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ウブロ教団と宰相派

「ベル様、父より、身辺について警戒するよう言われておりますにゃ。屋敷と学校の往復以外に出かけるときは事前にお知らせくださいにゃ」

 登校時に一緒の馬車に同乗したシャーリーズはそうベルに伝えた。ベルも昨晩、アーレフに呼ばれて、気を付けるように言われていた。

「分かっているよ。なんだか嫌な感じになってきたね」

 ベルはそう答えた。自分には攻撃に関するタレントはないが、緊急回避能力がある。これを使えばある程度は凌げるであろう。相手への反撃はシャーリーズがいるから、よほどの大勢で襲撃されなければ大丈夫だと思っている。

「ベル様のお父上は一体何をされているにゃ」

 シャーリーズはそう尋ねた。ウブロ教の司祭がベルの暗殺をシャーリーズに命じた時に、父親のアーレフが悪徳穀物商で人民を困らせているというのが理由であった。

 しかし、今は戦争も終わり穀物の供給も安定している。それにシャーリーズが思うに、戦争中も穀物は平等に行きわたり、買い占めで巨額の利益をコンスタンツア家が得たという教団の主張はおかしいと思っていた。

 シャーリーズがそのように自分の頭で冷静に考えられるようになったのは、ベルによって洗脳が解けたからである。

「うん。たぶん武器の商売をしているからだと思うよ」

 ベルはそっと対面に座るシャーリーズの猫耳じゃない方の耳にそっと答えた。シャーリーズは思わず息を飲んだ。そんな大切なことを事も無げに自分に話してくれたのだ。

「ぶ、武器商人にゃ……」

 シャーリーズは呟いた。穀物商で裕福な生活を送っていると思っていたのだが、まさか武器商人も兼ねていたとは気が付かなかった。だが、コンスタンツア家の莫大な富を考えると合点がいく。それは富と引き換えに恨みも蓄える危ない商売であることも……。

「このことを話した女の子はシャーリーだけだよ。だから内緒だよ」

 そうベルは念を押した。自分を命がけで守ってくれるシャーリーズには、全部話しておいた方がよいという判断だ。疑念があってはいざという時に命を張れないかもしれない。

 ベルはシャーリーズのことを信頼していたが、彼女が自分を抹殺するように命じた組織がまだあきらめていないことを知っている。

 時折、シャーリーズにその組織が絡んできているのだ。ベルはクロコに命じてシャーリーズに近づいている組織について調べていた。

 そしてついに突き止めた。『ウブロ教団』である。驚いたことにこのウブロ教団とつるんでいたのが宰相派の貴族だったのだ。

 つまり教団は宰相派のために、議会派を裏で支えるコンスタンツア家を排除することをシャーリーズに命じていたのだ。

 洗脳が解けたシャーリーズは、ウブロ教団からの接触を拒絶している。教団は業を煮やし、逆に秘密を知っているシャーリーズを消そうとしていることまで掴んでいた。

(ベル様、怪しい馬車が後をつけていますですわ。気を付けた方がよいですわ)

(クロコ、その馬車の連中を調べてくれ)

(了解しましたですわ)

 ベルは使い魔のクロコにそう命じた。確かに屋敷を出たところから粗末な辻馬車風の馬車が遠くから後を付いてくるのが、道の角を曲がるたびに見えた。

 やがて馬車は学校に着いた。ベルは降りる。

 学校の中は安全だ。不審者は校内に入れないし、警備員が巡回している。高等学院には有力者の子弟がたくさん通っているから警備が厳重なのだ。

「シャーリー、お前も気を付けろよ。まずは腕利きの護衛から始末するというのが犯罪者の手口だからな」

 そうベルはシャーリーズを気遣った。ベルを学校へ送るとシャーリーズは屋敷へいったん帰るのが毎日の常であったからだ。

「分かっているにゃん。ベル様の通学も同じ道を通らないようにしているにゃん。帰りも同じだにゃん」

 そうシャーリーズは答えた。通学ルートを5つ設定し、毎日ランダムに変えているのは襲撃を防ぐためだ。その日のルートは馬車に乗り込むときにシャーリーズがその日の気分で決めている。帰りも同じである。

「うん。じゃあ、夕方に迎えに来てくれ」

 ベルはそうシャーリーズに命じた。


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