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警告

(ベル様はわたしに実家の秘密を打ち明けてくれた。しかも知っている女の子はわたし一人にゃ……)

 シャーリーズはにやにやしながら、先ほどのベルの言葉を思い出す。彼女はベルを送り届けた馬車から降りて町を歩いていた。いつも体を鍛えるために馬車では帰らず、5㎞ほどの距離を自分の足で帰っているのだ。

 シャーリーズは自分のことを信用して話してくれたことが無性にうれしかった。最近、お見合い相手のシルビア姫やエデルガルド姫とデートしているのを見て、シャーリーズはなんだか心がもやもやしていた。それが今日の空のように雲一つない青い色が無限に広がっているようだ。

(誰か待ち伏せている……)

 傭兵として6年も戦場で生きるか死ぬかという経験をしてきたシャーリーズには、平和な街にふさわしくない気配を感じた。

 突如、小道から3人の男が立ちふさがった。

「シャーリーズ、教祖様からのご命令だ」

 3人ともマントを深々と被っているので顔が見えない。全身もローブで覆われているが、鍛えられたという体つきではなさそうだ。それでもシャーリーズはこの男たちに心当たりがある。

(ウブロ教徒……)

 最近しつこく絡んでくる連中だ。この都を教区とする信徒の一部で、司祭の命令でシャーリーズにベルの暗殺を企てるよう繰り返し伝えに来たのだ。

(本当にしつこい奴らにゃ)

 今は洗脳が解けたシャーリーズはそれに従うつもりはない。いつも拒否していた。しかし、自分が一時的でもこの教壇に属していたことは事実で、それをベルには打ち明けていない。

 ベルはクロコに調査させていたので、実はお見通しなのであるが、そのことは隠しているためにシャーリーズは気づいていない。

「それはもう何度も断ったにゃ」

 シャーリーズの言葉遣いに男たちは驚いた。一緒に地下の教会で礼拝をしていた時はこんなしゃべり方をしていなかったのだ。

「シャーリーズ、なんだその語尾は」

「あのガキに仕込まれたのか」

「そんなエロい格好をさせられて、あのガキの慰み者にでもなったか!」

 3人の男はそうシャーリーズを侮辱する。その言葉にシャーリーズは怒りに燃え上がる。自分はベルの専属護衛だ。それは戦闘力を買われてのことだ。猫耳メイドの格好はベルの趣味だし、護衛としてはどうかと思うが、動きにくいわけではない。

 慰み者とか侮辱するが、そんなことはない。確かにベルの部屋に専用のベッドはある。時折、ベルの命令で添い寝することはあるがそれ以上の関係はない。

(それを慰み者とはなんだ。むしろ、私の方がベル様を慰め……というか、添い寝してやっているにゃ。ベル様は小さい頃から母親の愛情を受けていなかったからにゃ。他意はないにゃ、それ以上の関係なんてないにゃ!)

 そう頭の中で抗議したのだが、自分の言葉になぜだか落ち込む。

(うっ……。なんでそれ以上の関係がないことに残念に思うにゃ)

 もやもや感はあるが、今はベルンハルトの忠実な護衛侍女だ。

「去れにゃ。それともわたしと戦って勝てるつもりにゃ?」

 シャーリーズは腰に携帯しているダガーに手を伸ばす。その仕草を見て3人の男は明らかにビビった。3人ともシャーリーズの実力を知っている。そしてこの少女が動揺することなく敵と見たものを排除することも。

「ま、待て」

「俺たちはお前と戦うために来たわけではない。警告だ。最後の……」

 真ん中の男が咳ばらいをした。そして厳かに告げる。

「ウブロ教最強の暗殺者ハーデスに命令が下された。近いうちにお前も含めてベルンハルトを殺すとのことだ。悪いことは言わない。お前は逃げろ」

 そう言った。どうやら3人の男はウブロ教を信じつつも、同じ信者であったシャーリーズを気遣ってくれたようだ。そして民族融和を信条とすると思っていたウブロ教の暗黒面を知って疑問に感じているようでもある。

「ハーデスにゃ……」

 シャーリーズは聞いたことがある。ウブロ教にはその教義を広め、敵対するものを排除する凄腕の暗殺者がいることを。ハーデスはその中でも最強と言われた伝説の暗殺者である。

 これまでも教団を排斥する人間をターゲットにしてきた。。そんな奴が敵対する勢力のスポンサーとはいえ、商人の子供を殺そうというのだ。もうめちゃくちゃである。

「例えハーデスでも恐れはしないにゃ……」

「シャーリーズ、警告はしたからな……」

 3人はそう言うと大人なしく去って行った。シャーリーズは悩んだ。このことを父に報告すべきか。

 ハーデスに対抗するのならば、父に知らせるべきだ。しかしそれはシャーリーズがウブロ教と関わってきたことを知られることになる。

(それはまずいにゃ……)

 屋敷に帰ったシャーリーズは仕方なく、最近、不審な者たちがベルの行動を監視していると父に告げ、護衛の人数を増やしてもらうことを願い出た。

 父のオージンは何も言わず、2人の腕利きの兵士をシャーリーズの配下に付けてくれた。3人もいれば、ハーデスといえども町の往来で襲うことはないだろう。時間を稼げば町の警備隊が駆けつけてくるはずだ。

 シャーリーズはそれでも用心して学校と屋敷とのルートで危険個所はないか再度検証する。なるべく人気のないところを通ることが重要だ。


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