはシャーリーの手を取って部屋から飛び出した。発射音を聞いてさらに遠くの通路から駆け寄ってくるのが見える。

 ベルは振り返りざまにそれに向かって撃つ。先ほど発射した2発とは違い、狙いをつけて撃ったわけではなかったので、発射した弾は軌道がぶれて壁に当たった。

 慌てて2発目の引き金を引いたが、1発目は壁に跳ね返りながら進み、進んでくる私兵の後ろを走ってくるもう一人に命中。

 さらに慌てて発射した1発はやってくる私兵にみごと命中。ここまで4発がすべて命中するという結果になった。

(ベル様、これがベル様のタレント銃神の力ですわね)

(ああ……どう撃っても当たるみたいだ。こんな力チート過ぎるやろ!)

 ウブロ教会のアジトはいくつかの住宅を地下でつなぎ合わせた複雑な造りである。あらかじめ、クロコが偵察して逃走ルートを把握していたので、飛んで案内する彼女について行けば、追跡者からは逃れられる。

 階段を上って1階に上がる。あばら家なのですぐに外に出る扉がある。外は夜になっており、扉を開けて出れば闇に紛れて逃げられる。

「よし、逃げられた!」

 扉を開けた瞬間、ベルの顔に拳がのめり込んだ。その衝撃で部屋の中まで転がる。シャーリーズが慌ててベルに駆け寄る。

 右手に持った銃が床に転がった。

「ここまでよく逃げてきたな。だがもう終わりだ」

 パンチを放ったのは黒づくめのマントの男。そしてその後ろには上半身に革の胸当てを着た筋肉男が立っていた。黒いマスクを被っていて顔が見えない。どうやら、ここで待ち伏せていたようだ。


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