こぶ付きデート
セントフォース音楽院の学園祭が終わって1週間。ベルが待ちに待った日がやって来た。
シルヴィとのデートの日である。デートと言っても、シルヴィの7歳の弟と5歳の妹が同席するので、そこは少し残念ではある。
それでもシルヴィが領地から離れて都まで来てくれるのはありがたい。ベルに気がなければ、わざわざ1度お見合いをしただけで終わるはずである。
(とかなんとか、物事を良い方に考えるのはベル様のよいとこですわね)
クロコはベルの心内をズバリと言い当てる。この邪妖精には心を読む力はないのだが、洞察力に優れているので外すことがない。
馬車がベルの屋敷の玄関に止まった。馬車の窓越しに着飾ったシルヴィの顔が見える。
(クロコ、シルヴィの好感度はどうだ?)
(相変わらずですわ)
クロコには自分が使える主人に対しての好感度が見える。好感度があればその人物の頭にハートマークがくるくる回っているらしい。3つもあれば完全な恋心である。
しかし、クロコが見たところシルヴィには1つもハートが回っていない。好意どころか、なんとも思っていないという証拠だ。
(おかしい……。しばらく会わないうちにシルヴィの中で僕の存在が大きくなり、もういてもたってもいられないはずだ!)
(そんなわけないですわ)
クロコはベルの肩の上でため息をついた。ベルという少年は年齢の割には大人びて賢いし、人に対してはいつも上手に対応する要領の良さがある。
しかし、1つ年上のシルヴィに対しては余裕がなく、とんでもなくお馬鹿な態度を取ってしまう。
今も馬車の到着の1時間前からそわそわとして、玄関の前でうろうろしていたのである。
ベルが迎えに出した馬車はシルヴィとその弟、妹を乗せて到着し、シルヴィだけ降りて来た。迎えに出たベルにお礼を言う。
「今日は弟と妹も招待してくれてありがとうございます」
「うん、元気そうでよかった。会いたかったよ、シルヴィ」
ベルはそう笑顔で答える。馬車の中にいるシルヴィの弟と妹がこっちを見ている。妹の方はシルヴィと同じく可愛らしい。領地の外まで出かけるのは初めてらしく、嬉しそうにはしゃいでいる。弟の方はベルの方を見ていない。何だか視線を合わせるのを避けているようだ。
シルヴィは細身の体によく似合う薄水色のワンピース。そして首にはチョーカー。清楚な印象は変わらずである。
「じゃあ、出かけましょう。お店の方は予約済みだから」
今日は都で評判のカフェでスイーツを食べるという約束だ。スイーツでシルヴィを誘ったのだが、弟と妹を連れて行きたいというシルヴィの要望で実現した。弟と妹がいなければ、シルヴィとの約束は取りつけられなかったかもしれない。
(弟と妹付きというだけで、もはやデートじゃないですわ)
(クロコ、物事は何でもきっかけが大事だ。弟や妹付きでもデートができればそこからスタートだ)
ベルはシルヴィと馬車に乗る。馬車の中で弟と妹の紹介をされる。
「こちらがわたしの弟のニクラウス。今年で8歳。こちらは妹のクララ、5歳です」
「初めまして、ニクラウスにクララ。ベルンハルト・コンスタンツアです」
ベルはそう自己紹介する。本当は君たちのお兄さんになる予定だよと言いたかったが、まだそれは早いと思いとどまった。
「わあ、お姉ちゃまの彼氏、カッコいいです!」
そう無邪気に言ったのは妹のクララ。その笑顔と言葉にベルは思わず頷く。
(うああああ~。クララちゃん、ナイス!)
「クララ、まだお姉ちゃんとベルはそんな関係じゃないわ」
慌てて妹の言葉を否定するシルヴィ。ちょっとベルは悲しくなる。
「え~。でも、お姉ちゃまってベル様とお見合いをしたのですよね。ということは、ベル様がお姉ちゃまの未来の旦那様なんでしょ?」
5歳とは思えない口調でクララがそう言う。ベルはクララを心の中で絶賛応援する。
「クララ、この人はお姉さまのお見合い相手の一人に過ぎないよ」
そう冷たく言い放ったのは弟のニクラウス。相変わらずベルとは目を合わせない。不機嫌そうにそう妹をたしなめた。
「ニクラウス、そんな言い方は失礼ですよ」
シルヴィがそう弟に注意したが、不機嫌そうな弟はベルに対して言葉の拒否を止めない。
「だってそうでしょう。お姉さまは他の貴族からの縁談は引く手あまた。それなのにこんな平民、しかもちゃらい奴はお姉さまにはふさわしくない」
失礼なことを言う弟だが、これに関してはベルも言い訳ができない。外に出るからといつものように護衛侍女のシャーリーズが付き従っている。
いつもの猫耳メイドの格好だ。今は御者と一緒に座っているから目に入らないが、不機嫌そうにやってきたのクラウスはシャーリーズの格好を見て、ますます顔を険しくしていたからだ。
ベルとしてはいずればれるから、今回はシャーリーズを同行させた。シルヴィがクトルフ人であることや、妙な格好をしたシャーリーズを受け入れてくれると確信していたのだ。
「ニクラウス、貴族も平民も関係ないわ。あなたがそんな差別的なことをいうなんて、お姉ちゃんは悲しいよ」
「お、お姉さま、僕はそんなつもりじゃ」
「では失礼なことを言ったことを謝りなさい」
シルヴィの悲し気な言葉にニクラウスは慌てた。そして下を向いて言いにくそうに謝罪の言葉を述べた。
ベルは気にしていないと手を振った。ニクラウスの発言は大切な姉を取られるというところからきているとベルには分かっていた。
先ほどニクラウスが言っていたように、シルヴィにはたくさんの縁談が来ていることは知っている。お見合いもベルの他にもしていると聞いている。
それはベルもエデルガルドとお見合いをしているのだから、お互い様である。そういう状況でニクラウスがベルをあからさまに嫌うのは、あまたの婚約者候補の中で、ベルがトップを走っているということを認識しているからだろう。
大人しい姉で今までボーイフレンドもいなかったのに、こうやってデートに応じるのだから、弟としてはベルを意識してしまうのも分からなくはない。




